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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2235話:もおと鳴く

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。


「連想ゲームでーす!」

『何だ何だ?』

「と言いながらエンターテインメント性を嗅ぎつけるサイナスさんなのでした」

『そういうのいいから!』


 あたしはそーゆーのが好きなのだ。

 せっかくの夜寝る前のひと時を、少しでも充実させようというウルトラチャーミングビューティーの心意気を感じてください。


「『ウシ』という言葉から連想することを答えてください。複数回答可でーす」

『ウシか。ならば牛乳、バター、大きい、白の民、糞、もおと鳴く』

「最後の可愛かったね」


 もおと鳴くか。

 ちょっとツボだ。

 クララが嬉しがりそう。

 

『で、今のゲームは何なんだい?』

「ダン知ってるでしょ? 冒険者の」

『ああ、いかにも冒険者らしい人だよな』

「ダンは『オーランファーム』っていう、レイノス近辺で一番でっかい農場のボンボンなんだよ」

『ほう? お坊ちゃんには見えなかったが』


 確かに。

 おまけに本人は冒険者じゃなくて情報屋を名乗ってるしな。

 まあいずれは『オーランファーム』を継ぐんだろう。

 ダンの情報を拾い集めようとするスタンスは、きっと農場を大きく発展させると思う。


「明後日農場のウシをまとまった数屠殺するらしくて、おすそ分けをくれるって言うんだ」

『よかったじゃないか。君プレゼントは大好きだろう?』

「いいはいいんだけどさ。何くれるのかなーって気になっちゃって」

『聞けばいいじゃないか』

「何となく卑しそーな感じがしない? 聖女にそんな属性をつけたくないとゆーか」

『君よくプレゼントを寄越せの受けつけてるの言うじゃないか』

「当然くれなきゃいけないものとそうでないものは違うじゃん」

『我が儘だなあ』

「知ってる。あたしのごまんとある長所の一つ」

『我が儘は長所の内なのか』


 サイナスさん呆れてるけど、自分の要求を認めさせようとする行為は重要なのだ。

 いや、我が儘の話じゃなくて、メインテーマはウシなんだってば。


「ダンはあたしのお肉好きを知ってるけど、農場の利益を激減させてまであたしにお肉を寄越そうとするわけないしな?」

『激減って。君どれだけ肉食うつもりなんだ』

「そーいやさっきサイナスさんはお肉っぽいワードを連想しなかったね」

『そうだったかな?』

「この草食男子め」


 だからお嫁さんが来ないのだ。

 反省しろ。


「で、サイナスさんはどう思う? ダンは何をプレゼントしてくれるつもりだろ?」

『君がたくさん食べることも知ってるんだろう?』

「うん。しょっちゅう奢らせてるから」

『ああ、そういう前提があるのか』

「え? 前提関係ある?」

『サプライズで驚かせたい男心というものがある』


 あれ、いつもあたしが乙女心攻撃してるから逆襲してきたぞ?

 しかし確かにダンはサプライズとかやりそーなやつなんだよな。

 だからあたしも何くれるか気になっちゃうわけだが。


『例えばウシの角とか』

「あれ、やっぱり角ってセンはあり得るのか。でも角なんか食べられないだろーが」

『帝国では加工品にされるだろう? 残念ながらドーラではその手の加工業は発達していないが』

「そーなの? ウシの角って何になるの?」

『櫛とか印鑑とかアクセサリーとかか。君も帝国の役人なんだろう? 今後印鑑を使う機会もあるんじゃないのか?』

「かもしれないなあ」

『立派な角をもらえれば立派な印鑑が作れるね』


 ふーん?

 角も案外悪くない気がしてきた。

 とゆーかウシの角の加工産業も興さないといけないな。


『でも普通に考えれば売り物にならない肉をくれるんじゃないか?』

「だよね。うんうん」

『ユーラシアがどう調理するかを観察して、売り込み方を考えるとか』

「ありそーだな」


 ダンも商売っ気があるからな。

 いずれにしても利用価値がありそうだけれども、今のところ有効な利用法のないものをくれるんじゃないかってことか。

 楽しみだなあ。


『今日新『アトラスの冒険者』の立ち上げだったんだろう? その報告はないのかい?』

「特別なことはなかったんだよ。アレクからある程度のことは聞いてるかと思って」

『ある程度以上のことを聞こうか』

「あれ、エンターテインメントを追究する姿勢が顕著だね」


 これが成長か。

 サイナスさんはあたしが育てた。

 違うか。


「ルーネを新『アトラスの冒険者』の一員にする関係で、お父ちゃん閣下も連れてったんだよ。まあ本人が立ち上げ式に参加したいって言ったからなんだけど」

『皇女過保護案件だな?』

「そーだろうと思う。ところが『アトラスの冒険者』は皆、ドーラ独立の経緯を多かれ少なかれ知ってるじゃん?」

『ははあ、独立戦争時の帝国の第一人者であったドミティウス皇子殿下は、『アトラスの冒険者』にとって憎悪対象であったと』

「ちょっと不穏な空気になりかけたね。閣下は今でもドーラの敵みたいな意識があたしになかったから、恨まれてることに気付かなくてさ」


 こーゆーのはあたしの良くないところかもしれない。

 ちょっとだけ反省。


『でもドーラには結局ほとんど被害がなかったじゃないか。『アトラスの冒険者』にもわかってるだろうに』

「うん。お父ちゃん閣下が戦況を見切って、すぐドーラを独立させる方針に切り替えてくれたからってこともあるんだけどね。そうでなくとも戦後のドーラの発展には帝国との協力体制が欠かせないから、お父ちゃん閣下と対立するなんてのは論外だった」

『ユーラシアの敵味方に節操がないというか、使えるものは全部使う姿勢も良くないんじゃないか?』

「良くないことないわ。あたしのごまんとある長所の今日二つ目だわ」

『いつもの調子でメリットを並べ立てて説得したんだろう?』

「まあそう」


 お父ちゃん閣下の評判が悪いと、ルーネまで色眼鏡で見られちゃうからな。

 ルーネのためにもドーラのためにもよろしくないのだ。

 通貨単位統一委員会の副委員長である閣下は、いずれしょっちゅうドーラに来ることになると思われる。

 意識してあたしが間に入って融和を試みないと。


「サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『了解だぬ!』


 明日は強者を尊重してくれそーな国ツノオカか。

 ハッハッハッ、あたしを崇めるがよい。

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