第220話:適当にやるよ
パラキアスさんが真剣に聞く気になったらしい。
やはり帝国の皇女の動向は関心ごとのようだ。
「ほう? レイノスは見張らせてあったのだが」
「いや、リリーはレイノスから入国したんじゃないんだ。海の一族の監視を回避する帝国の新技術で西域の海岸から上陸したの」
「詳しく」
パラキアスさんの顔が険しくなる。
「パラキアスさんが以前『全てを知る者』って言ってた本の世界のマスターに、帝国がそーゆー技術を開発したって聞いてさ。で、一昨日『アトラスの冒険者』のクエストで皇女に会った時、新技術で海岸へ直接上陸したんでしょって鎌かけたら認めたよ」
「その新技術の性能はわかるかい?」
「小さな船がそーっと行き来できるかってくらいだって。本の世界で聞いたことだから間違いない」
「なるほど、軍艦には応用できない……」
パラキアスさんが沈思する。
サイナスさん、置いてけぼりでごめんよ。
「……『アトラスの冒険者』のクエストで皇女に会ったのか。たまたまか?」
「たまたまだよ。『遭難皇女』っていう名前のクエストだったから、ああ帝国の皇女なんだってわかったけど」
「なるほど、『アトラスの冒険者』の石板クエストは予想できないな」
確かに。
今もドリフターズギルド・セットというわけわからんクエストが出て困惑してますよ。
「ねえ、パラキアスさんも教えてくれないかな」
「おお、もちろんだ。重要な情報をもたらしてくれたドラゴンスレイヤー殿には、いろいろ知る権利がある。私の知っていることは答えよう」
「ドラゴンスレイヤー? ユーラシア、君ドラゴン倒したのか?」
サイナスさんが驚く。
ドラゴンについても言ってなかったな。
とゆーか灰の民の村に来る機会がなかったから。
「魔境でドラゴンに貴重なアイテムを横取りされそうになって突っかかっていったとか、聞き及びましたよ」
「ユーラシアらしいけど」
「大体合ってるけど」
内輪の人じゃないのに、何でパラキアスさんは事情まで知ってるんだよ?
つい三日前の話だぞ?
まあいい、パラキアスさんに聞いとこ。
「皇女リリーはどうして危ない小舟を使ってまでドーラに来たのかな? 供も一人しか連れてないんだよ」
ある程度のことはリリー黒服から聞いてるが、パラキアスさんの見解を聞きたい。
「彼女は非常に難しい立場にあるんだ。皇位継承順位としては二〇何番目かだが、国民の人気がずば抜けて高い。より皇位継承順の高い親族や帝室に影響力を及ぼしたい大貴族は、取り込みたくて仕方ないわけさ。一方で継室の子だから、元々の正室の皇子達からは疎まれている」
「うんうん、リリーの従者も同じようなこと言ってた」
「彼女自身の気質としては武術好きで、武術大会にも参加したことがあるそうだ。一方でドロドロした人間関係は大の苦手、以前からドーラに来たがっているという情報はあったんだよ」
確かにリリーの性格からすると、面倒なことは嫌いだろう。
「ここから先は推測だが、今帝国本土とドーラが緊張関係にあることを利用。軍事機密であろう実験船について何かの機会に知り、皇女の身分を捨ててドーラで生きようとしたんじゃなかろうか。私も帝国を出国したところまでは知っていたんだがな」
帝国本土とドーラが緊張関係にあることを利用ってのはどうだろう?
しかしそれ以外はリリーや黒服の発言と矛盾がない。
おそらくパラキアスさんの洞察はほぼ正しい。
「……私は数年前から皇女の特異な存在感には注目していてね。ドーラ総督に据えたらどうかと考えたこともあったし、デス殿の塔の村計画のエース冒険者に擬したこともあった。もっともデス殿は精霊基準で考えていたから乗ってこなかったが」
「もしリリーが塔の村で活躍してたら、何か嬉しいことがあったのかな?」
「皇女の活躍ぶりを宣伝してやったら、対ドーラ感情が和らぐという可能性だな。戦争を回避できるんじゃないかっていう、甘い考えさ。事態は急速に悪化してそれどころじゃなくなってるが」
色々考えてるんだなあ。
……口にしないけど、人質にするって考えもあったんだろう。
「あたし達の仲間内では、艦隊を派遣するだけじゃレイノスは落とせない。帝国が戦争に打って出るからには何か隠し玉があるんだろうって言ってるんだけど、パラキアスさん何か知らない?」
「君は本当に優秀だな。私もレイノス副市長オルムス・ヤン、船団長オリオン・カーツとの話し合いの中から、帝国軍には何らかの決定打があるという結論に達した。まだ未完成で、おそらく帝国は秘密兵器の完成を待って戦を仕掛けてくるのだろうと見ているが、正体までは掴めん。もしわかったら、必ず君に伝えることは約束しよう」
やはりパラキアスさんも、あの実験船は秘密兵器たり得ないと見ているようだ。
後方撹乱には気をつけなきゃいけないが。
「パラキアスさんはどうしてあたしを信用してくれるのかな?」
好奇心に満ちた瞳を向けてくるパラキアスさん。
「デス殿は言ったよ、君は命令した通りに動く性格ではないとね。一方で聖火教大祭司ミスティに言ったそうじゃないか。誰かを信じなきゃいけないなら、精霊使いユーラシアを信じろと。掃討戦にしても今日の情報にしても、君は誰よりも結果を出してくれる。帝国と戦争になったら、『アトラスの冒険者』にも必ず支援要請が行く。今の『アトラスの冒険者』はドーラ人ばかりで、高レベル者もいるからね。君も悪魔を私との連絡に使うということは、情報をやり取りしてちょっとでもマシな未来にしたいって気持ちはあるんだろう? 君がフリーで動いて、戦局をいい方に動かしてくれることを期待してるのさ」
「わかった、あたしのできる範囲内で適当にやるよ」
「うむ、適当にやってくれ」
期待していた以上に内容のある話になった。
たしかなまんぞく。
「サイナスさん、これお土産のお肉。パラキアスさんもいる?」
「すまんな。しばらく家には帰れぬ身の上だ」
「そーかー。忙しいんだね」
ハハッとパラキアスさんが笑う。
「すっかり長居してしまった。おいとましよう。サイナス殿、食料の件、よろしく」
「確かに承りました」
「あたしも帰るよ。パラキアスさん、サイナスさんさよーならー」
ヴィルを偵察任務に戻し、転移の玉を起動して帰宅する。




