第2220話:肉と脂の使者のもの
フイィィーンシュパパパッ。
「ここが?」
「エルフの里だよ。森エルフの方ね。洞窟エルフには会ったことないからわかんない」
「驚くほど大きな木が、こんなにたくさん……」
ルーネビバちゃんハーマイオニーさんヴィルを連れてエルフの里へやって来た。
ここは木がデカいから、まずそれに圧倒されるよな。
荘厳とか神聖って言うより、自然の驚異とゆーのがピッタリくる。
門番に挨拶。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「精霊使いのお客人か。いらっしゃい」
「ワイルドボア飼育の様子とかを見に来たんだよ……。ってどうしたの? 何かあった?」
「わかるかい? 最近族長が元気なくてな」
「アビーが?」
何事?
アビーなんて妙なハイテンションくらいしかいいとこないだろーが。
まさか夏バテなんてことはないだろうしな?
「肉を食わせろと」
「実にアビーらしい理由だったわ」
「せっかく肉を飼ってるんだから、少しくらい食べてもいいだろうと。背中の部分でいいからと」
「何を言ってるんだまったく。まだ飼育実験の最中だろーが。食べちゃダメだわ」
「食べちゃダメだぬよ?」
本当は脂の乗ってるお腹の部分を食べたかったんだろうな。
背中で妥協するとゆー気持ちがわかってしまう。
実にアビーらしい言い様だなあと思う。
でもアビーの気持ちがわかっちゃうってどうなんだ?
人間としてダメなような気もする。
ビバちゃんが言う。
「ねえねえ、そのアビーというのが?」
「森エルフの族長だよ。エルフ史上最高の魔道士とも言われる、生ける伝説的な族長ではあるんだけど、性格はビバちゃんといい勝負」
「内向的で慎ましやかってことね?」
「あれ? ビバちゃんかなり成長したね。エンタメ方面で」
アハハと笑い合う。
ルーネもかなり楽しんでくれてるみたい。
ヴィルがぴとっとくっついてるわ。
「来てよかった。お土産にお肉を持ってきたんだ」
「助かる! おーい、テラワロス! 客人を案内してくれ」
やる気なさそうなタレ目エルフが現れた。
久しぶりだな。
「ユーラシアさんじゃないですか。そちらは?」
「帝国のルーネロッテ皇女と、フェルペダっていう遠い国の王女ビバちゃんにその教育係のハーマイオニーさんだよ」
「これは大変遠くからようこそ」
テラワロ君、案外如才ないな。
とゆーか要領はいいやつなんだよな。
「アビーにお肉の禁断症状が出てるって聞いたんだ。合ってる?」
「そうなんですよ。最近暑い日が続くでしょう?」
「夏だからね。涼しい日が続いたら秋の実りが心配になってしまうわ。ところで暑い日が何か関係あるのかな?」
「スタミナを落としがちな暑い日こそ、肉を食べて元気にならなければいけないと、強硬に主張するのですよ」
「一理あるね。でも寒い日は寒い日で同じようなこと言ってるんでしょ?」
「その通りです」
さすがアビー。
お肉に対して妥協がないなあ。
ため息を吐くテラワロス。
「夏は近場にウサギや鳥くらいしかいなくてですね。でも族長はたくさん脂の乗った肉が好きでしょう?」
「アビーだしな。ウサギや鳥では満足できないかも」
「ねえ、あなた。鳥の肉はおいしいでしょう?」
「ビバちゃんがそー言いたくなるのはわかる。でも野生の鳥は、飼育下のものほど脂が乗ってないんだよ」
「そうなの?」
そうそう。
あんまり待たせてもいけない。
アビーのところへゴー。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「待ち焦がれたその声こそ、肉と脂の使者のもの!」
「お肉と脂の使者ユーラシア参上だぞー! お土産のおにーく!」
「ついに私は勝利したっ! たくさんのお肉を勝ち取ったっ!」
「今日は骨も持ってきたんだ。よーく煮てスープにするとおいしいよ」
「ありがとう、心の友よ! 肉の友よ!」
「ごゆっくりー。テラワロ君借りるね」
族長宅を後にする。
何故って、あの状態のアビーと話なんかできるわけないだろ。
首がずーっと厨房の方向いてるもん。
嗅覚というか、鼻の呼吸に全集中だもん。
ビバちゃんとルーネが聞いてくる。
「ねえねえ、今のが伝説の族長なの? 言ってはいけないのかもしれないけど、エルフはあれで治まるものなの?」
「私もそこは疑問に思いました」
「統治者目線で実にいいね。いや、アビーもおかしいくらいの才能と実力を持ってるんだけど、族長っぽくはないんだな。番頭格のカナダライさんって人がしっかりしてるから、エルフはまとまってる感じ。そーいやカナダライさんはどうしたの?」
「肉狩りの遠征に出ておりまして」
「あ、なるほど。アビーの我が儘の影響だったか」
「おかげでぼくが族長の世話係を仰せつかったんです」
「災難だねえ。でもたまには働きなよ」
テラワロスだって戦力になるだろうにな。
遠征に連れてってもらえず貧乏クジ引かされたのは、おそらくカナダライさんの期待が込められているからだ。
アビーの無茶もある程度流せるだろうとね。
ハーマイオニーさんが言う。
「三角の建物が特徴的ですね」
「森エルフの伝統的な建築ですよ。構造が簡単で風に強いんです」
四角い建物に比べて内部が狭く感じる。
が、質素でものをあまり持たないエルフの事情に合ってるんだろうな。
さて、着いたぞ。
「こちらがワイルドボアの飼育場です」
「とても可愛いです!」
「これは魔物なんですか?」
「まだ魔物だな。累代飼育していくと段々邪気が抜けていくんだよ。そーするとどこでも飼える家畜になるから、各地で普及させようと思ってるの。カル帝国でブタって呼ばれてた高級肉はアールファングっていう魔物を家畜化したもので、このワイルドボアとは近縁種に当たるんだ。その内アールファングの家畜化もしたい」
「魔物の家畜化ですか。画期的な試みですね」
「四つ足!」
「四つ足だね。今日のお昼御飯に食べるコブタマンの肉はブタに似てるそーな。コブタマンは四つ足だけど二足歩行だな」
「えっ? 四つ足だけど二足歩行?」
ハハッ、混乱してる内に食べさせてしまう作戦だ。
コブタマンが美味いのは絶対に間違いないって。
「飼育は順調かな?」
「そうですね。カナダライさんが、飼育下ではエサが多いせいか性成熟が早そうだと言ってました。冬にも孕むんじゃないかと」
「わかった。また時々来るから、問題起きたら教えてね」
よしよし、いいね。
転移の玉を起動し帰宅する。




