第2191話:手のつけようのない大変な問題児
フイィィーンシュパパパッ。
ルーネとビバちゃんを連れて塔の村にやって来た。
ルーネもビバちゃんもまだ遊び足りないみたいなのだ。
ルーネの方はともかく、フェルペダは心配するんじゃないだろうか?
時間的には少しのつもりで連れ出したからな。
「これくらいの時間だとリリーも戻ってきてると思うんだけどな」
「いるぬよ。ハゲのところだぬ」
「ほんとだ。あんなに眩しいのによく気付いたね」
「えへへだぬ!」
「おーい、じっちゃーん!」
デス爺とリリー黒服がいるところに走る。
「何じゃ、いつもいつも騒々しい」
「ルーネロッテではないか。そちらの令嬢は?」
「フェルペダ王国の、順当に行かないと次の女王になるビバちゃん」
「順当に行かないと? 順当に行くとどうなるのだ?」
「順当だと首ちょんぱ」
「ひああ!」
アハハ。
あ、デス爺とリリー黒服には通じてないわ。
お互いの紹介を兼ねて説明っと。
「……とゆーわけで、ビバちゃんは愛情の薄い可哀そうな子なんだ。聖女のあたしが時々遊んでやってるの」
「間違いじゃないですけれども! 間違いじゃないですけれども!」
「大事なことだから二回言ったのかな?」
リリーが首をかしげる。
「……フェルペダのビヴァクリスタルアンダンチュロシア王女と言えば、手のつけようのない大変な問題児と聞いていた。そんなことないではないか。噂とは当てにならぬものだの」
「リリーは他所の国の王女の噂まで知ってるのか。それとも単純にビバちゃんの不埒な悪行三昧が他国にまで知られるほどなのか」
「ひああ!」
「リリー叔母様。ビヴァ様は手のつけようのない大変な問題児でしたよ」
「放っときゃ間違いなくエンターテインメント案件だったね。エンタメといっても悲劇の方だから、あんまりあたしの好みじゃないけれども」
「ひあっ!」
変な踊りを披露するビバちゃん。
マジでこの踊りはクセになるなあ。
「ビバちゃんがとんでもないやつだったのは事実なんだ。どーにかしろってのは帝国政府の要請でもあってさ。東方が荒れると大迷惑だからって」
「ユーラシアが矯正しているのか」
「そーゆーこと。ビバちゃんに最初会った時はメッチャ愉快な子だなと思ったけど、今ではちょっと愉快くらいに落ち着いたね」
「ユーラシアに絡まれるとは、大変な災難だったの。苦労はお察しする」
「本当ですのよ。大変なのです」
「首ちょんぱになるよりマシだろーが」
「疑似的に首ちょんぱされたのですわっ!」
ギロチンゲームのことか。
マジで首が落ちるよりはいいだろ。
予行練習だ。
デス爺が言う。
「今日はどうしたのじゃ?」
「ルーネとビバちゃんが遊んで欲しそうなので、連れてきたってのが理由の一つ。これくらいの時間ならリリーが帰ってると思ったから、セレブな会話が楽しめるかなと」
何がセレブだ。
あたしが一方的に喋ってるだろって?
何でだろうな?
「ところで転移石碑の新しい設計図できてない?」
「やはり設計図か。できておるぞ」
「やっほーい!」
アレクと話が通ってるから、あらかじめ用意してくれてたんだろうなあ。
あとでドワーフのところへ行くから助かる。
「お土産と交換ね。アンヘルモーセンで手に入れたお酒だよ。アンヘルモーセンは酒処じゃないけど、お隣のダイオネアとラージャが農業国だからいいお酒が入るみたいなこと言ってた。期待できると思う」
「そうかそうか」
デス爺ったらすげえ嬉しそうだな。
そーいやフェルペダで買ったお酒もあったんだった。
ま、今度でいいや。
ちょっと声を落とす。
「ルーネも新『アトラスの冒険者』のメンバーになりまーす」
「よろしくお願いします」
「ふむ、ユーラシアが連れ回しているのであろ? 結構なレベルのようだし、問題ないのではないか?」
「対魔物戦闘の経験が足りてないことは致し方ないんだけどさ。レベルとしては全然問題ないね」
「少しでも人数が欲しいのであろ?」
「欲しい。黒字体質にしたい新『アトラスの冒険者』側の理屈としては、構成員の人数が多いほどいいね。ただルーネ側の理由もあるんだ」
「ルーネロッテ側の理由とは?」
「世界の通貨単位を統一しようって試みがあってさ。まず帝国ゴールドと北方諸国で使用されてるギルが一つになるの。通貨単位統一機関の事務局はドーラに置くことになって、ルーネのお父ちゃんドミティウス閣下が事務方トップに就任する。ここまでいいかな?」
デス爺と黒服が呆れてるようだ。
「大変な事業ではないか」
「ドーラに事務局を置くというのは、完全にユーラシア様の考えですよね? 通るのですか?」
「通りそうだね。三日後に帝国ガリアアンヘルモーセンの三ヶ国外相級会談があるんだ。そこでアウトラインが決定」
いや、大事なのは通貨単位統一機関そのものじゃなくって。
「お父ちゃん閣下が簡単にドーラに来られる手段が必要でさ。送り迎えをルーネにやってもらうという名目で、ルーネが新『アトラスの冒険者』になることを認めさせてしまおうと思ってる」
「嬉しいです!」
「何なの? よくわからないわ」
「ビバちゃんにはわからんかもしれないな。簡単に言うとルーネとそのイケオジ父ちゃんを、ドーラの発展のために働かせるという算段だよ」
言い草がひどいって顔してるけど、ルーネが喜んでるんだから構わないじゃないか。
使えるものは何でも使うわ。
「ルーネの事情とは全然別の話なんだけど、リリーに用があるから来たってこともあるよ」
「何であろ?」
「黒妖石の手持ちが少なくなったから、明日の午後ガータン行くんだ。リリーも行かない?」
「おお、連れていってくれるか」
「じゃ、明日の昼過ぎに迎えに来るよ」
ん? ビバちゃんどーした?
「ねえ、どういうことなの?」
「興味のあることに突っ込んでくる姿勢はいいね。大事にしようか。これ見てくれる?」
ナップザックから地図を取り出す。
図らずも地理の勉強だ。
「ここガータンってのは、カル帝国本土のちょうど真ん中くらいにある男爵領ね。その領主ヘルムート君はリリーのいい人なのだ。遠距離恋愛中」
「ユーラシア!」
アハハ、簡潔に説明したった。
リリー赤くなってるやんけ。
「じゃ、またねー」
「バイバイぬ!」
ビバちゃんのお土産に『ホワイトベーシック』買ってやるか。
パワーカード屋寄ってこ。




