第2164話:連絡×二
『あんたか』
「あっ、エメリッヒさん?」
『そうだ。何かと思ったぜ』
貿易商ベンノさんからのスキルスクロールの注文の内容が訂正になった。
ヴィルでスキルスクロール作ってる緑の民と連絡取ってもらったら、元宮廷魔道士エメリッヒさんに繋がった。
「今日はエメリッヒさんがスクロールのチェックの当番の日なの?」
『いや、アレク達もいるぜ? 午前中は塔の村へ行ってたみたいだが』
「エメリッヒさん忙しそうなのに、ずっとスクロールのチェックしてくれてたんだ?」
『暑いんだよ。火なんか使っていられねえ』
香料を分離するのに火を焚かなきゃいけないが、熱くてやってられんとゆーことらしい。
ハハッ、ごもっとも。
涼しい季節だけやってりゃいいとも思うが、材料にも旬があるか。
季節を選べんのかも。
「うちに余ってる『氷晶石』あるけどあげようか? 涼しい環境作れない?」
『氷晶石』は魔力を吸うと冷たくなる石だ。
以前は冷蔵庫代わりに使っていた。
が、聖風樹の箱がお肉の保存に使えるとわかってからは、活躍の場が少なくなってしまったのだ。
『本当かよ! もらう!』
「今度持ってくね。効率よく部屋を涼しくする魔道具作って欲しいなあ」
うちでも涼を取るのに使っちゃいるが、空気が動かないとあんまり涼しさが感じられないんだよな。
触ると冷た過ぎるから、案外難しいのだ。
フェルペダで部屋を涼しくする機構があったけど、あれはどうやってるんだろ?
魔道具ではないかもしれんしな?
『それであんたどうしたんだ? 何の用だ?』
「あっ、そうそう。来月の輸出用スキルスクロールの注文のことだけど。水魔法『アクアクリエイト』二〇〇〇本、盾の魔法『ファストシールド』一〇〇〇本だったでしょ?」
『ああ、その通り』
「水魔法二〇〇〇本、盾の魔法七〇〇本、消火魔法『ヒナギ』三〇〇本に変更してくれっていう依頼だよ」
『了解だ。急な変更は事情があってのことか?』
「帝国にとって火事対策はすげえ重要なことみたいで。施政館にこんな魔法できましたって『ヒナギ』の宣伝に行ったら、えらい食いつかれたの。早急に『ヒナギ』使える人員を配備したいからってさ。プリンスルキウス陛下直々に貿易商んとこまで行って、注文の変更を申し入れるくらいの熱心っぷり」
『じゃあもう貿易商には話通ってるんだな?』
「うん、通ってる」
『『ヒナギ』三〇〇本か』
「帝都の現役の騎士正隊員と近衛兵に習得させるつもりみたいだよ。合わせるとそれくらいの数なんだって」
『いや、三〇〇くらいなら、盾の魔法の分を削らなくても追加でよかったのに』
「まーエメリッヒさんの言う通りなんだけどさ。ドーラのスキルスクロール生産量は、月に三〇〇〇本が限界と思わせときたいっていう事情もあるの」
『ほう?』
ここまで言えばエメリッヒさんにもわかるだろ。
魔法やバトルスキルは軍事利用もできるものだからね。
ドーラが警戒されるのはよろしくない。
『三〇〇〇本生産できるってのも大したもんだけどな。非魔道士が生産に関わってるって知った時は驚いたぜ』
「でしょ? じゃ、注文の変更についてはよろしくね」
『わかった』
「ヴィルありがとう。イシュトバーンさんと連絡取ってくれる?」
『了解だぬ!』
ヴィルはとてもいい子だ。
最初に会った時は不機嫌というか、悩んでるような状態だったけど、最近はいつもニコニコしていて機嫌良さそうだ。
うちの子になって充実した生活を送ることができているんだろうな。
いいことだ。
あたしも嬉しい。
『御主人! イシュトバーンだぬ!』
『おう、精霊使いか?』
「そうそう、美少女精霊使いかつ美少女聖女のあたし」
『どうした。面白いことだな?』
「がっつくなあ。何度か話したフェルペダの王女いるじゃん?」
『おう、『アイドル』持ちの、あんたみてえにとんでもないやつだな?』
「あたしはとんでもなくないわ。その子ビバちゃんって言うんだけど、絵を描いて欲しいんだよね」
『わかったぜ。いつだ?』
「四日後だけど、都合どうかな?」
『大丈夫だぜ』
「じゃ、四日後。朝に迎えに行くね」
何も聞かないな。
あたしの紹介するモデルはいい女だと信頼してるからだろう。
もっともビバちゃんは可愛いことは間違いないし、とんでもないことも間違いない。
『で、面白話だが』
「一昨日会ったばかりじゃないか。どーして新たな面白話が待ち受けていると思うのか」
『ねえのか?』
「なくもないけど」
『あんたは期待を裏切らねえな。で?』
「以前チラッと言ったけど、『世界最大のダンジョン』ってクエストがあったじゃん? ちょっと面白い展開になってきた」
『ほお? 世界最大は伊達じゃねえってことか』
「ダンジョンが面白くなってきたってのは語弊があるな。ダンジョンは不味そーなライオンばっかり出てきて実に萎える」
『何が面白えんだ?』
「そのダンジョンがシンカン帝国にあることがわかったの」
『ほお?』
いかにも興味ありそうな声の響きだ。
シンカン帝国はあたし達とはほぼ交流のない南の大国。
商人の血が騒ぐのかもしれないな。
『ついにあんたの行動範囲は放熱海を越えたのか』
「越えちゃったんだよ。美少女聖女世界を翔けるって感じ。シンカンってのはライオンって意味なんだそーな。ライオンが国の象徴で、ライオンの魔物ばっかり出るダンジョンは神聖視されてる」
『ふんふん、それで?』
「世界最大のダンジョンの入り口の集落で、ライオンの身体の一部を取ってこいっていう成人の儀式があってさ。ちょっと手伝ってやったら、国の偉い人から使者が来るかもみたいな話になった」
『シンカン帝国のお偉いさんと知り合いになれるかも知れねえのか?』
「そゆこと。魅力的な展開でしょ? ただの田舎の風習だと思ってたのが、思わぬ方向に転がってってビックリ」
あたしには面白いイベントが提供されることが多い。
何の神様に感謝すればいいんだろうな?
「シンカン帝国ったって広いから、連絡のやり取りだけでかなり時間はかかりそう。イベントの進みは遅いんだろうけどさ」
『楽しみが続くってことじゃねえか。話が進んだら聞かせろよ』
「うん。じゃ、四日後よろしく」
『おう』
「ヴィルありがとう。こっちに戻っておいで」
『はいだぬ!』
さて、魔境とぴー子のエサだな。




