第2246話:固有能力あれこれ
「ただいまー」
「ただいまぬ!」
「や、お帰りなさいませ」
ツノオカでの用を終え、ルーネの転移の玉で皇宮に戻ってきた。
サボリ土魔法使い近衛兵が急に畏まってんの笑える。
今日はうちの子達込みだから人数多いし、サボリ君はついて来なくてもいいよ。
お仕事なんだかサボリなんだかよくわからんけれど、転移先ビーコンの位置で立ってろ。
閣下がしみじみと言う。
「ユーラシア君はやはり大したものだ」
「え、とっても可愛いって? 照れるなあ」
「そんなことは言ってないぬ。でも御主人は可愛いぬよ?」
「よしよし、ヴィルも可愛いぞ」
ルーネとクララも混ざってぎゅー。
いい子達だね。
閣下は羨ましそうな顔してもダメだとゆーのに。
「最近ハグが多くないかい?」
「そーなんだよね。クララも混ざってくるようになった。ひょっとすると閣下に『魔魅』をもらったせいかなって考えてるんだけど」
悪魔がぎゅーしたがるのは明らかに『魔魅』のせいにしても、天使や精霊もハグされたがるんだが?
『魔魅』にはハグされたい副作用があるのかと疑っている。
でも閣下はハグに縁がなかったみたいだしな?
レベルのせいなのか、はたまた他の固有能力との相互作用のせいなのか。
固有能力にもわからんことが多いなあ。
「……チャドウ騎士団長の睨みの威圧感はすごかった。予は何もできる気がしなかった」
「私もです。どうしたらいいですか?」
「随分とアバウトに振ってくるなあ。コシキさんに聞いたんだけど、チャドウ団長は『断罪』の固有能力を持ってるんだそうで」
「『断罪』、ですか。レアなんですよね? どんな固有能力です?」
「自分を信じる力が強いほど相手に負けない、みたいな」
「ふうん。わかっていれば対策の立てようはあるな」
その通り。
自分次第で絶対的な効果になり得る固有能力ではある。
が、信念を揺らしてしまえばどうってことない。
人間強いところばっかりじゃないからね。
「詐欺師には弱い能力なんじゃないかな」
「なるほど、だからユーラシア君には通用しないのか」
「その『だから』には著しく納得いかないね」
「納得いかないぬ!」
アハハと笑い合う。
「支配系の固有能力はヤバいっちゃヤバいな。でも支配系の持ち主は何となくわからない?」
「わかる」「わかりますね」
閣下は『威厳』持ちであるプリンスルキウス陛下と、ルーネは『恫喝』持ちの元騎士団長ランプレヒトさんと日常的に接してるから。
「『威厳』や『恫喝』の効果って何となくじゃん? どうにでもなるような気がするがな? 少なくともあたしはあんま気にしたことない」
「ユーラシア君も圧が強いからな」
「そーなの?」
「でも気付けば側にいたという感じですので、全然近寄りがたいということはないです」
自分じゃわからないことだなあ。
「そもそもユーラシア君は、身分の上下でさえ恐れ入ったりしないじゃないか」
「ドーラみたいに身分制度のない国の人間は、支配系固有能力持ちに耐性がある説?」
「無礼な人間は支配系固有能力が通用しないのではないかな」
「おいこら」
「『精霊使い』の効果は絶対的なんだろう?」
うちの子達が揃って頷いてるけど。
「相性はある気がするな。必ずしも全ての精霊がうちに来たいって言うわけじゃないし」
一方で『魔魅』の効果は絶対的で、レベルが上がるほど強くなるんじゃないかな。
でもあたしが悪魔好きだから思うことなのかもしれない。
「対策ってゆーか、自分を強くすることが先決なんじゃないの?」
「はい……固有能力は、どうなんでしょうね?」
「おっ、珍しくルーネが乙女っぽいためらいを見せたね」
「ルーネロッテはいつでも乙女だよ」
「お嬢様っぽいよね」
ルーネの本質は豊かな才能と旺盛な好奇心だよ。
あくまで乙女『っぽい』、お嬢様『っぽい』のであって、正体は間違いなくお転婆だ。
夢見てるのはお父ちゃん閣下だけ。
「固有能力はあくまでもおまけみたいなもんだよ。固有能力持ちって四、五人に一人はいるって話だけど、気付いてない人も多いじゃん」
「ランプレヒト様の『恫喝』はあれほど顕著なのに、本人はわかっていなかったですものね」
「ってゆーあたしも実は、『アトラスの冒険者』になるまで自分が固有能力持ちであることを知らなかったんだ」
「ええ? そうなんですか?」
「意外だね」
「ちっちゃい頃から精霊使いとは言われてたんだけどさ。村の族長だけだったんだよ。あたしが『精霊使い』の固有能力持ちだって知ってたのは。あたしに教えてくんなかったの。ひどいと思わない?」
当時『精霊使い』の固有能力持ちであることを知ってても、だから何だとしか言えなかったけど。
「でも自分が『発気術』の固有能力持ちだと最初から知ってたら、『アトラスの冒険者』じゃなくても戦闘職目指してたかもな」
「自分がどんな固有能力を持っているか知っていることは重要だね」
「うん、人生の可能性が変わっちゃうもんねえ。何歳の時に知るかってのも大事だと思う」
「ふむ、それは?」
「例えばあんまりちっちゃい内に自分が魔法使いだって知ることは、果たしていいことなのかなーって考えることはあったんだ」
他の人に使えない力を持っている高揚感というか万能感というか。
例えば魔法使えるから偉いなんてことはないんだが、自分の世界が狭いと客観視できないからな。
理不尽に暴力的な人間になっちゃいそう。
『強奪』を持ったがために歪んだ将来像を見てしまったのだろう、セウェルス皇子の例もある。
固有能力は人生をいい方向にも悪い方向にも導き得るのだ。
「ドーラのある村では、一四歳成人の時に固有能力を鑑定してもらうんだよ。あれはいい仕組みだな」
「帝国でもそうした仕組みを導入すべきだろうか?」
「人口多いから全員調べるのは大変でしょ。まず『鑑定』の能力持ちの人を洗い出して、鑑定士の免許を発行すればいいんじゃないの?」
国の免許を得た怪しくない鑑定士というものが一般的になれば、自分の固有能力を把握したい人も増えるんじゃないかな。
「ルーネロッテの『風魔法』を発現させてくれたことには感謝している」
「やだなー。あれはたまたまだぞ? あたしが何もしなくても発現する可能性は高かったよ」
さて、近衛兵詰め所だ。
転移の玉を起動し帰宅する。




