第2208話:ガツンと横撃を加えてやる
フイィィーンシュパパパッ。
「オニオンさん、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「いらっしゃいませ、ユーラシアさん」
イシュトバーンさん家で軽くお昼をいただき、デニスさん父子とルーネを送ってから魔境にやって来た。
相変わらず働き者のあたし。
こーゆーとこを神様は見てるから、あたしにおもろいイベントを振ってくれるんだろうな。
やや神妙な顔付きの魔境ガイドオニオンさん。
「今日もベースキャンプ南の探索ですか?」
「いや、ワイバーンの卵が欲しいから、ワイバーン帯に行く。明後日使うんだけど、明日忙しくて時間がなー。魔境レジャーランドに来られるかどうかわかんないの」
「そうでしたか」
ワイバーンならぴー子も食べるしな。
オニオンさんが言う。
「新『アトラスの冒険者』の件ですが」
「うん、何だろ?」
「ユーラシアさんは、現在のドーラノーマル人居住区以外にも広げたいという考えなんですか?」
あ、おっぱいさんから魔王島のザップさんや赤眼族のミサイル、帝国人のルーネを入れたいってことを聞いたらしいな。
「いや、新『アトラスの冒険者』も基本ドーラの組織という考えは変わらないな。魔王島や赤眼族はドーラの経済圏でいいと思うんだ。ルーネは通貨単位統一機関の事務局をドーラに置く関係があるから特別」
あんまり積極的に他所の人を入れようという気はなかった。
メリットデメリットを共有する仲間だけだ。
「ユーラシアさんはどういう人がメンバーだといいとお考えです?」
「信頼できる人であるのが条件の第一だね」
頷くオニオンさん。
『アトラスの冒険者』は選定の段階で道徳心のない人を排除してると、バエちゃんは言っていた。
正職員であるオニオンさんも、当然同様のことを聞いているだろう。
「やっぱドーラの治安に関わってるからさ。いくら実力があってもいかがわしい人はちょっと。あたしのように清く正しく美しくあれとまでは言わんけど」
「言い過ぎだぬ!」
アハハ。
ヴィルをぎゅっとしてやる。
「で、実力があることは第二の条件になるかな」
「上級冒険者近い実力ということですか?」
「旧『アトラスの冒険者』からの持ち上がりじゃなくて、新規にメンバーに入れたい人がいたら、レベル三〇以上を必須とするでいいんじゃないかな。レベル足んないけどメンバーに入れたい人がいたら、レベル上げしてやりゃいいんだし」
「『アトラスの冒険者』が上級冒険者揃いなんて、一年前には考えられないことでしたよ。目覚しい進歩ですねえ」
「ほんとだ。考えてみれば大したもんだねえ。ドーラすげえ」
あたしが『アトラスの冒険者』になった時点での上級冒険者って、シバさんデミアンゲレゲレさんマウ爺お兄さんズくらいか。
今は『アトラスの冒険者』正規メンバーだけでその倍の数がいる。
またパーティーメンバーや塔の村の冒険者を加えるとさらにずっと多くなる。
あたしも最初はレベル二桁を目標にしてたんだっけ。
レベルが上がるとやれることはどんどん増えていく。
つい一年前とは隔世の感があるなあ。
「今後塔の村出身者が多くなると思うんだ。向こうで上級冒険者になって他の冒険者からの評判悪くなかったら、新『アトラスの冒険者』に誘ってやればいいと思うの」
「画集の三人娘以外にも有望な塔の村冒険者がいますか?」
「塔の村で最も勤勉な四人パーティーってのがいるな。拳士、剣士、ヒーラー、魔法使いの。最近会わないけど、彼らなら遠からず上級冒険者になりそう。それから『フィフィのドーラ西域紀行珍道中』の著者の元悪役令嬢が、毎日きちんとダンジョンに潜っててさ。実に頼りになる執事がついてるから、こっちも有望」
そーだ、あの塔の上層階にはヒットポイント四のブロークンドールが出るんだったな。
そろそろ対人形系魔物スキル『ビートドール』をデス爺に紹介しておかねば。
欲しくなる冒険者もいるだろう。
「エンジェル本部所長のライバルって人に会ったよ。ある程度情報流してくれそう」
途端に空気が張り詰める。
「ライバル……どういう立場の方です?」
「えーと、向こうの世界の法律作る組織のナンバーツーって話だったな。『アトラスの冒険者』と直接の関係はなくて、エンジェル所長とは年齢が近くて同じ女性だから意識してるってことみたい」
「なるほど。では情報は得にくいですか?」
「『アトラスの冒険者』本部の動きはなー。核心に迫る情報は難しいかもね。でも面白いことがわかったよ。塔の村の精霊使いエルを取り返せってのは、向こうの世界の神様の意向で間違いない。『アトラスの冒険者』が廃止されると亜空間超越移動ができなくなるから、それまでに必ずエルを取り返すために何かしてくるな」
考え込むオニオンさん。
「……エルさんを守るというのが、ユーラシアさんの考えなんですよね?」
「進んだ世界の人がいる方が、こっちの世界にとって得だからね」
「『アトラスの冒険者』を動員してでも抵抗すべきですか?」
あれ? オニオンさんたらとってもアグレッシブじゃん。
あたしにそこまでの考え方はなかったな。
「いや、これはあたしの自己満足みたいなもんなんだ。もしエルが連れ戻されたとしても、こっちの世界に不利益はないでしょ? 向こうの世界の進んだ文化を知ってる新『アトラスの冒険者』のメンバー候補っていう、プラスアルファ要素がなくなるだけ。誰かに力借りることはあるかもしれないけど、皆でどうこうってのはないな。ケガするとバカバカしいから」
「バカバカしい……ですか」
「うん。とゆーかこっちが警戒態勢見せてて向こうがスーパーなテクノロジーで攻撃なんてことになると、被害規模が予想できなくなっちゃう。損なことは嫌い」
こっちは何も考えてませんよーって油断させといて、ガツンと横撃を加えてやるのがいい。
一回で勝負をつけるのが最高だな。
何度も攻撃を食らうと、どうしても『アガルタ』のスーパーテクノロジーに対抗できなくなりそう。
苦しい戦いは趣味じゃない。
「得になるようにあたしの個人プレイで行く。向こうの世界から情報を得る術が増えたってことだけ、おっぱいさんに伝えておいてよ」
「わかりました」
「行ってくる!」
「行ってくるぬ!」
ユーラシア隊及びふよふよいい子出撃。




