第2201話:ルーネのお相手は?
ルーネと喋りながら施政館へ行く。
「私とハンネローレ様の他は、伯爵家の令嬢お二人が参加するようなのです」
「ほう」
明日のカルテンブルンナー公爵家マヤリーゼさんの行うお茶会のことだ。
長男ハムレット君の嫁探しと目されているが?
「よく調べたね?」
ルーネは箱入り娘で伝手とかあんまりないはずなのに、比較的情報を持ってるよなあ。
結構偉いと思う。
「お母様がマヤリーゼおば様と話をしたようで、それで」
「あれ、じゃあダニエラさんも、ルーネがハムレット君の婚約者になることには賛成なんだ?」
「はい」
「ははーん? ルーネはマヤリーゼさんハムレット君のお眼鏡にかなってるから呼ばれるんだろうし、ウルリヒさんはマヤリーゼさんの言いなり。反対がお父ちゃん閣下一人ならどうにでもなるから、マジでルーネ次第じゃん」
「そうなのですけれども」
あまり見られないルーネの困り顔。
ふむ、あまり乗り気ではない。
どの辺に理由があるかな?
「ルーネはハムレット君のことどう思ってるの? 忌憚のないところを聞かせてもらいたい。おおう、難しい言葉を使っちゃったわ」
「あはは、素敵な貴公子だと思います。ただそう親しいわけでもありませんので……」
「まーねえ」
「ユーラシアさんはどう思います?」
「何度も言うけど、ルーネとハムレット君の相性がいいことは保証しておく」
「お母様が推しなのです。これ以上の嫁ぎ先はないでしょう、と」
「ひっじょーによくわかるね」
最も家格の高い貴族である公爵家の男子でルーネと年齢的に合いそうなのは、ハムレット君以外にはアーベントロート公爵家のヘルムート君とパスカル君の二人。
ヘルムート君はリリーとくっつくだろうし、パスカル君は三男だからどこかに婿に行った方がいい立場だ。
そりゃ長男で次期公爵が濃厚なハムレット君の方がいい。
ダニエラお母ちゃんとしてはこれ以上ない相手だと思うのは当然だろ。
とゆーか誰が考えても同じ結論だわ。
「カルテンブルンナー公爵家の御嫡男ですものね」
「まー普通に考えりゃ、ハムレット君以上のお相手はいないわな」
「ピンと来ないんですよ。我が儘だというのはわかっているんですけれども」
「我が儘を否定されるのは面白くないね」
「あはっ、ユーラシアさんはそう思うかもしれませんね」
「ピンと来ないっていう感覚は大事にした方がいいと思うよ」
「えっ?」
目を丸くするルーネ。
ここは重要なところだからよく聞いてなさい。
「ルーネはレベルも上がってるし、独自の訓練もしてるみたいじゃん? 察する力ってのは随分向上してるんだ。言葉で言い表せないような何かを感じているからピンと来ないのかもしれない」
「それも……そうですね」
「条件や相性ももちろん大事だよ? でもだからといってカンを軽視していいってわけじゃない。少なくともあたしだったら自分のカンは信じるね」
「はい!」
「ただまだハムレット君についてルーネが得ている肌感覚が少ないじゃん? 明日のお茶会で印象が変わるということも十分にあり得る」
「はい。ではよく探ってくるくらいの気持ちでお茶会に臨めばいいですね?」
「そうそう。健闘を祈る」
大体ルーネなんかあたしより年下だし、お父ちゃん閣下が絶対まだ早いと思ってるくらいなのだ。
肩の力抜いて行ってくりゃいいと思うよ。
ついこの前まで友達もいなかったようなルーネだもん。
婚約者なんて二、三年後で全然遅くないと思うし、お父ちゃん閣下がどんな人ならオーケー出すのかってのも興味ある。
「さて、着いたぞー」
施政館に到着。
皇帝執務室へ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、ユーラシア君。いらっしゃい」
どことなくプリンスルキウス陛下もお父ちゃん閣下もアデラちゃんも表情が硬いんだが?
あれか、あたしの給料の扱いがどうのっていう。
聖女たるあたしはそんな細かいことで怒りゃしないから、どうでもいいのに。
プリンスが言う。
「エックハルトとデニスを呼ぶから待っていてくれ」
「はーい」
総務大臣エックハルトさんと封爵大臣デニスさんか。
エックハルトさんは給料の説明だろうけど、デニスさんは?
名目上はハンネローレちゃんを巡る婚約事情という話だったが、それだと朝から来いっていう理由がわからない。
真の理由は何かな?
「ユーラシア君の方からは何かあるかい?」
「えーと、消火魔法『ヒナギ』のスキルスクロールは、生産元の方にも注文変更の連絡入れました。来月末には三〇〇本届くと思いまーす」
「うん、ありがとう」
「ヴォルヴァヘイム近くの聖風樹の植樹についての報告ね。一回目に植えた一〇本は全て根付きました。昨日場所を変えてさらに一〇本植えてきました。魔力溜まりや巨大魔物出現との関連性は何とも言えないけど、聖風樹自体が林産資源として重要なので、このまま少なくとも秋までは植樹を続けまーす」
「秋まで、とは?」
「冬は植樹に向いてないらしいんだ。冬越しを確認したらまた春から再開する予定だよ」
「わかった」
「できれば定期的に魔力濃度を計測して欲しいんだけどね」
予算の関係で難しいのはわかっているけれども。
「植樹した聖風樹に関する権利はどうしたらいいだろう?」
「残念、そこ気付いちゃったかー」
ニコッとしたらプリンス閣下アデラちゃんがビクッとした。
脅す意図はなかったんだけどな。
どーも美少女聖女の笑顔は破壊力に問題が。
「聖風樹で作ったピタッと蓋の閉まる出来のいい箱は、中に入れた生鮮食料品が悪くなりにくくて長持ちするっていう特性があるんだ。だからあたしも聖風樹が育つ場所を見つけられたのは嬉しくて」
「ああ、帝国政府としても新たな産業を生み出せるかもしれないならありがたいね。巨大魔物の発生を抑制できるならなおのこと」
「もし聖風樹林業とそれを利用した工業が動き出しそうなら、あたしに一枚噛ませるって約束しといてよ。木そのものに関する権利は主張しない。あの辺りの集落のものでいいからね」
「……植樹の手間に見合わないように思えるんだが。いいのかい?」
「うん」
何企んでるんだって顔をプリンスとお父ちゃん閣下がしてる。
いや、正直あたしも手を広げ過ぎているのだ。
将来関与できる余地を残しておいて、あたしを崇めてくれるなら十分だよ。




