第2219話:く、くま?
振り返るとそこには……。
「あっ、バルバロスさん! こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「く、くま?」
「うーん、残念。似てるけど違う。バルバロスさんはドーラ西域の実力者だよ」
相変わらずデカい。
暑苦しいからヒゲは剃ればいいのに。
豪快に笑うバルバロスさん。
「ガハハ。そちらはどなただ?」
「帝国のルーネロッテ皇女とフェルペダの王女ビバちゃん。その教育係のハーマイオニーさんだよ」
「フェルペダ?」
「地図だとここ」
ナップザックから地図を取り出して見せる。
大きな体を揺すってしきりに感心するバルバロスさん。
「ほう、これはよくぞ遠くからいらっしゃった」
「あちこち案内してあげようかと思ってるんだ。ドーラはあんまり見どころがないじゃん? でもザバンのお茶は最高だからさ。ここ連れてきたんだ」
「そうだったか。己も茶をしばきに来たのだ」
「夏はザバンの超すごいお茶に勝るものはないよね」
ヴィルも含めて皆が頷いとるわ。
おいしいもんなあ。
休憩には茶処ザバンへよーこそ。
「そーだ、バルバロスさん。これあげるから検証してくれないかな?」
「む、何だ? 石?」
「強力な魔物除けだよ。西域街道に埋まってる基石と同じタイプ」
瞠目するバルバロスさん。
「西域街道に魔物除けが埋まっているというのは、作り話じゃなかったのか? ドーラ黎明期にそれだけのことができたとは思えんのだが」
「あれ? 一般には作り話と思われてるのか。本当のことだよ。ドワーフに聞いたんだ。当時ヒバリさんっていう冒険者から、これと同じ碧長石を使った魔物除けを大量に注文受けてるの」
「伝説の冒険者ヒバリか!」
うむ、バルバロスさんもヒバリさんのことは知っている。
西域では有名なのかもしれない。
ヒバリさんのパーティーにはドワーフもいたって話だから、当然伝手はあったろうからな。
ん? ビバちゃんどうした。
「ねえあなた。ドワーフとはこの前会わせてもらった亜人のドワーフのことよね?」
「うん。肌の色は濃くて背は低めでがっちりとした体つきの亜人。土と岩の民を自称してるけど、ドワーフって言っても怒りゃしないよ」
「チラッと挨拶したくらいだったから、よくわからなかったのだけれど」
「この前はお肉持ってっただけだもんな。石工がすげえ得意で、ノーマル人じゃとてもできないような細工もしてくれるんだ。あたしも時々注文してるの」
「伝承ではドワーフは気難しいと聞いたことがありますが」
「そーゆーポーズを取りたがるね。皮肉な態度で腕の安売りはしねえ、みたいに威張るの。でもお酒とお肉が大好きだから、お土産にお肉持ってくとすぐ宴会になっちゃうよ」
頷くバルバロスさん。
「ドーラには様々な亜人がいるのだ。彼らともよき隣人として、良好な関係を結ばねばならん」
「亜人はあたし達の知らないことを知ってるし、持ってない技術を持ってるんだよ。ぜひとも仲良くしたいねえ。一方でドーラの首都レイノスには亜人差別もあってさ。これ何とかしなきゃいけないってのは、ドーラの大きな問題点の一つなんだ」
「他にどういう亜人がいるの?」
「あたしが会ったことあるのは、ドワーフ以外だと獣人、森エルフ、魚人だな。あと亜人の範疇に入るかわからんけど赤眼族。皆仲良くしてもらってるよ」
「ユーラシアは亜人との交流もトップランナーだな。その他ドーラにいて確認されているのは洞窟エルフ、有角族、吸血族、矮人、鱗人だ」
矮人、鱗人ってのは知らなかったな。
『亜人の習俗』を読んでたクララなら知ってるんだろうけど。
いつかは会ってみたいものだ。
まだまだドーラにも楽しみがたくさん残っている。
「矮人というのは小人のこと?」
「ガハハ、まあ小さいな。背の高さは己の半分より少し大きいくらいだ」
「あれ、小人ってほど小さくないんだな?」
「巨人はいないの?」
「いるけど巨人はただ力任せに殴りかかってくる魔物だぞ? 全然話通じない」
「巨人は亜人ではないな。おお、そうだ。ユーラシアはゴブリンと意思疎通できるそうではないか」
マウ爺に聞いたのかな?
「まあ。でもゴブリンにも種族があるっぽいよ。どのゴブリンとも意思疎通できるかはわかんない」
「ゴブリンって、いわゆる小鬼のゴブリン?」
「うん。邪気があるから魔物は魔物だけど、割と可愛い。あたしが遭ったのは木の上に家を作るタイプのゴブリンだよ。かなり友好的で文化的」
「ガハハ、ゴブリンを可愛いなどと言ってるのはユーラシアだけだ」
「人間が魔物化するとゴブリンになるのでしょう?」
「えっ?」
初めて聞いたぞ?
笑うハーマイオニーさん。
「そういう言い伝えがフェルペダにはあるのですよ。子供の躾で、悪い子はゴブリンに生まれ変わるとよく言われるんです」
「大変だ! ビバちゃんが首ちょんぱのあと、ゴブリンになってしまう!」
「ならないのですわっ!」
「救われないなー」
「救われないぬ!」
大笑い。
ビバちゃんがプンスカしてるが、こんなことで怒るなとゆーのに。
そんな心の狭いことでは来世ゴブリンになるぞ?
「で、バルバロスさん。さっきの魔物除けの石の話の続きだけどさ。使ってみて欲しいんだ」
「大きさが違うのがあるではないか」
「それ、大きさによって効果が違うんだそーな。もちろんでっかいやつが効果高い。南部への街道通すのに、どれくらいが一番都合がいいのかを知りたいの」
「うむ、ユーラシアの心意気はよおくわかったぞ。任せよ」
「お願いしまーす」
「この魔物除けは量産できるんだな?」
「できる。石の入手の目処も立ったんだよ」
今日はラッキーだ。
うまいことバルバロスさんとコンタクト取ることができた。
南部街道の実現が早まるだけでなく、バルバロスさんなら西域の現実に即した魔物除けの使い方も考えてくれるに違いない。
「さて、行こうか。バルバロスさん、じゃーねー」
「バイバイぬ!」
「次はどこへ行くんですの?」
「決めてないな。お昼までもう少し時間あるし、何かリクエストある?」
「亜人を見てみたいんですのよ」
「んー見世物ではないけど……」
しかし気持ちはわかる。
貴重な勉強でも経験でもあるしな。
ドワーフには会ってるから……。
「じゃあ森エルフのとこ行こうか」
ブタ飼育の様子も見たいしな。
転移の玉を起動し、一旦ホームへ。




