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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2206/2453

第2206話:オレは宮廷魔道士になる!

「すごい香りだ!」

「そうでしょ? 特別香りの強いやつだよ。お気に入りなんだ」


 開拓地から帰ってきた。

 あたしん家でキーファー君に魔境で取ってきたタイムの匂いを嗅がせている。


「こっちも変わったハーブなんだ。ヴォルヴァヘイムで見つけたやつ。ミントやタイムの仲間ではあるらしいけど」

「香りが柔らかい……甘い?」

「ちょっと嗅いだことのない香りでしょ? 多分新種。ハーブティーにしても香りを裏切らない甘みを感じるよ」

「ふうん。こっちのも見たことがない」

「エルフの族長お勧めのレモンバーベナだよ。ヴィクトリアさんも知らなかったから、あんまり知名度ないやつだと思う」

「オレも知らなかった。料理や食草に関する本は手当たり次第読んでるんだが」

「大事なことは本に書いてないのだ」


 大事なことこそ本に残して欲しいのになあ。

 知識の共有がなされてないからだ。

 本で大体の知識を得られる時代はまだまだ遠そう。


「キーファー君は最近帝都でも発売された、『簡単スイーツレシピ集』って本は知ってる?」

「ドーラ発の話題のレシピ集だろう? もちろん知ってる。安いのに情報量が多いんだ。すごくためになる」

「あれは『サバランの裏レシピ』が種本なんだよ」

「サバラン? あの有名なサバラン?」


 知ってるみたいだな。

 キーファー君は勉強してるんだなあ。

 ただ威張ってる自信家なだけじゃない。


「伝説の宮廷料理人一族じゃないか。レシピが残されているのか? 大変なお宝だ!」

「あるんだよ。ただメモみたいなもんだし、手法が複雑過ぎてわけわからんってことで、そのままじゃどうにも使えないの。大分簡単にして新しいものも加えてってのが『簡単スイーツレシピ集』だよ」

「知らなかった……」


 知らないことはマジで世の中たくさんあるわ。

 知らないことを知っていく過程ってのはメッチャ楽しいと思うけどね。


「レシピ集の中に寒天ってものがあるのは覚えてる?」

「うん、覚えてる。ただ正体がわからない」

「ごめん。寒天はまだ帝国に輸出されてないんだ。あとで食べに行こうよ」


 ハハッ、喜んでやがる。

 あ、できてきたな。

 クララが串に刺したお肉を持ってきてくれる。


「食べてみ? 初めて口にする肉だと思うよ」

「すごくおいしいんですよ!」


 ルーネがワクワクだ。

 魔物肉を食べさせてから種明かしするのは面白いかな?


「う、美味い!」

「香ばしさと脂と塩味が絶妙ですね!」


 キーファー君デニスさんビックリ。

 そうだろうそうだろう。


「これはコブタマンっていう魔物の肉なんだ」

「ま、魔物?」

「魔物の肉にも色々あるけど、コブタマンはあたしの知る限り最高級のお肉だね。おいしいだけじゃなくて、扱いやすいって意味で」

「……」

「それでこの塩は、塩っていうか混ざってるこの黒いのが、旨みの強い特別な海藻を干して粉にしたものなんだ。どお?」

「……正直こんなに美味い肉は食べたことがない。塩との相性が抜群だ」

「あたしが料理店を経営するんだったら、これを単品で売るね。何故ならお肉は狩ってくりゃいいから材料費がタダなんだ。炙り焼きするだけだから調理法も単純」

「これがタダで手に入る肉……」

「人間の胃袋の容量は決まってるんだぞ? いくら変わった料理を作れても、安くて美味い料理を提供する店には絶対に勝てない。そう思わない?」

「……」


 料理屋だって商売だ。

 経営は大事だよ。

 今までキーファー君は味のことしか考えてなかったかもしれんけど。


「販売量ではね」

「えっ?」

「美味くて珍しいものを食べたいって人は一定数いるってことだよ。あたしだって食べたいわ。そこにキーファー君の強みがある」

「う、うん」

「まータダのお肉は極端にしてもさ。料理屋さんは自分の伝手で安く仕入れられる食材で勝負するに決まってるでしょ?」

「店の強みだものな」

「並み居る料理屋を相手にして繁盛店になるためには、ちょっとやそっとの工夫じゃ難しいってことだよ。すぐにマネされちゃうだろっていう、さっきの未完成なイモパスタ料理くらいのレベルでイケると思ってるんじゃ甘過ぎる」


 俯いてるけどガッカリする必要はないんだな。


「だから宮廷魔道士有望論が出てくるわけよ」

「わからない。どうしてだ? 魔力かまどの研究以外にもいいことがあるのか?」

「あるねえ。貴族の宮廷魔道士は平民出身者じゃ務まらないような、皇族貴族の護衛任務を受け持つことが多いそうな」

「だから?」

「外遊にくっついてあちこち行く機会が多いってことだよ。キーファー君の創作料理のウリを強化するためにはどうしたらいい?」

「……幅広い食材や調理法の知識を得ればいい」

「大事なことは本に書いてないんだぞ? じゃあどうする?」

「……そうか。現地へ行って知るしかない」

「正解! 足で知識を稼ぐのだ。宮廷魔道士ならばお仕事でそれがある程度可能になっちゃうねえ」

「な、なるほど……」


 大分宮廷魔道士が魅力的なものに思えてきたんじゃないの?

 顔が真剣ですぞ。

 デニスさんも喜んでいるようだけど何も言わない。


「キーファー君が宮廷魔道士になることには、まだ他にも重要なメリットがあるよ」

「何だろう?」

「人脈が広がることだよ。ある人しか知らないこと、ある人しかできないことってのは案外多いぞ? キーファー君の店の常連になって宣伝してくれる可能性も高い。あたしだって色んな人と知り合って、食べ物の知識が多くなったんだ」

「人脈か……」

「例えばさっき名前をちょっと出したけど、先帝陛下の第一皇女ヴィクトリアさんって人がいる。ハーブの知識が豊富で、しかも南方で珍しい食材のありそーなズデーテンと縁があるから、知り合いになっといて損はない」

「ヴィクトリア様……」

「上皇妃様もそーだな。相当な食いしん坊で、しかもヴィクトリアさんが味覚は確かって評価してるくらいだから、おいしいものをたくさん知ってると思う。わかってると思うけど、普通に料理屋やっててこの二人とお近付きになる機会なんてあるわけない」

「よくわかった。オレは宮廷魔道士になる!」


 ざっとこんなものです。

 デニスさんが感謝の視線を送ってくる。

 いいのだ。

 あたしもキーファー君が将来うまーい料理を食べさせてくれることを期待してるから。


「じゃ、寒天スイーツ食べに行こうか」

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