第2238話:あたしより強いやつに会いに来た!
「フォドの発酵干物は美味いとわかった。おっちゃんありがとう」
「いやいや、何の何の」
干物工場のおっちゃん得意そう。
かなりクセが強いけど、美味いことは美味いのだ。
やみつきになる人もいるだろ。
「あたし達もただふらりとツノオカ来たわけじゃなくてさ。騎士団長さんに会いたいんだ」
「おっ、俺より強いやつに会いに行くって言葉通りの展開かい?」
「ええ? 戦闘民族御用達みたいな言葉が、ツノオカじゃ日常茶飯事に使われてるのかよ。いや、あたしより強いやつを探そうと思うと、それだけでライフワークになっちゃいそーじゃん? あたしはムダなことはしない」
「おお? どえらい格好いいセリフじゃないか。覚えておくよ」
干物工場のおっちゃん喜んでる。
あたしにとっては単なる事実だけどな。
ツノオカでは勇壮なセリフが好まれるのかしらん?
さすが強き者を持ち上げる国だなー。
あたしにとってはやりやすいと思うけど?
「団長殿がどこにおられるかは下々の者じゃわからんな。役場で聞いてみるといいんじゃないか?」
「フォドの役場か。そうだね」
「町役場までは少し距離があるが、すぐそこに商工を取りまとめる出張所があるよ」
「ありがとう、行ってみる」
出張所へゴー。
「まだ臭いです」
「海からの風が吹いてるもんなー。でも干物はかなり美味かったよ。あの味が出せるなら臭いも許容できるくらい。できるかな?」
「あはは、どっちなんですか」
「どっちもだぬ!」
何だ、どっちもって。
可愛いやつめ。
ぎゅっとしたろ。
「ドーラに取り入れようとはしないのかい?」
「ドーラは近海が魚人の領域だから、ずっと海のものがタブーだったんだよね。だから魚自体をあんまり食べないんだよ。ようやく最近フライが受け入れられてきたくらいで。あんな人を選ぶもんを普及させるのは難しいな。優先順位は低い」
「ふうん、ユーラシア君は、自分が食べてみようとすることと導入しようとすることは違うのか」
「食と商売は別だね」
わざわざ強烈に臭いもんを持ち込むと、観光客に嫌がられるかもしれないしな。
外貨を獲得するためにイメージアップの方が大切なのだ。
嗅覚刺激対決ならば、発酵干物よりかれえの方に何百倍も力を入れたい。
かれえの香りは刺激的で素晴らしいから。
「ここが出張所か。こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
にっこり微笑む受付のお姉さん。
「こんにちは、どうされましたか?」
「あたしより強いやつに会いに来た!」
「所長に御用ですね? 御用件は?」
「あたし達はカル帝国の使者なんだ。ツノオカの偉い人と話がしたいの」
「カル帝国の? ええと……あっ! あなた様のレベルはっ!」
ビックリしてら。
このお姉さん素であたしの実力がわかるほどじゃないから、多分『サーチャー』の固有能力持ちなんだろうな。
なるほど、強い者が偉いみたいな社会だと、『サーチャー』持ちは優遇されるのか。
面白いな。
ちょっと念を入れとこ。
「わかるね? 帝国はツノオカに最大限の敬意を表してあたしを派遣した」
「は、はい……」
「強い者に会わせてもらおうか」
「はい、応接間にどうぞ」
応接間でミントティーが出される。
ミントってどこにでもあるんだなあ。
ビシバシ増えるもんな。
閣下が聞いてくる。
「さっきのは何だい?」
「強き者に会わせろってやつ? マジで高レベル者が偉いって国みたいだから、一番話が早い気がして」
「強い者が権限を持ってるとは限らないだろう?」
「かもしれんけど、ツノオカの常識がわかんないからな? だったらあたしのカンで動く、イコールトントン進むって気がするの」
「ふむ、そうか」
こんな理屈で納得してしまう閣下とルーネ。
全然根拠なんかないからね?
おっと誰か来た。
この出張所の所長かな?
「お待たせいたしました……うおおおおお?」
「どうかした?」
「あなた様は紛れもなくツワモノ!」
「紛れもなくツワモノだよ」
「紛れもなくツワモノだぬよ?」
うん、この所長は中級冒険者くらいのレベルがある。
あたしを見れば大体のレベルを把握することはできるだろう。
今のところレベルの高い人ほど上の地位にいる説が当てはまるな。
「失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「あたしはドーラの美少女精霊使いユーラシアだよ。こっちがうちの子のヴィル」
「悪魔のヴィルだぬよ?」
「あたしはカル帝国の施政館参与っていう役職に就いてるんだ。そちらがカル帝国の先帝の第二皇子ドミティウス殿下。やはり施政館参与で、あたしとコンビであちこちに派遣され、外交関係の仕事を任されることが多いの。その向こうがドミティウス殿下の娘ルーネロッテね」
「受付職員の報告によるとユーラシア様のレベルは一五〇だとか。いかなる理由で?」
「あたしは『限突一五〇』っていう、レベル上限が一五〇になる固有能力が発現しているんだよ。多分レベルだけなら世界で一番高いと思う」
「なるほど、だから高レベルの魔族を従えることができると」
とゆーわけではないんだが説明が面倒だ。
黙って頷いておく。
「カル帝国にはユーラシア様のようなツワモノが何人もいらっしゃるので?」
「いや、帝国で一番レベル高い人は七〇くらいだって聞いたな。ドーラにはレベル九九カンストしてる人が何人かいるんだよ」
「何と!」
「ドーラは魔物が多い国なんだ。ツノオカと似てるのかもしれないね。地図だとここ」
「ふむふむ、ドーラという国は知りませなんだが、尊敬すべき国ですな」
「去年の暮れにカル帝国から独立したばっかりなんだ。よろしくね。そーだ、ツノオカは国じゃなくて共同体だって聞いたよ。国って言っちゃうと怒られるのかな? 作法がわかんない」
「ユーラシア様のようなツワモノが何を言ったところで怒られはしませんが」
笑う所長。
「ツノオカには人は国なりという考え方があるのです。人が集まって国になるのだという考えをお持ちならば構いませんが、国の下に人があるという考えは不快で馴染みませんな」
「私の好きな考え方だった。教えてくれてありがとう」
「何の何の。ユーラシア様に感謝されるなどとは面映いです」
マジでレベルが高ければ尊敬される国じゃねーか。
すげーやりやすいんだが。
さてと、大体ツノオカのノリについては把握した。
団長のいるところを聞いておくか。




