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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2243/2453

第2243話:伸び代しかないわ!

 コシキさんの指差す先には……。


「シカの魔物の群れか。あれ? 何か騒いでるみたいだね」

「中心に何かいる」


 何だろ?

 あ、跳ねてる。

 あいつか!


「謎経験値君だ」

「謎経験値君? 人形系の魔物のようだな。しかしあんなにアクティブな人形系は見たことがない」

「『魔物図説一覧』に載ってないから、正式名称は知らないんだ。厄介だな」


 コシキさんが見たことないって言ってるんだから、この辺を生息域にしてるわけじゃない。

 偶発的に湧いちゃったんだろうな。

 おそらくシカは謎経験値君の脅威を本能的に感じ取って、パニック起こしてるに違いない。

 ならばやつがいなくなれば、圧力は減ると見た。

 倒したいが、しかし……。


「……放っといても、謎経験値君がずっと生きていけるほどの魔力濃度があるとは思えんけど」

「じゃあ放置でもいい?」

「相当ヤバいやつなんだ。謎経験値君をまともに倒してるパーティーは、世界中で多分あたし達しかいない。あんなのに関わるくらいなら、放置でも構わないと思う」

「ツワモノユーラシアが言うくらいか。ちなみにどんなふうにヤバいんだい?」

「一〇回に一回くらいの割合で自爆するんだよ。爆発の威力は、無警戒で食らったら団長さんでも瀕死になるくらい」

「え?」

「しかも爆発は衝波属性なんだ。耐性対策はムダ。ダメージ減らそうと思ったらガードするしかない」


 コシキさん唖然としてるけど大マジだぞ?

 高級人形系魔物は面倒なやつが多い。


「……一〇回に九回はどうなる?」

「問答無用で逃げようとするね。ただあたし達には場に干渉して逃がさなくできるパワーカードがあるから、その場合は安全に倒せる。高いやつじゃないけど魔宝玉を四、五個ドロップして、得られる経験値はメッチャ高い」

「一〇分の九の確率で安全なのか」

「謎経験値君に関してはだぞ? 場に干渉ってことはあたし達も逃げられないんだ。本来スタンピードの最中に使うカードじゃない。慌てふためいてるシカが突っ込んできて戦闘モードになったら、全部倒さなきゃならない」

「そ、そうか。じゃあどうする?」


 だから問題なのだ。


「あたし達は世界一の人形系ハンターなので謎経験値君を倒します。勝算もあります。コシキさんがどうするってことを聞きたいんだよね」

「私が? とは?」

「もし謎経験値君に自爆されても、ガードしてればコシキさんはギリギリ生きてる。とゆーかお陀仏でも蘇生できる。一〇分の九の確率で謎経験値君を倒せたら、コシキさんのレベルは一五は上がるよ」

「そ、それほどなのかい?」

「経験値のメリットはひっじょーに大きいね。ドーラの謎経験値君とは地域差があって、爆発の威力が若干大きいとか自爆確率が高いとかがあるかもしれない。かなり危険だし、痛い思いをする可能性は低くないよ。さあ、戦闘に参加しますか? 一旦戻りますか?」

「……参加する。君達が戦うのなら見届ける義務もある」


 よく言った。


「作戦決めるよ。もし自爆が来た場合。戦闘状態は解除されるからヴィルは『デスマッチ』を外してね。全員コシキさんのところに集合してクララの『フライ』で離脱することを優先します。回復はその後、いいかな?」

「「「「了解!」」」」「了解だぬ!」

「そして自爆が来ない場合。アトムが謎君を倒して」

「へい!」


 『アンリミテッド』をアトムに渡す。


「謎君逃げモードの場合は、スタンピードのシカと連戦になる可能性が高い。あたしはあらかじめ『雑魚は往ね』を溜めておきます。ヴィルは『デスマッチ』を外せるタイミングを逃さないでね。クララはあたしが『雑魚は往ね』を使おうがそうでなかろうが、『フライ』で逃げられればそうして」

「「「「了解!」」」」「了解だぬ!」

「よーし、行くぞお!」


 着地してレッツファイッ!

 謎経験値君は逃げようとするが逃げられない! ダンテの実りある経験! ほう、コシキさんに経験値をサービスしてやるつもりか。アトムの通常攻撃! 謎経験値君を倒した。第一ラウンド終了だ!


「フライ!」

「あっ、逃げられるじゃん。何だ、余計なこと考えなくてもよかったな」


 クララが『雑魚は往ね』撃ちますかって顔してるけど撃たない。

 ムダな殺生は好きじゃないし、今日はもうたくさんお肉食べたし。


「いっぺんにメチャクチャレベルが上がった。自分のレベルがわからなくなったよ。こんなことが起きるとは……」

「よくあるよくある」

「ないよ!」

「ドーラでは日常茶飯事なんだけどな。とりあえずリフレッシュ! えーと、ギルカはどこだと。あった。ぴたっと掌当ててみ?」

「こうかい?」

「おめでとうございます。レベルちょうど五〇です」

「信じられない……」

「事実だとゆーのに。でもこれが一〇分の一の確率で自爆に巻き込まれちゃったりすると、どえらい痛い目に遭う上に経験値もパーだったわけだ」

「運が良かったのか」

「とゆーか、運が悪くなくてよかったねっていう」


 計算上の成功率九〇%だもんな。

 普通ならこうなってた。

 あたしの主人公補正が一〇分の一の確率を引いちゃうかなーと思ったけど、平穏無事でした。


 しかしスタンピードに巻き込まれなかったのは運がいいのか悪いのか。

 シカの数をもう少し減らしとくのがいいかもしれない。

 が、謎経験値君がいなくなれば、むやみと渓谷駆け上がってきて柵ガンガンすることもないんじゃないかな?

 貴重でおいしいお肉とも言えるので要経過観察。


「君達のレベルが妙に高い一端が垣間見えたな」

「一端じゃなくて全部だと思うけど」

「しかし、君のレベルは特別に高いんだろう?」

「あたしのレベルは一五〇なんだ。レベル上限が一五〇になる固有能力持ちだから」

「普通はレベル上限が一五〇になる固有能力持ってても、何の役にも立たないからな?」

「すげえラッキーだよねえ」

「せっかくの固有能力がそんなやつじゃ、普通はアンラッキーなんだよ!」

「伸び代が大きいと思えば」

「伸び代しかないわ!」


 気の持ちようでラッキーなんじゃないかな?

 ポジティブシンキングはひっじょーに重要。


「最後に魔宝玉を回収したら帰るよー」


 どーしたダンテ。

 何か不満があるようだね。

 え? 謎経験値君じゃなくてシルバークラウンだって?

 今更過ぎてビックリしたわ。


 クララの高速『フライ』でびゅーん。

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