第2223話:ナチュラルに情報を流す
「ユーラシアさん、イシュトバーンさん!」
「密会ですか逢引きですかスキャンダルですか?」
「記者さん達、久しぶりだね」
昼御飯を堪能したので、ビバちゃんとハーマイオニーさんを送った。
今は通貨単位統一についての報告のために行政府へ行く途中だ。
早速新聞記者ズに捕まった。
閣下が言う。
「ドーラの新聞記者か?」
「そうそう。こちら帝国のドミティウス殿下とルーネロッテ皇女ね」
「「へへーっ、平にお許しを!」」
「とんでもなく馴れ馴れしくて無礼だと思ったが、そうでもないな」
「よく躾けられているんだよ。あたしの仕込みがいいから」
アハハと笑い合う。
新聞記者ズはいいところに来たな。
今日は大ネタがありますよ。
読者が喜ぶネタかどうかはわからんけど。
「この時間だと、レストランドーラ行政府ですか?」
「今日はイシュトバーンさんとこで食べてきたから違うんだ。行政府へは単なる報告だよ」
「「報告?」」
「以前各国の通貨単位を統一できるといいねって話をしたじゃん? あれが進んでいるの」
「ユーラシアさんの夢みたいな話だったでしょう? 実現は遠そうじゃなかったですか。進んでいるんですか?」
「うん。帝国とガリア、アンヘルモーセン、フェルペダっていう影響力の大きい四ヶ国の了解が取れたよ」
「「えっ?」」
素早い展開に驚いたか。
いや、通貨単位統一については、最初チラッと話しただけなのに各国が乗ってくれることは、あたし自身がビックリしてるところはあるけど。
実にありがたいのだ。
「昨日アンヘルモーセンの首都シャムハザイで、帝国ガリアアンヘルモーセンの外相級会談があった。大筋決まりだね。フェルペダへは今日の午前中に説明してきたとこね」
「え、ええと……」
「組織名は『通貨単位統一委員会(仮)』ね。名目上のトップがあたし、事実上のトップが副委員長のドミティウス殿下。本部事務局はドーラに置かれることが決定」
「ちょ、ちょっと待ってください」
メモが遅いわ。
油断してるからだ。
「今の帝国ゴールドの価値で名前がギルになるって方向で調整が進むよ」
「ええと、となるとドーラへの影響はどうなります?」
「今ゴールドって呼んでるのがギルになるよ。通貨の価値は一緒だからそれだけ」
民間への影響はね。
実際には通貨単位統一委員会への分担金があるだろうけど、頑張って稼がないとな。
事務局の場所の提供と各国への連絡で働けば少しは負けてくれるだろ。
「正確には『ユーラシアギル』だ」
「「えっ?」」
「現在北方で使われているギルと価値が変わっちゃうから、区別が必要なんだよね」
「その通貨の名前はあんたがゴリ押したのか?」
「ちがわい。あたしは外相級会談には参加してなかったわ。閣下、ユーラシアギルって名前はどこから来たの?」
「ピエルマルコ王の推薦でな」
「やっぱガリアの王様かー。変なサービスしてくれようとするんだよ」
でもユーラシアギル悪くない。
あたしも満足。
「通貨単位の統一というのは、元々ユーラシアさんの思いつきではないですか」
「そーだね」
「どうしてこんなに早く現実味を帯びてくるんです?」
様々な事情があるんだが。
「ラッキーが重なったね」
「ラッキーですか?」
「まず帝国は新しい皇帝が立ったから、意欲的なことしたいっていう思いがあるじゃん?」
「わかります」
「自国がギル使ってて帝国との貿易額が多いガリアは、通貨単位統一で一番の受益者になるでしょ?」
「そうですね」
「帝国~ガリア間の交易開始やサラセニアクーデターの対応で失点してるアンヘルモーセンは、支持層である商人や天崇教の喜ぶ通貨単位統一を推進したい。っていう各国の思惑が実現に向かわせたんだよ。ちなみにゴールド通貨圏であるフェルペダには、商圏が広くなり得ることに反対する理由がないね」
「なるほど……」
「今から行政府に、帝国ガリアアンヘルモーセンの三ヶ国会談で通貨単位統一について大筋がどうなったかっていう、報告しに行くところなんだよ」
「それはそれとしてユーラシアさん。『アトラスの冒険者』についてですが」
「話題の転換が急だね」
『アトラスの冒険者』について聞きたかったのか。
明朝正式発表だし、明日の新聞の見出しになることなら言っちゃって構まわんだろ。
「廃止になるという噂を聞いたんです」
「誰に聞いても口を閉ざして教えてくれないので……」
「改組するんだ。現行の『アトラスの冒険者』は来月飽魚の月末で廃止、新『アトラスの冒険者』に置き換わりまーす」
「何が変わるんです?」
「運営元が変わるんだよ。今までは赤字でも本部がおゼゼ出してくれてたけど、今後は独立採算制になるの」
「今までの本部というか、スポンサーはどなただったんです?」
「そこは言えないところなんだなー。ごめんね」
異世界がどうの今までの転移転送システムが使えなくなるのって情報はいらんだろ。
とゆーか『アトラスの冒険者』自体が胡散臭く思えちゃうから話せない。
「これ廃止一ヶ月前の明日発表の予定だったんだ。だから秘密だったの」
「ああ、そういうことでしたか」
「明日の新聞に載せるのはいいけど、一応それまで内緒ってことね」
「「わかりました」」
「明日の朝ギルドで新『アトラスの冒険者』立ち上げ式やるから、取材したいならどーぞ」
これでナチュラルに新『アトラスの冒険者』のことが知れ渡るだろ。
これまでとほぼ変わらないということは行動で示せばいい。
「冒険者側で大きく変わることといえば、自薦が可能になるよ」
「自薦? 自らの意思で『アトラスの冒険者』になれるということですか?」
「うん。今までは本部が勝手に決めてたけど、今後は『アトラスの冒険者』になりたきゃなれる道はあるってこと。採用基準は甘くないよ? 上級冒険者レベルで素行のいい人限定になる」
メッチャ厳しいわけでもない。
人形系を容易に倒す手段がある今、塔の村のダンジョンで真面目に数年冒険者してれば基準を満たしそう。
「以上でーす」
「ありがとうございました。そうだ、『神話級魔物を倒してプリンセスをゲットしました』という本、あるじゃないですか。数日で完成本ができ始めるそうです」
「ほんと? ありがとう!」
ビアンカちゃんの本か。
できたら買いに行こ。
「またねー」
「バイバイぬ!」




