第2195話:ヴォルヴァヘイムと二人組冒険者
フイィィーンシュパパパッ。
うちの子達を連れて『ヴォルヴァヘイム』の転送先にやって来た。
追加で一〇本の聖風樹の苗を植えるためだ。
この前植えた聖風樹がどうなっているか、確認しに来たということもある。
「ヴォルヴァヘイムの中はいいよね」
「魔境と似た楽しみがありますね。未知のものが多いというか」
「美味い魔物もいるかもしれやせんぜ」
「あっ、それもそーだ。強い草食魔獣がいたら、誰も食べたことないかもしれないな。オラ、ワクワクすっぞ!」
「ワッツ?」
「素直に気持ちを言葉にしたらそーなったよ」
この前聖モール山で狩ったパンダはおいしかったからな。
強い草食魔獣って魅力的だ。
魔力濃度が高いから、素材も結構回収できるということもある。
おいおい、マジでヴォルヴァヘイムを冒険者の通える場所として解放したら儲かっちゃうんじゃないの?
「人形系魔物がメニーメニーなエリアもあるかもしれないね」
「うんうん。『ファントマイト』の分布で魔力の濃淡ができてるなら、かなり複雑な魔物の生態系ができてるかもしれない。調べる価値は大いにあるね」
「シルバークラウンが多くなっちまった魔境トレーニングエリアよりも、魔宝玉狩りやレベル上げに向いてるかもしれやせんぜ」
「色んな可能性があるんだなあ」
魔境トレーニングエリアの方が地形的に歩きやすいし、オニオンさんがいるからな。
リゾート地として魔境の方が上であることは否めないけれども。
「門のところに誰かいるぬよ?」
あれ? 本当だ。
守衛のサムさんとこに誰か来ている。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「これはユーラシア殿」
「「ユーラシアさん、こんにちは」」
ブローン君とミラ君でした。
「どうしたの?」
「以前『ヴォルヴァヘイム周辺調査』のクエストを終えて。気になったから今どうなのか見に来たんだ」
「クエスト終了したのに様子見に来たのは偉いな」
「ユーラシアさんがいてくれてラッキーですよ。聞きたいこともあるし」
意味ありげな目を向けてくるブローン君ミラ君。
聞きたいことというのは『アトラスの冒険者廃止』以降のことだろう。
あえて話を逸らす。
「ここ魔力溜まりができちゃうと魔境クラス以上の魔物が出ちゃうことがある、住民にとって大変な場所なんだ。大物が出現するのが一〇年に一度くらい。以前ブローン君ミラ君に調査してもらったから、ある程度わかってると思うけど」
「「魔力溜まり?」」
「魔力溜まりが疑問か。魔力が異常に高くなっちゃう現象だね。ヴォルヴァヘイムの魔力が高いもんだから、周りにも流れてきやすいということもあると思う。ただ聖風樹を植えておくと、さほど魔力溜まりが問題にならないんじゃないかって説があるんだ。聖風樹は生育に魔力を必要とするから」
「……魔力溜まりが発生しなければ、巨大魔物も出現しない?」
「可能性が高いね。この前なんかヤマタノオロチっていう、頭八つもある神話級ヒドラが出ちゃったんだぞ? あんなん放っといたらとんでもない被害が出ちゃう。ブローン君ミラ君のお仕事は世界の平和に役立ったのだ」
「帝国人を代表して感謝する」
喜ぶブローン君ミラ君。
自分の仕事が認められると嬉しいだろ。
「サムさん、この前植えた聖風樹どうだった?」
「バッチリだ。新しい葉が大きくなり始めてる」
「やたっ! 新しい苗持ってきたから、前回と違うとこに植えてみよう。寒くなっちゃうと植樹が難しいみたいだから、秋までに本数稼いでおかないと。ブローン君ミラ君も手伝ってよ」
「「はい」」
◇
「御苦労様」
「いえいえ」
聖風樹植樹後、あたしん家にブローン君ミラ君を連れてきて労う。
タイムのハーブティーがおいしい。
「『アトラスの冒険者』廃止について聞きたい、でいいかな?」
「「はい」」
「廃止についてはメンバー全員知ってるって聞いたけどな? ブローン君が最後の『アトラスの冒険者』だよ。運がいいのか悪いのか」
「気持ちの整理がつかないな」
そーかも。
移民でドーラにやって来て、たまたま『アトラスの冒険者』に選ばれた。
覚悟も決めて生活が落ち着いてきたところで廃止だろうからな。
何なんだって気にはなるかも。
「新『アトラスの冒険者』が発足すると聞いた」
「本当なんですか?」
「本当。これ新しい転移の玉だよ。ホームに埋めるビーコンとセット。ホームとギルドに飛べる機能があるからね」
実物見せた方が話が早いだろ。
「来月一日にギルドに集まれって言われましたが」
「『アトラスの冒険者』廃止の正式発表と、新しい転移の玉の配布だね。新しい転移の玉は三万ゴールドでーす」
顔を顰めるブローン君。
「大きい金額だな」
「サブローさんに聞いてないかな? 同時に開拓地の北の森を居住区に組み入れるんだ。そのための掃討戦に参加してくれれば、転移の玉は二万ゴールドに負けまーす。この代金は即払えなきゃ新『アトラスの冒険者』になれないってものじゃないから、ボチボチ払ってもらえば構わないよ」
「いいのか?」
「いいに決まってる。メンバーの数がいないと新『アトラスの冒険者』の経営が成り立たんだろーが。今の『アトラスの冒険者』は信頼できるから、全員移行してくんなきゃ困るわ」
これは伝わってなかったか。
おゼゼがないからと尻込みする人がいると面倒だな。
「心配してる子いたら、後払いで全然構わんって言っといてくれる? 新『アトラスの冒険者』は、稼ぎやすい塔の村のダンジョンにもアクセスしやすくなるんだ。借金抱えることに不安があるかもしれんけど、利子がつくわけでも督促があるわけでもないから」
「わかった」
「他に聞きたいことあるかな?」
「廃止の理由は何なんです?」
「運営母体の都合だね。まあ赤字体質で、何年か前から廃止が検討はされてたんだそーな。今黒字になってるんだけど、廃止になることは止められなかったそうで」
異世界どうこうの理由は言う必要ないだろ。
聞きたきゃあとで教えてやってもいいし。
「心配しなくていいんですね?」
「経営の心配だけだな。キリキリ働いてください」
笑いごとじゃないのだ。
潰れるの心配。
「少し気が楽になった。帰る」
「じゃねー」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動したブローン君ミラ君が掻き消える。
さて、新しい聖風樹の苗を作っとくかな。




