第2188話:アホメイクした戦乱の予兆
有力者との顔合わせはビバちゃんの成功している部分だ。
新聞記者に言い聞かせるように。
「実際にビバちゃんをカル帝国の新皇帝や、アンヘルモーセンの天崇教枢機卿兼外務大臣に会わせてきたよ。そつがないね。合格でーす」
「よし、描けたぜ」
あ、早いな。
興味が一瞬で絵の方に移ってしまった。
まーいーや。
「どらどら?」
「えっちぃのは嫌いです!」
「と言いながら目の離せないビバちゃんなのでした」
皆がガン見しとる。
どう見てもただの肖像画なのだが何故かえっちという、イシュトバーンさんの本領が発揮されている絵だ。
何度見ても理屈がわからんな。
「これは見事な……」
「イシュトバーンさん。ビバちゃんはアホメイク落とすともっと可愛いんだよ」
「アホメイクではないのですわっ! 願いがかなう星のイメージなのですわっ!」
「せっかくだから、メイク落とした絵も描かせてくれ」
「わかりましたわ」
メイクを落とした顔に新聞記者達がヒューと口笛吹いてる。
「ビヴァ王女はどうして頬に星を描き入れる、奇抜なメイクをしていらっしゃったので?」
「可愛らしいからです」
「メイクなしの方が可愛らしいではありませんか」
「それな?」
「いやっ! 恥ずかしい!」
赤くなるビバちゃん。
何だこの愉快な生き物は?
次の絵も同じように座ったポーズか。
さっきよりやや正面寄りに描くようだ。
「あの星印のメイクには意味があるのですか?」
「『輝かしき勇者の冒険』っていうお話に、勇者が悪竜退治を星に願うとゆーシーンがあってさ。感動的で好きだからと言ってたぞ? ビバちゃんのクセに夢見る乙女みたいなこと言うよねえ」
「夢見る乙女なのですわっ!」
「もっと新聞記事になるようなことを言えばいいのに」
でも新聞記者はメモしてるな。
あんまり面白くなくない?
よっぽどネタに困ってるのかしらん?
「今日の絵は何のために?」
「新聞に提供されるはずだよ」
「「えっ?」」
「ビバちゃんは今まで国民にあんまり姿を見せてないじゃん? こういう王女だよっていう周知のために」
「ありがたい話ですね!」
「イシュトバーンさんの絵だぞ? 一面に持ってくるとメチャクチャ売れちゃう」
大喜びの新聞記者。
さて、仕掛け時だ。
少し声を落とす。
「……これまだ内緒だけど、二ヶ月以内にビバちゃんの婚約が発表されるそーな」
「そうなんですか? おめでたいことですね」
「お相手はどなたです?」
「グラディウス宰相の息子サラマンダ君」
ハーマイオニーさんとルーネが言っちゃうんですかって顔してるけど、この辺は駆け引きに必要なんだよね。
新聞記者を味方につけるために必要な情報提供なのだ。
「多分婚約発表の記事に使えって、絵を渡されると思う」
「なるほど、わかりました。楽しみですね」
「となると新聞記者さん達はやることがあるじゃん?」
「えっ? 何でしょう?」
「婚約特集号を売るための努力だよ。サプライズであるほど読者は情報を欲しがる。まだ時間あるから、情報集められるよね?」
「「はい!」」
「御婚約おめでとうムードが高まるほど新聞は売れるのだ。そのための根回しをしとく時間もある」
「「はい!」」
「もっと言うと、後追いでビバちゃんの新しい面を見られる記事が出るたびに売れると最高だな。ビバちゃんと仲良くしとくといいよ」
「「はい!」」
「頑張れ。健闘を祈る」
もうビバちゃんの評判落としておめでとうムードに水を差す記事は書けまい。
新聞の売り上げに関わる。
ふむ、絵も随分描けてきてるな。
「ユーラシアさんとルーネロッテ様は、ビヴァ王女の友人であるからフェルペダに遊びに来るということなんですよね?」
「おっと、あたしの方を掘り下げに来たか。基本的にはそゆことだね。うちのヴィルの飛べるところなら、あたしはどこへでも転移できる」
「すごい技術ですねえ」
「すごいぬよ?」
「ただし、何でビバちゃんと友達付き合いしてるのかってのは、カル帝国の思惑もあるんだ」
「どういうことです?」
もったいぶって話してやろ。
「記者さん達はあたしが帝国の役人だってことは知ってるんだっけ?」
「施政館参与兼臨時連絡員だということは」
「よく調べてるね。帝国としては次代の女王たるビバちゃんに助力する手と、トップの首を挿げ替える手があった。で、結局ビバちゃんに手を貸すことにしたんだ。現在上手に治まってるという理由もあるだろうけど。あたし達がビバちゃんに構ってるのはそゆこと」
「く、首を挿げ替える……」
「大国の思惑なんて非情なもんだぞ? フェルペダの位置するこの地は豊かでさ。昔から各勢力による争奪の対象になっていると聞いたよ。今の王様が優秀だから平和ボケしてるのかもしれないけど、アホメイクした戦乱の予兆がそこに座ってるとは思わない?」
「戦乱の予兆ではないのですわっ! 何としてでも首ちょんぱは回避するのですわっ!」
「アホメイクは落としたんだったか。まービバちゃんはやれることやってるわ。努力はあたしも認める。新聞記者さん達はどう思う?」
新聞記者は面白おかしく記事を書くのが仕事で、ビバちゃんは格好のターゲットと考えているのかもしれない。
しかしビバちゃんを叩き過ぎるのは危険だぞ?
自分が戦争に巻き込まれたくなかったら平和の維持に協力しなさい。
「今のビバちゃんなら支える価値がある、と見ている人が多いんだ。記者さん達もよーく考えてね」
「描けたぜ」
「おー終わったか。どらどら?」
一転して清楚に見える絵だ。
アホメイクの絵と何が違うのかよくわからんけど、雰囲気が全然違う。
えっち風味標準装備は共通なのだが?
「……崇高な感じがしますね。素晴らしいです」
「実に詐欺っぽいな。どーなってんだ?」
「詐欺じゃないのですわっ!」
「まーいーや。ビバちゃんありがとう。これモデル代ね」
透輝珠を渡す。
「えっ……こちらが支払わなければならないのに、モデル代を受け取るのはおかしいのではなくて?」
「イシュトバーンさんは、多分この絵の大きい複製作るんだよね。複製画の方は将来ドーラの美術館に飾られるから、そのモデル料と思ってもらえば」
「で、でも絵師さんの手を煩わせたのですから……」
「オレもいいんだぜ。右手が満足したからな」
芸術とはそーゆーものなのです。
これにて一件落着。




