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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2241話:用件より大事なこと

 チャドウ団長があたしに聞いてくる。

 雰囲気が和やかになったから、随分話しやすくなったわ。


「君は魔物退治を生業としているという。しかし剣ダコも拳ダコもない綺麗な手をしている。先ほどの身のこなしはどう見ても前衛の動きだ。魔法使いではないのだろう?」

「魔法使えないことはないけど、戦闘時に使ったことはないな」


 前にも似たようなこと言われたことあったわ。

 モイワチャッカのカムイ隊長だったな。

 戦いに身を置く男達は見るところが違うなあ。

 言われりゃ言われるほど、傍から見てあたしの怪しいところってのが理解できる。

 参考になるわ。


「ドーラにはこういうものがあってさ」

「カード?」

「パワーカードって言うんだ。持ってる人が魔力を流し込むと、刃とかが具現化する装備品だよ。こんな感じ」

「ほう!」


 騎士団長さんすげえ興味ありげだな。

 起動してみたら大喜びやんけ。

 男の人はどーゆーわけかパワーカードが好きだよな。

 軽いから女の子向きだと思うけど。

 

「あそこトンボが飛んでるじゃん? 見ててくれる? よっと」

「おお、見事! 四ヒロはあったろう?」

「パワーカードには色んな種類があってさ。組み合わせて使うんだよ。刃を作ってるカードと射程を伸ばすカードは別なんだ。一〇ヒロくらいは届くの。団長さんも使ってみる?」

「うむ、ぜひ!」


 ハハッ、子供みたいに目を輝かせてんの。


「七枚まで一度に起動できるんだ。これはあたしが普段使いしてる一揃いね」

「これは……頼りないというか、感覚が非常にわかりづらいな」

「普通の武器を使ってる人はそう言うね。だからかもしれんけど、これドーラでもあんまり流行ってる装備品ではないんだ」

「む? 照準がついてるわけでも命中率が増すわけでもないではないか。さっきの飛び回るトンボを落とすようなマネが何故できる?」

「その辺は慣れとゆーか根性とゆーか。本来はこの射程を伸ばすカード、離れたとこにいる大型魔物を安全に攻撃するためのものだそーな。あたしの使い方はおかしいと、他人に言われることはあるよ」

「ふむ、なるほど。面白いな」

「刃にも秘密があるんだ。衝破属性が乗ってる特注品でさ。だからこそ人形系の魔物を簡単に倒せるの」

「実に面白い」


 パワーカードを返してくれる団長さん。


「そこでツワモノユーラシアに折り入って相談があるのだが」

「何だろ?」


 全然こちらの用件に入れんな。

 しかし閣下が口を挟んでくる気配がない。

 どうもこの騎士団長さん、何かの支配系固有能力持ちみたい?

 当たり前っちゃ当たり前だが、叩き上げの偉い人には支配系の能力持ちが多い。


「スタンピードだ」

「ヤバいなー」


 魔物が大発生して押し寄せるスタンピードか。

 こういう魔物の生息域と人間の居住域の境で起きるとたまらんな。

 まー魔物退治なんかあたしの十八番だ。

 あとでスムーズに話をするために、協力するのはやぶさかではないよ。


「地図を見てくれ」


 ふむふむ、あたしの持ってる地図よりツノオカについてはよっぽど詳しいな。

 今いるマヒルニィがここでと。

 団長さんが一点を指差す。


「現在ここで魔物との攻防が行われている」

「えーと、北の山脈までがツノオカ領なんだね?」

「さらに北に平原があって、渓谷で交通している」

「とゆーことは、平原の魔物が渓谷を通って人間の住むところまで押し寄せている?」

「そういうことだ。今は渓谷の入り口で食い止めてるが、何かの拍子に破られると危ない」


 ふうん、あんまりありそうじゃない事態だな。

 山脈を国境にしてるのに、魔物が来ちゃうのか。

 スタンピードは災害だってことがよくわかるわ。


「何体くらいの規模なの?」

「推定だが八〇〇〇~一万二〇〇〇頭規模だと思われる。去年の夏は実りが多かったから、今年の大発生に繋がってるんだろうな」

「実り? あっ、草食魔獣なんだ?」

「エルダーヘラジカだ」

「早く言ってよ。今日のお昼御飯どうしようかと思ってたんだ。シカのステーキにしよう」

「ハハッ、頼もしいな」

「ヴィル、北の渓谷入り口まで飛んでくれる?」

「わかったぬ!」


          ◇


「御主人!」

「よーし、ヴィルいい子!」


 渓谷の入り口のところまで転移してきた。

 飛びついてきたヴィルとルーネをぎゅっとする。

 不思議そうな面持ちの騎士団長さん。


「ほう、これが?」

「ドーラの転移術だよ。ヴィルと転移術のおかげであたしは世界中のどこへでも行けるんだ」

「ツワモノユーラシアに相応しい技だな。ついて来てくれ」


 あれ、柵の方ガタガタやってんじゃん。

 マジで魔物に破られそうだ。

 ヤベーな。


「うわ、角デカっ!」

「身体もデカいだろう? 様子を見に来てよかったな。最終防衛ラインまで後退しているとは。危ないところだった」

「あっ、団長! 申し訳ありません!」

「助っ人を連れてきた。ドーラの冒険者ユーラシアだ」

「ドーラ?」

「話はあとだよ。昼御飯の確保が先だ。これ全部倒しちゃっていい?」

「可能か?」

「うん。あ、柵開けなくてそのままでいいよ。溜めて溜めて雑魚は往ねっ!」

「おおっ!」


 バタバタ倒れる二〇頭ほどのエルダーヘラジカ。

 驚愕の皆さん。

 しかし?


 団長さんが感心している。


「素晴らしい腕前だ。今の技は何だ?」

「あたしのレベルより低い敵は全部倒せるっていうバトルスキルだよ。ちょっと理屈がよくわかんないんだけど、擬似即死効果が入るんだよね。ボスには効かないし、溜め技だから出が遅いっていう欠点はあるよ。でもノーコストだから撃ち放題。こーゆー柵のあるところから撃つのは最適」

「ハハッ、ほぼ全ての魔物を一網打尽か。ツワモノユーラシアに最適なスキルではないか。それにしては浮かない顔だが?」

「せっかくのシカが傷だらけだからさ」

「そりゃこっちも必死で防衛してるからな」

「毛皮ボロボロになっちゃうし、お肉も不味そう。あのシカは散発的に今くらいの群れで来る感じなのかな?」

「うむ」

「じゃ、攻撃はあたしが担当するね。この辺り冬寒そーだから、毛皮も重要なんでしょ? 傷つけずに倒せるよ」

「よし、任せた。おい、前線の陣地を再構築するぞ」

「「「「はっ!」」」」

「ヴィル、事情話してクララ達呼んできてくれる? 昼こっちで食べようって」

「わかったぬ!」


 通貨単位統一の件はどうしたって?

 昼御飯の方が重要なんだわ。

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