第2180話:シチメンチョウ様の危機意識
「わさ過ぎる」
「わさ過ぎますね」
「わさ過ぎるぜ」
「わさ過ぎるね」
「わさ過ぎるぬ!」
灰の民の村へ行く途中、湧き水の出る場所だ。
魔境クレソンがメチャメチャ繁茂している。
全部食べられると思うと愉快だな。
「これ見つけた時は夏の暑さには負けるかもって言ってたけど、ドーラくらいの暑さだと全然へーきだね」
「そうですねえ」
「これだけ生えてると征服したい気持ちになりやすぜ」
「あたしも征服したい気になってきたな。擂り下ろして骨スープで割ったやつ美味いから、今日はクレソンリッチなスープにしようか?」
「「「賛成!」」」
魔境クレソンの生命力の旺盛さは本当に心強い。
これがある限り、移民がいくら来ても飢えることがない気がする。
あたしの名前のついた自由開拓民集落でも、おいしい食べ方開発してるかもしれないな。
ん? ダンテ何?
「家畜のフードにはならないね?」
「そーいやワイルドボアは食べてたな。こればっかりってわけにはいかんのだろうけど、どの動物が食べるかは調べときたいわ。いや、その手のことは白の民がチェックするかな? ニワトリやシチメンチョウは食べそうだから、サイナスさんにたーっぷり持っていこう」
クレソンをたくさん抱え、『遊歩』でびゅーん。
◇
「サイナスさん、おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、いらっしゃい緑の大群」
「どんな言い草だ。いや、たっぷりの草だわ」
アハハ。
どさっとクレソンを降ろす。
「どーぞ」
「どうぞと言われても」
「じゃあダンテふうにプリーズ」
「言い方の問題じゃなくて、食べきれないんだが。これどこに生えてるやつなんだ?」
「あたしん家からここに来るまでの途中に、湧き水の出ることころがあるんだ。そこに植えたらあら不思議。緑の大群が現れたのでした」
「わっさわさでやすぜ」
「わっさわさだぬよ?」
クララとダンテも頷く。
「食べきれないほど食料があるのはありがたい。しかし緑の大群を見るとうんざりする。今は割とどこにでもあるから売れないし」
「どうやって食べるかは意外と重要だね。サラダばっかりじゃ飽きちゃうわ」
「ちなみに君達はどうやって食べてるんだ?」
「お肉と一緒に炒めたり、具だくさんスープに入れたり。今日は擂り下ろして、骨スープで割って食べようって言ってたところだよ」
「美味そうだなあ」
うまーい食べ方を考えてもらいたいな。
「人間様のエサとしてはもちろんなんだけどさ。ニワトリ様やシチメンチョウ様のエサとしてどうかと思って」
「なるほど?」
「ハトは食べないと思うけど、ニワトリは葉っぱ食べるじゃん。クレソンも食べるんじゃないかな」
「与えてみるか」
「シチメンチョウ様の御機嫌伺いに行こうよ。どうなってる?」
「ああ、調子いいよ。こっちだ」
シチメンチョウの飼育小屋へ。
◇
「あれ? おかしいな。エサがあるとゆーのに寄ってこない」
何故だかシチメンチョウが脅える。
どゆこと?
「ボスのシンキングがダダモレだからね」
「お前うまそーだなと考えてるからでやすぜ」
「実に失敬な言い草だな。だってうまそーに太ってるんだもん。あたしのせいじゃない」
「シチメンチョウが弱るといけない。ユーラシアは離れて見ててくれ」
「ええ? 理不尽だな」
しかしあたしも損得勘定にはうるさい方なので、弱って死んでしまっては大損だくらいのことはよーくわかる。
離れてよ。
クララがクレソンを持って近付くと……。
「おお、食べる食べる! これエサには何をやってたの?」
「ニワトリと同じだよ。穀物主体の飼料だ」
「クレソン混ぜるのオーケーじゃん。どんどん使ってよ」
「そうしよう」
タダで食べさせられる新鮮なエサがあるのは大変結構なことだな。
ニワトリ様にもあげてください。
さて、シチメンチョウ様が元気なのはわかったから、怖がらせない内に退散しようかな。
「今日ユーラシアは何しに来たんだ?」
「えーと、何だったかな? とりあえずお土産のお肉どーぞ」
「ありがとう。家で渡してくれればよかったのに」
お肉の重さに震えろ。
「さっきパラキアスさんと連絡取ったんだけど、移民が一日遅れてるんだって。今日レイノス港に到着予定だよ」
「了解だ。あとで各村族長とサブロー氏には連絡しておこう」
「あとは緑の民のショップに行こうかな」
「スキルスクロールの話か?」
「いや、おっぱいピンクブロンドのポスターがそろそろ売り出されてるんじゃないかと思って。一枚欲しいんだよね」
ドジっ娘女騎士メリッサとは別の意味で詐欺っぽい仕上がりなのだ。
新聞記者トリオやサボリ君など、おっぱいピンクブロンドを知ってる面々に見せて感想を聞きたい。
「じゃねー」
JYパーク緑の民のショップへ。
◇
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「よう、精霊使い。いらっしゃい」
最近新しいポスターが発売されるようになったからか、結構混んでいる。
儲けられそうで何より。
「『マイケ』のポスターの販売ってまだ?」
「今日からだぜ」
「やたっ! ツイてたな。『マイケ』と『メリッサ』とあたしの水着の方のポスター一枚ずつちょうだい」
「はいよ、毎度っ!」
代金を支払う。
店員が興味ありげだ。
「わざわざ『マイケ』を確認して買いにくるってのは、どういうことだい?」
「このモデルの人貴族の令嬢でさ。地はこの絵の通り活発な感じの人なんだけど、帝都では半乳出したようなドレス着てる、すげえ色っぽい人として有名なんだよ」
「そうなのか? 瑞々しい爽やかなお嬢さんかと思ったぜ」
「うーん。これ画集帝国版が出る時の一枚になるじゃん? 購読者の期待を外しちゃうんだったらよろしくないから、もう一度破廉恥バージョンで描いてもらおうかと思って。でもいい絵だから、これはこれでありなのかもしれない。ちょっとその辺の判断がつかないんで、いろんな人の意見聞きたいんだよね」
「『メリッサ』は?」
「黙ってるとこの絵みたいな人だよ。でもおっちょこちょいでかなりのトラブルメーカー。この前この絵を描いてもらった時なんだけどさ。最後のドーラ総督だった元公爵様を危うく絞め殺しそうになった」
「ええ? 裏話の方が面白いじゃねえか」
それな?
裏話付きのバージョン作ったら売れるかしらん?
検討してみよう。
「じゃーねー」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




