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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2175話:共闘決定

 副評議長マリボイラさん相手に完全にペースを握った。

 向こうの世界の神様について、今まで想像でしかなかった部分が大分明らかになった。

 あとは副評議長を仲間に引き込むだけだな。


「なるほどね。エルはこっちの世界『ユーラシア』の撹乱要因になるから引き上げさせるか。もっともらしく聞こえるけど、『アトラスの冒険者』で散々干渉してるのに今更だと思わない?」

「……」

「本音で喋って構わないぞ? ここチュートリアルルームに神様の手は及ばないから」

「「えっ?」」


 やはり副評議長もバエちゃんも知らない。

 よし、情報を提供しとこう。


「ど、どういうことですか?」

「神様は亜空間に隔たれた世界ごとにいるんだ。そっちの世界とあたし達の世界の神様は別なの。チュートリアルルームは亜空間で隔てられてるから、そっちの世界の神様の管轄下にない」

「ま、まさか神に管轄範囲があるなんてことが……」

「本当だぞ? だからバエちゃんの夢の中に神様が出てきたことはないはずだよ。本来なら、一番現場に近い職員の夢には当然出てきて指示するはずでしょ?」

「イシンバエワさん、本当なの?」

「えっ? あの、神様というのは正直わからないです……」

「以上が証拠でした」


 愕然とする副評議長。


「『アガルタ』限定の神だったとは……」

「で、こっちの世界の神様はあたしの夢の中に出てくることがあったんだ。最近は『アトラスの冒険者』のクエストの転送先で実際に会うこともできる」

「「えっ?」」

「だから神様についてはあたしの方が詳しいと思うよ。情報を共有しようじゃないか」

「はい!」


 よーし、食いついた!


「神様は自分の世界を発展させるのがお仕事、でも世界に直接手を加えるのは禁止されていて、せいぜい住民の夢の中に出てくるくらい。ここまでいいかな?」

「はい、そう聞いています」

「神様から住民に会うのはアウトでも、住民から神様に会うのはセーフなんだ。だからあたしはこっちの世界の神様に時々会ってるの。情報を得るのに有利だからね」

「ええ?」


 もっとも神様も、喋っちゃいけないことは多いんだけどね。


「神様の世界も給料制らしくて、『アトラスの冒険者』はそっちの神様にとってはボーナス案件なんだって。こっちの神様はそっちの神様に搾取されてるみたいで面白くなかった。だから『アトラスの冒険者』が廃止されることになって喜んでるの」

「……我々とは別に、神の事情がある……」

「ここから想像なんだけど、おそらくそっちの世界はどこの世界よりも発展してるんだ。つまりそっちの神様の仕事の成績がいいってこと。で、『アトラスの冒険者』の廃止をいい機会だと思ってるんじゃないかな。亜空間超越移動をやめさせ、外の世界に進んだ文明が伝播することを防ごうとしている」

「……自分の成績を維持するために?」

「多分」

「……今までの展開と矛盾がないです。一々腑に落ちる……」


 考えてる考えてる。


「こっちの世界にとってエルがいてくれることは、あたし達にとっていいことなんだよね。進んだ世界の住人だから、こっちの世界が栄えるためのヒントを持ってるかもしれない。しらばっくれてエル帰すのやめようぜって、あたしはこっちの世界の神様と話してるの」

「ユーラシアさんは敵になる?」

「よく考えてよ。エルがそっちの世界に帰っていいことある? 旧王族で複数固有能力持ちの可能性が濃厚、レベル四〇超えの美少女だぞ? 絶対に担ごうとする人が出てくる。社会を乱す要因になるって」


 思い当たることがあるんだろう。

 副評議長の顔から血の気が引く。


「どうやらそっちの神様は、外の世界に進んだ技術を流さないことで自分の優位性を保とうとしてるんだ。神様にとっては都合がいいかもしれんけど、現在のそっちの世界の指導者層にとって、波乱要因を抱え込もうとするのは嬉しいことじゃないじゃん?」

「……確かに」

「ほら、あたし達は敵じゃないよ。協力できる」


 次第に愁眉を開く副評議長。

 バエちゃんが心配そうに言う。


「ユーちゃんは副評議長に味方するの? シスター・エンジェルはどうなるの?」

「ちっちゃいことはどーでもいいんだとゆーのに。個人の細かい争いは勝手にやって下さい。あたしは関わりません。今重要なのは、天下国家の安寧と発展に関わる陰謀に対する着地点だとゆーのに」

「そうですよ、イシンバエワさん。天下国家のためです!」

「は、はい」


 まーバエちゃんは『アトラスの冒険者』の職員だから、組織のトップである無乳エンジェルを贔屓したいのかもしれんけど。

 そっちの神様の言うなりになってたら、無乳エンジェルだって困るんだぞ?

 とゆーか既に困ってるんだけれども。


「基本方針としては、こっちの世界がエルを手放さないという形になれば傷が一番少ないと思うんだ。言い方変えると、赤眼族と同じ対応ってことね」

「賛成です」

「シスター・エンジェルがエルを取り戻すために動いてる。こっちの世界にスパイを送り込んできてるんだよ。亜空間超越移動が使える『アトラスの冒険者』廃止以前に、強引な作戦に出ると思う。できればいつどんな作戦で来るか知りたい」

「……」

「マリボイラさん、調べられる?」

「やります」


 断言。

 いいだろう。


「そっちの神様に行動を知られると周りがいっぺんに敵に回るから注意ね」

「わかっております」

「チュートリアルルームで直接バエちゃんに知らせてくれればバレない。でもあんまり行き来してると疑われるから、決定的な情報を掴んだら来て」

「了解です。今日はありがとうございました。失礼します」


 転移の玉で帰っていく副評議長。

 不安げなバエちゃん。


「シスター・エンジェルは……」

「エルと親子だから別の目論見があるのかもしれない。でもシスター・エンジェルとエルがそっちの世界に帰って幸せになる未来なんて、クーデター起こして政権握る以外にある?」

「く、クーデター?」


 目を丸くするバエちゃん。

 ウィンウィンが難しいケースなんだよ。


「バエちゃんはチュートリアルルームから離れられないじゃん? 考え過ぎることないよ。聖女であるあたしのお仕事」

「聖女関係ないじゃないの」


 アハハと笑い合う。

 よしよし。


「今日は帰るね」

「うん、またね」

「バイバイぬ!」


 転移の玉を起動して帰宅する。

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