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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2172話:天使と悪魔の関係

 ――――――――――三二八日目。


「よーし、いい天気! あたしの善なる行いを天が賞賛している!」

「ハハッ、ユーちゃんはいつも調子がいいな」

「絶好調だね」


 今日は凄草株分けの日。

 いつものように畑番の精霊カカシ、大悪魔バアルとともにお喋りしながらの作業だ。


「カカシ、聖風樹は頼むね」

「おう。少しずつ植えてくるんだろ?」

「試験的にね。ヴォルヴァヘイム近くもこれで魔力が安定するといいんだけど」


 たくさん聖風樹を植えてみて、時間が経ってみないとわからん。

 聖風樹が育ち、魔道研究所の調査で魔力溜まりが形成されにくいことが確認されれば、とりあえず合格って言っていいな。

 それでも凶悪な魔物が出現しないとは限らんのだけど。

 

「もともと結構広い範囲で聖風樹生えてたっぽいんだよね」

「うむ、確かである。広い範囲が聖風樹林だったである」

「やっぱそーか。本当に効果があるとしても、やること多いしまだまだ先は長いなー」

「吾が主はそれでいいのであるか?」

「ん? どーしたバアル」

「わかるぜ。ユーちゃんが帝国に都合よく使われてるんじゃねえかってことを言いたいんだろ?」

「カカシの言う通りである! 許しがたいである!」

「そんなことで怒ってるのか。あたしはべつにタダで働いてる気はないけどな? 無償奉仕を約束した覚えもない」

「「えっ?」」


 あれ、意外なことじゃないだろ。


「明らかに巨大魔物出現抑制に効果があるぞって判明したところで、植えた聖風樹に権利があることを主張してもいいし、請求書送りつけてやってもいいじゃん?」

「向こうは断れねえじゃねえか」

「主導権握るのは交渉の基本だねえ」

「さすが吾が主である!」

「アハハ、まーでもうちはおゼゼに困ってるわけじゃないからね。あたしを崇め奉って重要で面白い案件に関わらせてくれるなら、それでいいと考えているんだ」

「強欲である! さすが吾が主である!」


 おいこら、今どこに強欲要素があったんだよ。

 当たり前だわ。

 世界一の大国にあたしの業績を刷り込んでおくのだ。

 いくらでも影響力を行使できるようになるわ。


 ためらいがちにバアルが言う。


「主は……アズラエルに会ったのであろう?」

「会った会った。かなり個性的な天使だね」

「アズラエルって例の予知の天使だろ?」

「そうそう」

「個性的ってのはどういうことだい?」

「普通の天使は悪魔嫌いなんだよ。ヴィルを連れてると、何故なら私達は天使だからっ! ってゆー独特な理由で襲いかかってくる」

「どの天使もかい?」

「ハリエルとバラキエルっていう銀髪天使がそうだったな。大体他の天使も同調してる感じで。天使達はつるんでるしね」

「わかるである」


 苦々しげな顔のバアル。

 バアルは好奇心旺盛だからか、いろんなことに首突っ込みたがるみたい。

 アンヘルモーセンに対しても興味があるんだろうな。

 手を出そうとして痛い目に遭ったことがあるのかもしれない。


「アズラエルは違うんだ。悪魔に対する忌避感はほとんどないと思う」

「そうなのであるか?」

「でないと説明のつかないことがあるよ」


 もしアズラエルが他の天使のように悪魔を毛嫌いしているとする。

 ならばヴィルの転移先を正確に予知して先制攻撃を仕掛けていたはずだ。

 防御態勢の取れていない時に攻撃を受けるのは怖いものだが、アズラエルはそうしなかった。


「ただ悪魔に甘いって意味じゃないぞ? 用もなく天使のナワバリであるアンヘルモーセンに近付こうとするもんなら、予知されてしっぺ返しを食うだろうな」

「ふむ……」

「ま、アズラエルは天使の中では一番面白いよ」

「わかったである。覚えておくである」

「天使と悪魔の関係ってのもわからねえなあ」

「それな? 天使はやたらと悪魔を目の敵にして突っかかってくるんだよなあ。悪魔は天使に対してどうなの?」

「天使に会ったらどうするかということであるか?」

「うん。天使のことを嫌いは嫌いなんだろうけど、ケンカしたって得にはならんから悪魔は何にもしないんじゃないかと思ってる。どう?」


 大きく頷くバアル。


「その通りである。天使どもは群れているゆえ、手を出すと反撃を食らうである。バカバカしくてやってられないである」

「だよねえ。やっぱ悪魔の考えの方があたしにとってはわかりやすいわ」

「ユーちゃんは悪魔寄りだからだぜ」


 また悪魔寄り理論か。

 個人主義で合理的ということなら否定できないんだよな。

 天使は感情的というか、合理性より原理原則が先に来る気がする。


「過去には配下を引き連れて天使と戦争を起こした魔王もいたである」

「へー、その魔王は相当腹に据えかねたんだろうなあ。バアルに得があるとは思えんから、参加しなかったんでしょ?」

「するわけないである」

「当然天使が勝ったんだよね?」

「その通りである」

「え? 何でユーちゃん、天使が勝ったってわかるんだ?」

「そりゃまあ。あたしだってヴィルを天使国アンヘルモーセンに連れていくにあたっては色々準備したくらいだし」


 個々の天使は悪魔より総じてレベル低めかもしれんよ?

 でも相性の問題がある。

 天使は闇属性攻撃に強く、悪魔は聖属性攻撃に弱いというハンデが大き過ぎるのだ。

 連携取られて各個撃破されたら勝てるわけない。


「もうとりあえず揉めることないから、天使国のことはいいや。カカシ。昨日のイヌハッカはどう?」

「問題ないと思うぜ? シソやミントの類の植物は、ドーラの気候には合ってる。放っといても育つぜ」

「そりゃ心強いね」


 ハーブは食用としてだけでなく、エメリッヒさんの香料の研究にも利用できそうだから集めたいな。


「南の帝国はどうだい?」

「シンカン帝国? まだまだこれからだな。でも偉い人に繋がるルートが見え始めてきたから、今後の展開が楽しみではあるけどね」

「ほう、そうかい? オイラが聞きたかったのは、そそる植物はねえかってことだったんだが」

「あると思う。何か知らない菜っ葉見た」


 ただまだあたし達はライオンの洞窟から外に出ていない。

 シンカン帝国でどんな栽培植物があるかってことは知らないのだ。

 楽しみが残っているとも言う。


「さて、植え替え終わり! 朝御飯だ!」


 朝食を食べたら、チュートリアルルームで向こうの世界の立法評議会副評議長と会うことになる。

 ヴィルだけ連れていくか。

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