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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2217/2453

第2217話:冗談でも縁起でもないぬ!

 フイィィーンシュパパパッ。


「おっはよー」

「おはようぬ!」

「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」


 ニコニコのサボリ土魔法使い近衛兵。

 ふむ?


「どうやらお父ちゃん閣下は上機嫌ということみたいだね?」

「ああ、わかるかい? 詰め所でルーネロッテ様と談笑されている」

「ルーネと? あれ、珍しいな」


 とゆーかおかしいな?

 普通に考えりゃあの二人に妥協点があって仲良し、ってことなんだろうけど……。


「……妥協点が昨日今日で見つかるもんかな? どこかに勘違いがある可能性が高いような」

「ということはつまり?」

「よからぬことが起きる。天変地異の前触れかもしれない、なんてね」

「冗談じゃない! 縁起でもないよ!」

「冗談でも縁起でもないぬ!」

「嵐が来るぞお!」


 アハハと笑い合う。


「つまりルーネとお父ちゃん閣下のメリットが珍しく一致したとゆーことだな? よく解釈すれば」

「メリットって何の?」

「心当たりが二つあってさ。昨日ルーネが、カルテンブルンナー公爵家マヤリーゼさんのお茶会に参加したのは知ってるよね?」


 お父ちゃん閣下は知らなかったみたいだけど。


「もちろん」

「ハムレット君×ルーネのセンがなくなったんじゃないかな」

「だからドミティウス様の機嫌がいい?」

「これは間違いないと思うね」


 ハムレット君はカルテンブルンナー公爵家の後継ぎであるし、ルーネとは相性がいい。

 傍から見れば即決まってもいいくらいの話ではある。

 ところがお父ちゃん閣下は、ルーネに婚約者なんてまだ早いと考えている。

 特に仲の悪いウルリヒさんの息子となんてとんでもないと。

 ルーネもあんまり乗り気じゃなかったし、おそらくやんわり断ってきたんじゃないかな。


「もう一つの心当たりは何だい?」

「明日まで一応秘密にしといてね。実はルーネを『アトラスの冒険者』にしようと思ってさ。お父ちゃん閣下の許可も取った」

「えっ?」


 これは驚くだろ。


「ルーネロッテ様も君のようにあちこち行けるようになる?」

「いや、『アトラスの冒険者』自体が改組されるんで、そこまで自由にはならない。とゆーかあたしがあちこち行けるのは、ヴィルのおかげが大きいんだってば。でもルーネも皇宮とドーラを行き来できるようにはなるよ」

「ドミティウス様がルーネロッテ様の冒険者活動を許すとは……」

「あ、そこにはちょっとカラクリがあってさ」

「カラクリ?」

「通貨単位統一委員会の本部事務局がドーラに置かれることになったから、副委員長のお父ちゃん閣下も時々ドーラに来なきゃならなくなるじゃん? ルーネを便宜的に『アトラスの冒険者』にして転移の玉渡しとくから、ルーネに送り迎えしてもらってねって言ってあるの」

「……そうか。ルーネロッテ様に送り迎えしてもらえるのは嬉しい。しかしドミティウス様は、冒険者活動自体を許したつもりはない?」

「ルーネは冒険者活動を許してもらったと思い込んでるんじゃないかな。とゆー齟齬があると考えると、理屈が通ってスッキリする」

「で、でお二人の談笑ってことになるのか。ええ? 全然スッキリしないよ。嵐の予感が……」

「だからあたしが言ってんじゃん。嵐が来るって」


 ルーネの冒険者活動なんて規定路線みたいなもんだ。

 お父ちゃん閣下が文句言おうが、いずれそうなっちゃうんだから観念すりゃいい。


「……あれ? 談笑って言ってなかった?」

「言い争いしているようだな」

「嵐だ嵐」


 近衛兵詰め所からルーネと閣下の声だ。

 皇族らしからぬヒステリックな声だが?


「おっはよー」

「おはようぬ!」

「ユーラシアさん!」


 ルーネが飛びついてくるけど、ヴィルが来やしない。

 ルーネの感情が高ぶってるからだ。

 どうした?


「お父様がひどいのです! 私に冒険者活動を許さないと言うのです!」

「まーお父ちゃんの心情を考えればわかる。べつにルーネは冒険者活動しなきゃいけない立場にはないんだから、好き好んで危ないことしなくてもいい」

「ユーラシアさん!」

「閣下がルーネに言いたいのは、危険なことはすんなとゆーことなんでしょ?」

「そうだ」

「あたしから見てルーネはひっじょーにセンスあります。魔境とかのヤバい魔物じゃなければ大概一人で勝てるよ。でもやっぱ経験足りないからどーかな? って思うことはある」

「……」

「一方で危険を察知する感覚を磨くためには、魔物の生息している環境に接して、ヒリつく緊張を覚えることが必須なんだよね」

「ユーラシアさんは魔物と対してヒリつくなんてことがあるんですか?」

「ないけれども」


 おいこら、いらんことを聞くな。

 あたしの言うことに信憑性がなくなるだろーが。


「よってルーネが一人で魔物退治することを、当面は禁じます。でも訓練の継続は必要です。あたしか、そうでなくば優秀な従者がついてるリリーやフィフィと一緒に活動するといいよ。閣下、以上の条件を満たせばいいかな?」

「あ? ああ」


 閣下がやや渋い顔してるけど、この辺が落としどころだぞ?

 ルーネを籠の中で飼おうとするのは、嫌われるからやめなさい。


「ところで明日、新『アトラスの冒険者』立ち上げ式なんだ。転移の玉を販売するので、道場休みで悪いけど、ルーネも来てくれるかな?」

「はい!」

「じゃ、明日の朝迎えに来るね。閣下も来る?」

「待ってくれ。転移の玉は買えるのか?」

「新『アトラスの冒険者』のメンバーと職員みたいな、信頼できる関係者だけだぞ? こんなヤバいアイテムを誰にでも売るわけないだろーが。ルーネに売るのだって、こっちで根回しが必要だったわ」

「そうだろうな……いくらなんだ?」

「三万ゴールドでーす。七日後に移民の開拓地を広げるための一斉魔物退治の日があるんだけど、それに参加してくれれば二万ゴールドにまけまーす」

「バカげたアイテムの割にバカげて安いんだね」


 帝国の皇族から見ればバカ安かもしれんね。

 けどドーラ人はさほどおゼゼ持ってるわけじゃないから。


「どーする? 明日閣下も来る?」

「行こう」

「うん。どんな人がメンバーだか、閣下の目で観察するといいよ。『アトラスの冒険者』になるような人はできる子が多いからね。おゼゼを忘れずに用意してくださーい」

「うむ」

「よし、ヴィル。フェルペダのビバちゃんとこ行ってくれる?」

「わかったぬ!」

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