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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2168話:働けあたしの『ゴールデンラッキー』

「御主人!」

「よーし、ヴィルいい子!」


 飛びついてきたヴィルとクララをぎゅっとする。

 クララ込みの新しいパターンもちょっと慣れてきたような気がするな。

 よしよし、いい子達だね。


「メルヒオール殿!」


 聖モール山越え街道のチョップ男爵家領側の起点に行ったら、領主のルイトポルトさんおるやん。

 男爵様がなぜここに?

 すっ飛んできたぞ?


「どうした、ルイトポルト殿。トラブルか?」

「強い魔物を排除できないのです。作業が遅れています。海が荒れていたせいで連絡もできず、まことに申し訳ない」

「だろうと思ったのだ。たまたまユーラシアが来たのでな。様子を見にきた」

「魔物退治ならうちのパーティーに任せてよ」

「助かります!」


 ふむ、メルヒオールさんの読み通り、魔物に苦戦してるってことだったか。

 あとはあたしのカン通り昼御飯ことコロッサルパンダが出て、予定通り倒せばいいだけだ。

 うまくいきますように。

 働けあたしの『ゴールデンラッキー』。


「魔物除けの石をある程度持ってきているから、まず適当な間隔で置いてもらえるか? 道の整備や魔物除けの石を埋め込むことはあとでいい」

「わかりました」

「最初の予定通り、ゼムリヤ側では峠まで魔物除けの石を運んであるのだ。領境を越えることになるが、向こうからも魔物除けを置いてきてよいだろうか?」

「もちろんです」

「ユーラシア、ブラハムの元へヴィルを送ってくれ」

「ヴィル、ブラハムのおっちゃんとこ行ってくれる?」

「わかったぬ!」


 掻き消えるヴィル。

 さっき転移してきた時もそうだったけど、男爵家領の皆さんは相当驚いてるなあ。

 やっぱ田舎だから。

 赤プレートに反応がある。


『御主人! ブラハムだぬ!』

『オレだ。お嬢ちゃんか? 事態が動くのか?』

「ウルトラチャーミングビューティーことあたしだよ。メルヒオールさんに代わるね」

「ブラハム、許可は取ったから領境を越えて構わん。街道沿いに魔物除けの石を置いてきてくれ。まだ埋めなくていい」

『了解だ。任せてくだせえ!』

「ヴィル、大丈夫だとは思うけど、作業の最中は一応そっちの皆さんをガードしててくれる?」

『了解だぬ!』

「ありがとう。あとで呼ぶよ」


 赤プレートをしまう。

 峠側はオーケーだな。

 男爵家領ブラウンシュヴァイク側からも作業を進めよう。


 ルイトポルトさんが言う。


「魔物除けを持っていれば、魔物は逃げていくものですかな?」

「いや、そこまでの効力はないな。設置しておけば魔物が嫌って寄らなくなる、くらいだ」

「魔物除けに鈍感な魔物もいるよねえ?」

「その魔物の持つ邪気の強さが影響するのだと思う。肉食魔獣や霊魔の類には特に効果が大きいな。逆に草食魔獣にはさほど効かない」


 メルヒオールさんも経験的に、草食魔獣には魔物除けは効きづらいと知ってるんだな。

 あたしん家に以前出た、ネズミのでっかいやつも効きがよくないタイプだ。

 ドーラの西域街道にも草食魔獣は出ることがある。

 肉食魔獣や霊魔なんて実際の強さはさておき、好戦的だから危険度は草食魔獣と段違いだ。

 ヤバいやつを排除できるのは大きい。

 が?


「ところで排除できない強い魔物って何なの?」

「コロッサルパンダですぞ。大きな個体が居座っていて動かないのです」

「やたっ!」

「えっ?」


 ポカーンとするルイトポルトさん以下男爵家領の皆さん。

 『やたっ!』はまずかったか。

 雰囲気の読めない子と思われるのもバトルマニアと思われるのもよろしくないな。

 何故ならあたしは聖女だから、とゆー天使っぽい思考。


「パンダ肉は大変おいしいらしいから、今日のお昼御飯にしたかったんだ」

「ハハッ、さようでしたか」

「狩ったらもらっていい?」

「もちろんよろしいですとも」

「一頭だけしかいないのかな?」

「現在邪魔になっているのは一頭ですな」


 ちょっと残念だな。

 まあ珍しい種類の魔物らしいし、仕方ないか。

 クマみたいなやつで大きい個体ってことだったから、一頭だけでも食いではあるだろ。

 大食いの上皇妃様がいっくら食べても、皆の分くらいはあると思いたい。


「件の魔物は山の中腹、ここから強歩半日くらいのところにおります」

「じゃ、昼御飯倒して魔物除けの石置いとくね」

「ルイトポルト殿はこちら側からの作業を開始してくれ」

「わかり申した!」

「クララ、お願い」

「はい、フライ!」


 クララの高速『フライ』でびゅーんとお昼御飯のところへ。


          ◇


「いたいた。ほんとだ、白黒だ。派手に思えるけど、木々の間だと割と目立たんな?」


 あれがコロッサルパンダか。

 カラーリングのせいでパッと見そうとは思えんけど、確かに体つきはクマだな。

 クマ肉は美味いものの、若干臭みがあるのが特徴だ。

 でもこいつは竹が主食らしいから、臭みがないのかもしれない。

 期待度は高まるわ。


 少し距離を取ったところにフワリと降り立つ。

 動じない魔物だな?

 ユーモラスな姿が可愛いと言えないこともない。


 ウ殿下が言う。


「結構強いじゃないか」

「そうだねえ。でも見かけだけじゃ噂通りおいしいのかはわからんな?」


 魔境の魔物ほどじゃないけど、今までに遭遇したどの草食魔獣よりも強そう。

 防御力高いから、簡単に首刎ねてオーケーってわけにいかないな。

 普通に倒すか。


 メルヒオールさんが聞いてくる。


「ユーラシア、なるべく傷をつけずに倒せんか?」

「あ、毛皮いる? 変わった模様だもんねえ」

「そうだな。なかなか美しい毛並みだ」

「わかった、任せて」


 大きい個体のようだしな。

 せっかく命をいただくので、利用できる部分が多いに越したことはない。


「戦闘に入りまーす。向こうの攻撃ターンが一回入るよ。しっかりガードしててね」


 レッツファイッ!

 ダンテの豊穣祈念! コロッサルパンダのバンブーアタック! メルヒオールさんが受ける。あたしの雑魚は往ね!


「リフレッシュ! よーし、予定通り昼御飯と毛皮ゲット!」

「予のレベルが上がったな」

「よかったねえ」


 残念ながらドロップはなかった。

 その分肉質の上等さでカバーしてくれるといいな。

 でもウ殿下のレベルが上がったのは、おまけとはいえ喜ばしいことだ。

 血抜きして魔物除けの石を置いてと。


「ユーラシア、ブラハムと連絡を取ってくれるか。こちらの状況を報告しておきたい」

「りょーかいでーす。ヴィル、聞こえる?」

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