第2218話:ビバちゃんを連れて
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
フェルペダの王宮にやって来た。
飛びついてきたヴィルとルーネ、ついでにビバちゃんをぎゅーする。
今日は宰相グラディウスさん、モイス内務官、ハーマイオニーさんがいる。
グラディウスさんがいるのはありがたいな。
それだけビバちゃんの絵に懸ける期待が大きいということだな?
しかしグラディウスさんは意外そうだ。
「ドミティウス殿ではないか。いかがされた?」
「以前少々お話しした通貨単位統一についてですよ。昨日わがカル帝国とガリア、アンヘルモーセンとの間で通貨単位統一についての話し合いが持たれましてね」
「ほう?」
「ぜひフェルペダにも初めから理事国として参加してもらいたいので、急ぎ詳しい資料を持ってきたのです」
「おお、そうでしたか。商業の活発化はもとより、遠方のこれまで全く接点のなかった国々と交流できるのではないかとのことで、我が国でも注目されておったのです」
よーし、グラディウスさんのこの表情なら、フェルペダも間違いなく参加してくれるだろ。
テテュス内海と東方は押さえたも同然。
外洋諸国には帝国及びその植民地と付き合いのある国から、徐々に広げていけばいいな。
それとも理事国の四ヶ国で仕様が定まったら、いっぺんに各国に知らせるのかな?
ハハッ、あたし忙しくなりそう。
楽しみだなー。
「おっちゃん、完成したビバちゃんの絵だよ」
「「「「「「おお!」」」」」」
三枚の絵を皆さんガン見です。
それだけの魅力が十分にあるから。
「えっちぃのは嫌いです!」
「ビバちゃんはえっちと見るか。イシュトバーンさんの基準からすると、これはさほどえっちじゃないよーな?」
「でも相当ですよ?」
「ふむ、素晴らしい。上々の仕上がりだ!」
「ユーラシア君、これはどういうことだい?」
あ、お父ちゃん閣下は知らなかったか。
とゆーかルーネは話してないのか。
「ビバちゃんはフェルペダで評判が悪いじゃん? フェルペダだけじゃなかったわ。お天道様が地を照らすところ全てで評判が悪いじゃん?」
「そこまでではないのですわっ!」
アハハ。
でもカムイ隊長やリリーが知ってたくらいだぞ?
結構外国にも広がってる話。
「可愛い絵を新聞に載せてヘイトを和らげよう、ビバちゃんのファンを増やそうっていう戦法だよ」
「うまくいくのか?」
「使いどころを間違えなければ。イシュトバーンさんの描く絵は、目が離せなくなっちゃうじゃん? 確実に国民の目に触れる機会は多くなるよ。あとはどんな情報を同時に配信するかと、実際のビバちゃんの心がけ次第」
「ひやあ!」
だから踊るな。
愉快な生き物め。
「ユーラシア、感謝するぞ。モイス殿。絵の保管をお任せしてよろしいかな?」
「承りましたぞ」
「謝礼のオリーブの苗だ」
「ありがとう!」
おりいぶは実からいい香りの油が取れる、暖地に向いてる有用植物だ。
ドーラの気候には合ってるはず。
油は腐りにくいし、大量生産できれば輸出品としても有望だね。
メッチャ楽しみ。
お父ちゃん閣下が言う。
「予は通貨単位統一について説明していくが、ユーラシア君達はどうする?」
「遊びに行ってくる。昼前に戻ってくるね」
「わかった」
「ハーマイオニーさんも一緒に行こうよ」
「よろしいのですか?」
「もちろん」
ビバちゃんの教育係であるハーマイオニーさんには、あたしがビバちゃんに何をしてるかを知っていてもらいたいということもある。
「じゃ、行くよー」
転移の玉を起動し、一旦ホームへ。
◇
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
ザバンにやって来た。
ヴィルルーネビバちゃんをぎゅー。
ハーマイオニーさんが周りを見渡している。
「ここは?」
「ドーラの自由開拓民集落の一つだよ」
「自由開拓民集落とは何でしょう?」
おおう、自由開拓民集落もドーラ独自のものだったわ。
説明っと。
「ドーラは首都レイノス以外では基本的に戸籍や税金がないんだ」
「戸籍がない。なるほど」
「だから勝手に村作っちゃったりするのがありなの。それを自由開拓民集落って呼んでる」
って聞くと無法者の国みたいに聞こえるな。
「ああ、ドーラは近海が魚人の領域だから港が一つしかない。それを逆用して貿易手数料を政府が管理しているのでしたね」
「うん。で、このザバンにはドーラの主要輸出品に今後なるだろうものがあるんだ。それを紹介するね」
まあルーネは飲んだことあるけどな。
軽食屋へゴー。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「よっ、精霊使いのお嬢さんか。いらっしゃい」
「大将こんにちはー。例のお茶五人分お願いしまーす」
代金を支払う。
ビバちゃんが聞いてくる。
「ねえねえ。お茶がその主要輸出品なの?」
「まだ生産量が少ないから、主要って域まで達してないけどね」
「ドーラでお茶はそんなに珍しいものなの? フェルペダや周辺国でもかなり生産されてるのだけれども」
「お茶は暖地でしか生産できないでしょう? ドーラのメインの貿易相手国は、国土が比較的涼しめのカル帝国です。だから有望なのでは?」
「まー合ってるんだけど、ザバンのお茶はわけが違うんだ」
「わけが違う?」
「お待たせいたしました」
スリのシルヴァンがお茶を持ってきてくれた。
まず飲んでみそ?
「ふあっ!」
「何なの何なの何なのこれ!」
「随分繰り返すね。大事なことだから三回言ったのかな?」
相当驚いたろ。
「ビバちゃんが今まで飲んだことのあるお茶とは別物でしょ?」
「まるで夢心地! まるで桃源郷! まるでファンタジー!」
奇妙な踊りを披露するビバちゃん。
この踊りは精神的に追い詰められた時に出るもんなのかと思ってたけど、そうでもないんだな?
コ―フンした時かな?
「これは世界一じゃないかって言われてるお茶だよ」
「蕩けるような旨みと甘み、驚きました……。世界一の名に恥じない素敵なお茶です」
シルヴァンが笑う。
「このお茶は特別なんだ。でもその特別さを理解して、真の味を引き出すのに成功したのは精霊使いなんだぜ?」
「どういうことですの?」
「このお茶の旨み成分は雑味に弱いんだ。魔法で出した水じゃないとダメ。しかも煮出すと飛んじゃうから水出しじゃないとダメ」
「繊細なのね? でもおいしい……」
「ユーラシアではないか」
ん? この美少女の名を呼ぶのは誰だろ?




