第2239話:フラグの立て過ぎ
「ツノオカはあんまり他所の国と付き合ってないみたいだよねえ。ルールがよくわからんから、間違ってたら教えてね」
「了解です。ところでユーラシア様は、本日は外交関係の御用向きでフォドにおいでになったのですか?」
ようやく本題だ。
「世界の通貨単位を統一して、商売をやりやすくしようっていう考え方があるんだよ。具体的にはテテュス内海諸国で使われているギルと帝国ゴールドを統一することになったから、ツノオカの偉い人にも話を通しておきたいの」
「よって騎士団長に会いたいということですな」
「そゆこと。ツノオカに関しては地図もいい加減でさ。フォドしか載ってないの。だからとりあえずフォドまで来て聞こうと思ったんだ。団長さんどこにいるかわかる?」
「さ、それは……」
逡巡する所長。
「秘密だったりする?」
「いえ、特に秘密などということはないです。しかし魔物被害の多いこの時期は、団長は忙しくあちこちへ行かれていると思いますので」
夏だもんな。
魔獣や植物系、昆虫系の魔物の活動は活発な季節だし。
「団長自ら魔物退治の指揮を執るんだ?」
「団長は総指揮を担っておいでです。全てではないでしょうが、団長自ら直接指揮を執ることも多いと聞きます」
「ふーん、困ったな?」
「マヒルニィまで行けば詳しいことがわかると思いますが……」
「マヒルニィ?」
地図に載ってないな。
どの辺だろ?
「人口規模でフォドに次ぐ大きな町です。騎士団の本部が置かれています」
「ふつーの国で言うと首都みたいな町ってことだね?」
「地図でこのあたりになりますが」
「ふんふん、北へ強歩五、六日ってとこかな? 国境に近いね」
「国境の外には魔物がおります。魔物の被害が出やすいのが国境近辺なのです」
「なるほど」
ちょっとイメージが違った。
ドーラ西域みたいに魔物がいるのが常態で、魔物除けを使って住んでるのかと思ってた。
けど完全に魔物を外に追い出してるんだな?
「わかった。所長さんありがとう。今からマヒルニィの騎士団の本部行ってみる」
「えっ? 今から? い、一体どうやって?」
「あたし達はツワモノだから、その辺はどうにでもなるんだ」
「どうにでもなるぬよ?」
「そ、そうですか」
「ヴィル、マヒルニィへ飛んでくれる? ツワモノがいるかもしれないから注意するんだよ」
「わかったぬ! 行ってくるぬ!」
掻き消えるヴィルにポカーンとする所長さん。
一応説明しとこ。
「ドーラには転移術とゆーものがあるんだ。ヴィルが目印置いたところにはあたしも行くことができるの」
「ほう、さすがはツワモノですな。驚くべき技術です」
何かツワモノってだけで全部の話が通っちゃうな。
いいんか? これで。
簡単に納得してもらえるのはありがたいけれども、逆に不安になってくるわ。
赤プレートに反応がある。
『御主人! ビーコンを置いたぬ!』
「ヴィルありがとう。そっち行くね。所長さん、またね」
新しい転移の玉を起動する。
◇
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルとルーネをぎゅーするいつものやつ。
いつものやつなんだから、閣下はそう恨めしそーな顔すんな。
悪いことしてる気になるだろーが。
「フォドと比べると随分気温が低いな」
「そうだねえ」
夏は過ごしやすいところだ。
そして町の門番さんがこちらを凝視しているんだが?
「こんにちはー」
「あ? ああ、こんにちは」
「親切にここがマヒルニィの騎士団本部だと教えてくれたんだぬ」
「そーだったか。どうもありがとう! ツノオカ来たの初めてだから土地勘がなかったんだ」
悪魔であってもツワモノだから親切にしてくれたのかな?
にこっとスマイルをお見舞いしたら、門番さん腰が引けてやんの。
美少女の笑顔がこういう場面で使えないのは納得いかんのだが。
現状ビビらせる役にしか立ってない。
「君達は一体……」
「カル帝国の使者だよ。騎士団長さんに会いに来たんだ」
「その子は高位魔族なんだろう?」
「そーだよ」
「そーぬよ?」
「冗談みたいなレベルの悪魔だと思ったら、君のレベルはもっと高いようじゃないか。その悪魔は君の使い魔なんだな?」
「まあそう。ヴィルはうちの子」
「わっちの御主人だぬよ?」
何を具合悪そうにもそもそしているのだ。
「正直……君達を通していいか、小官には判断がつきかねるのだが」
「あれ、ひょっとして刺客とかを疑われてる?」
「ではないのだが」
「内容を聞かせろってことかな? 今度テテュス内海諸国で使われているギルと帝国ゴールドを統一することになったから、ツノオカのトップの人に報告に来たんだよ」
「もっともらしい話だが」
「本当だぞ? これ疑われると困るんだけど」
ジロジロ見るなとゆーのに。
とゆーか美少女を見る目じゃないな?
もう一つ何を不審がられているのかわからんのだが。
「君のレベルは?」
「一五〇だよ」
「レベルの上限は九九だろう?」
「あたしはレベル上限が一五〇になる固有能力持ちなんだ。で、レベルカンストしてるから」
「あり得ないだろう!」
すごくストレートにあたし自身が疑われていたでござる。
確かに実際に魔物と戦ってレベル上げの大変さを理解している人からすると、あたしみたいなピチピチギャルがレベルカンストしてるなんて信じられないかもしれんわな。
レベルを疑われたのはボニー以来だな。
でもこの門番さんなら、あたしの実力くらいわかりそうなもんだがな?
「このままでは通せぬ」
「ええ? じゃああたしの得意技を披露するよ。ルーネ閣下、手伝ってくれる?」
「はい! アレですね?」
「そう。アレ」
「私、初めてなんです。嬉しいです」
「そーだったっけ?」
「すごく嫌な予感がするのだが」
閣下正解。
門番さんを捕まえてせーのっ!
「ほいほいほいっと」
「ぎゃああああああ!」
「うわああああああ!」
「あははははははは!」
門番さんと閣下は悲鳴上げてるけど、ルーネは大喜びだ。
三人を下に降ろす。
「い、今のは?」
「人間お手玉だよ。見たことない技でしょ? あたしの身分証明に使ってるんだ。で、どーだろ? これであたし達を通してくれる?」
「通せるか!」
「あれえ?」
予定と違う。
ここにきて思った通りにならないぞ?
やりやすいやりやすいってフラグを立て過ぎたか。
「何の騒ぎだ!」
偉そーな人登場。
誰だろ?




