第2240話:団長登場
「団長!」
「あっ、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
何だ、思い通りにならないなんてことはなかった。
最短で騎士団長に会えたじゃないか。
さすがあたし。
しかし目の前の五〇絡みの大柄の男は、胡散臭そーな眼差しをあたしに向ける。
何でだ?
おいこら、美少女をそんな目で見るんじゃない。
「……君は?」
「ドーラの美少女精霊使いユーラシアだよ」
「ドーラ?」
「去年カル帝国から独立した外洋の国だよ。地図で見るとここ」
「ほう、かなり詳細な地図だな。ドーラ……かなりの遠国で、大陸が丸ごと一国なのか」
「ノーマル人は大陸の南の一部にしか住んでないんだけどね」
国のトップともなれば地図に興味があるのはわかる。
でもツノオカってツワモノ重視の国じゃなかったのか?
ちょっとわけがわからんけれども、勝手に紹介を続けよっと。
「こっちが悪魔のヴィル。そっちがカル帝国の先帝の第二皇子ドミティウス殿下とその娘ルーネロッテ皇女ね」
レベル七〇近いと思われる騎士団長さんは疑わしげな顔を崩さない。
いやまあ疑わしいことには違いないか。
転移術を知らないと特にな。
どーやって身分を証明すればいいかな?
騎士団長さんが、ついて来た副官に重々しげな声を発する。
「コシキ」
「はっ!」
「相手せよ」
「了解です」
「えーとそれは、あたしと模擬剣による試闘をしてみろ。実力をハッキリさせろってことで合ってる?」
このコシキという従者も上級冒険者レベルはありそう。
つまり勝てばあたしを認めてくれるってことなんじゃないかな。
ようやく理解しやすい展開になってきたわ。
「その通りだ。怖気づいたか」
「何でだ。よくあることだから構わんわ。あたしの方から一つ要求があるよ」
「言え」
「あたしは模擬剣をあんまり使ったことがないんだ。無手でいいから、そっちのコシキさんがあたしに撃ち込む前に、あたしがコシキさんを持ち上げたら勝ちでいい?」
「そんな条件は聞いたことがないぞ」
ようやく騎士団長さんの表情が緩む。
いや、ここ広いし足元もしっかりしてるからね。
あたしの実力を何故か疑ってるやつらに負ける気なんか、これっぽっちもないんだが。
ハハッ、ルーネがワクワクしてるわ。
「あたしはいつも大体そーゆー条件で勝負してるんだ」
「面白い。構わんから始めろ」
レッツファイッ!
ふいっとフェイント入れてくるっと後ろへ回って持ち上げる。
「あいうぃーん!」
「コシキ、何をやっている!」
「そ、そんなはずは……」
「何度でもどーぞ」
お父ちゃん閣下とルーネがワクテカしている。
二人似たような表情だなあ。
閣下にこの手の模擬戦を見せるの初めてだったかしらん?
エンターテインメントとして結構面白いでしょ?
「先ほどは油断した」
「そお?」
今度はちょっと慎重だな。このコシキという人、まともならルーネと同程度か少し上くらいの実力があると思うけど、内心の動揺が隠せてないですよ。
突きからの横薙ぎ、常套手段ですね。
くるっと後ろへ回って持ち上げる。
「あいうぃーん!」
「ば、バカな……」
「まだやる?」
「もうよい。失礼した。つまり君のレベルは見たままなんだな?」
「どーゆー意味かわからんけど、団長さんのレベルならあたしの実力くらいわかるでしょ?」
「レベルの偽装が横行したことがあってな」
「レベルの偽装?」
実際のレベルより過大に見せたり誇張したりする固有能力があるらしい。
マジか、知らなかったわ。
「偽装者に隊を任せて大損害を出したこともある。少々過敏になっていた」
「いや、納得したわ」
あたしも人死にとか大損害とか大嫌いだわ。
注意して当然の状況だった。
「大体どこでも美少女が遊びに行くと歓迎してくれるのに、今日は不審者みたいに見られるから何事かと思った」
「ハハハ、すまんな。突然理屈に合わないレベルの少女が登場、見た目隙だらけでは、新手の詐欺能力を疑うのもムリはなかろう?」
「隙なんかねーよ! 自然体なだけだわ!」
「うむ、よく見ればその通りだな」
満足げに頷く団長さん。
難しい人かと思ったが、よく見ると可愛い目をしている。
「ツノオカ騎士団領を与るチャドウだ。ツワモノユーラシアを歓迎する。よろしく」
「よろしくね」
軽く握手する。
団長さんは何かレアな固有能力持ちだ。
そのせいか少々話の主導権を握りにくいな。
「君のレベルはどうしたことだ?」
「用件の前に話題がレベルの方行っちゃうのか」
ツワモノ重視の国だけあるなあ。
とゆーかあたしの怪しさが抜けてないのか?
まだ疑ってる?
「ドーラにも魔物が多いんだ。ここは魔物を追い出して可住域を広げてるみたいだけど、ドーラには魔物の生息域に魔物除け使ってムリヤリ住んでるようなところもあるの。ツノオカに比べても魔物が身近だと思う」
「ほう?」
「お肉とは骨皮付きでその辺を歩いてるものだとか、失礼なことするとドラゴンのエサにするぞ、でもあたしは慈悲があるからレッドドラゴンのエサかアイスドラゴンのエサかは選ばせてやる、みたいなジョークがあるよ」
「ハハッ、面白いな」
そのジョーク使ってるのはユーラシアさんだけですよね、みたいな顔をルーネがしてるけどまあ。
「あたしは冒険者なんだ。ドーラによくいる、魔物の生息域にあるアイテムや素材なんかを回収してくるお仕事。当然魔物退治は日常茶飯事なの」
「かもしれんが、君のレベルの説明にはならないだろう?」
「人形系の魔物っているじゃん?」
「滅多に出ない、踊る人形みたいなやつだな?」
「そうそう。うちのパーティーは高級魔宝玉を可能な限りたくさん持ってこいっていう依頼を請けてて、その関係で人形系を狙って狩ってたんだよね。レベルが上がっちゃったのはおまけみたいなもん」
「非常識な依頼と非常識な解決手段だな」
笑う団長さん。
ドーラでもうちのパーティー以前には、人形系は遭遇したら逃げるもんだったらしい。
非常識ってのはわからんでもないな。
ペペさん以外の高レベル者はデカダンスを倒す手段を持ってるんだろうけど、積極的に倒しに行くのはあたし達が初めてだったんだろう。
今後はドーラの冒険者の常識になりますよ。
「もう一つわからないことがある。君は丸腰に見えるんだが?」
ああ、なるほど。
あたしは怪しいポイントが一杯あったな。




