第2187話:フェルペダの新聞記者
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ど、どうも」
新聞記者二人組だ。
あれ、フェルペダの新聞記者は消極的だな?
「どうしたの? やましいことでもあるの? 新聞記者さんはずうずうしいもんだっていう先入観があるからか、おどおどしてるとこっちが不安になるわ」
「あ、あなたは?」
「ドーラの美少女冒険者ユーラシアだよ」
「ヴィルだぬよ?」
「そっちがカル帝国のルーネロッテ皇女と絵師のイシュトバーンさんね」
硬いね。
まだ王宮の取材に慣れてないからか、ビバちゃんが飼い馴らしてる途中だからか。
でもあたしには興味があるようだ。
「ヤマタノオロチ退治の勇士として有名なユーラシアさんですよね?」
「ヤマタノオロチ退治の聖女として有名なユーラシアだよ」
「初対面の際、ビヴァ王女から大変な失礼を受けたという話ではないですか」
おっ、切り込んでくるじゃないか。
やっぱビバちゃんとの信頼関係が築けてるとは言えないってとこだな。
了解。
「まーフェルペダ流の歓迎を受けたね」
「それは忘れてっ!」
「知ってる? ビバちゃんったら、自分の護衛騎士を顔の良し悪しで選んでんの。笑える」
「怒ったりはしないのですか?」
「文明人はジョーク程度のことで怒ったりはしないんだ」
「あっ、あなた私を二度も昏倒させましたわっ!」
「あれも文明人ジョークだとゆーのに。国王陛下も群臣の皆さんも笑ってたじゃないか。いや、泣いて喜んでたな?」
「スパルタなのですわっ!」
アハハ、徐々にあたしのペースだ。
イシュトバーンさんとルーネが始まったぞーって顔してる。
「王女殿下、二枚目いいかい?」
「お願いしますわ」
ビバちゃんを引き離して好き勝手話せってことみたい。
イシュトバーンさんもかなりビバちゃんを気に入ったみたいだ。
死に汚い系キャラとゆーか、棺桶に片足突っ込んでるところから脱出を図ろうとしてる上流階級の子は、イシュトバーンさんも初めて見るからじゃないかな。
椅子に座ったポーズでやや斜めから描くようだ。
正統派の肖像画になりそう。
「新聞記者の相手は任せろ。ビバちゃんのヤバいところをバラしといてやるから」
「不安で仕方ないですわっ!」
ハハッ、大丈夫だとゆーのに。
ハーマイオニーさんカモン。
新聞記者が聞いてくる。
「正直なところ、ビヴァ王女の資質はどうなのでしょう? 実は我々、まだ懐疑的でして」
「自分らの書いた記事に浸かっちゃって、今のビバちゃんを見てないんじゃない? ハーマイオニーさんどう思う?」
「少なくとも一ヶ月前のビヴァとは全然別人です。ユーラシアさんの教育が行き届いています」
「「ユーラシアさんの教育とは?」」
「二〇日くらい前かな、初めて会った日に脅してやったんだ。ビバちゃんが女王になる前に恨まれて殺される可能性は四〇%。女王になったけれどもクーデターで処刑される可能性が三〇%。賢臣良臣に愛想を尽かされ国が破綻する可能性が二〇%。外国に攻められて滅亡する可能性が九%。不幸になる前に事故や病気で死ぬ可能性が一%って」
にこっ、を記者達に見せておく。
心臓止まったような顔すんな。
そーいやこの前うっかり元公爵に蘇生薬使ったから、ストックがないや。
買っとかないと。
あたしの人生は、どんなイベントが転がってるかわからんから。
「今のビバちゃんは素直だよ。とゆーか元々素直なんだと思う。持ち固有能力が歪んだ発現の仕方をしてたせいでおかしくなってたけど」
「勉学にも精励しておりますよ」
「うん、頭もいい。いいは言い過ぎだな。決して悪くはない」
「聞こえておりますのよ! 少しは褒めてくれてもいいではありませんか!」
聞こえてたようだ。
どらどら?
うん、絵も進んでるね。
「しかし、今更悪評を挽回できるものかと思うのです」
「ビバちゃんってそんなに国民に評判悪いの?」
「大変悪いですね」
「あたしも最初にビバちゃんに会った時はこの国長くないと思ったから、否定はできないな。でも実際ビバちゃんに会ってみてどう思った?」
「……聞いていたよりは全然。むしろ感じのいい王女なので戸惑っています。たばかられているのではないかと」
「いやいや、ビバちゃんが他人をたばかるなんて買い被り過ぎだから。そんなに頭良くないから」
「聞こえておりますってば!」
「頭は良くないけど耳はいいぬ!」
爆笑。
ちょっと新聞記者達も打ち解けてきたようだ。
「ビバちゃんは今も昔も見たまんまだぞ? 放置王女だったからとんでもなく我が儘だったのは本当。心を入れ替えて将来の良き女王たらんと努力しているのも本当」
「じゃあビヴァ王女は良き女王になる?」
「いやあ、ムリ」
「ひどいっ!」
こっちの言うこと聞いてなくてもいいから、モデルに集中しててよ。
新聞記者はあたしがうまい具合に誘導しとくってばよ。
「あたしも見込みのないやつにいつまでも関わってるほど、暇な人生を送ってないんだ」
「ではビヴァ王女は見込みがある?」
「あたしもウソは吐きたくないんだよね。だから見込みがなくはない、としか言えない」
ビバちゃんが変な踊りを踊り出しそうな顔してるけど、我慢してモデルやってろ。
「今のビバちゃんはすごく頑張ってるよ? でも一八歳の王位継承権一位の王女に備わっていなければならないことが、全然足りてないのは事実」
「無念ですが、長い目で見てやって欲しいです」
「ハーマイオニーさんはこう言うけど、ビバちゃんは天才じゃないよ。ちっちゃい頃から帝王学を学んで、それでも国を滅ぼしちゃうことがあるのが王様っていう職業でしょ? 決して天才ではないビバちゃんが今からいくら頑張っても、良き女王の域に至れると思えん。時間は待ってくれない」
新聞記者とハーマイオニーさんルーネが頷く。
「だから分業すればいいのだ」
「「「分業?」」」
「うん。デスクワークは旦那と文官に任せりゃいいよ。ビバちゃんにも優れたところはあるから、そこを生かせばいい」
「優れたところ……とは?」
「外面の良さ。言い換えると固有能力『アイドル』がコントロールできるようになったおかげで、会った時の第一印象がすごくいいんだ。外交や接見に最適。これは誰にもマネできないビバちゃんの長所だよ」
ハーマイオニーさんの顔が晴れ晴れとすること。
やっぱ心配してたんだなあ。




