第2161話:お相手候補者達と会ってみる
イシュトバーンさんに絵を描いてもらってビバちゃんの印象を良くしよう大作戦についてはさておき。
「今日はビバちゃんがお婿さん候補と会うって聞いたんだけど」
「あなた先に会ってくださらない?」
「えっ?」
ビバちゃんは何を言ってるのだ。
あたしの旦那選びじゃないだろーが。
いや、あたしもフェルペダの有力者の子弟に会いたいのは山々だけれども、ビバちゃんに紹介してもらうのが筋だろ。
先に会うってのはどうよ?
グラディウスのおっちゃんが言う。
「うむ、ユーラシアが先入観なしに見てくれ」
「ビバちゃんにピッタリ合う人をってこと? あたしビバちゃんとの相性はわかるけど、お相手候補の人の身分とか立ち場とかは知らんもん。無責任なことはしたくない」
ビバちゃんの首ちょんぱがまともにかかってると考えると、さすがに笑いごとじゃすまない。
いや、笑いごとかな?
皆結構な令息だから、どの人を選んでもいい?
何人いるんだろ?
「もちろんユーラシアの意見のみで決めるわけじゃない。あくまで参考にするという意味だ。気楽に会ってくれ」
「そーゆーことなら」
「助かる、こっちだ」
会議室のような部屋だ。
ルーネとヴィルを連れて入室する。
もう一つ何を期待されてるのかわからんのだが、令息方に会うこと自体はあたしのメリットだからな。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「あっ、失礼ですがひょっとしてユーラシア嬢とルーネロッテ嬢?」
「とヴィルだぬよ?」
「よくわかったね。正解です」
中には平均年齢二〇歳弱くらいの青年五人がいた。
声をかけてきたのは二番の名札をつけた、一番レベルの高い人だ。
武術の心得もありそう。
おそらくは騎士。
あたし達の可愛さとレベルで誰だかを判断したんだろうな。
がっしりした体つきと精悍な顔はビバちゃん好みではないかもしれないけど、相性は悪くない。
「皆さんは今日、何で集められたか知ってる?」
「ビヴァ王女の配偶者選びと拝察しているが……」
やや神経質そうな四番の眼鏡男子。
頭良さそうで、切れ者文官タイプ。
事務仕事をバリバリこなしそう。
でも残念ながらビバちゃんとは性格が合わんかもな。
「お婿さん選びまでは行かないけど、顔合わせしてみよってことだよ。もうドアの向こうにビバちゃんがいます。この時点でビバちゃんの婿なんか真っ平ごめんだって人は退場していいよ」
ふむ、全員立ち上がる気配なし。
それなりの野望はお持ちのようだ。
いいねえ、将来の王配候補はそうでなくては。
一番のいかにも貴族の子弟って人が挙手する。
パッと見貴公子で、顔は最もビバちゃん好みだと思う。
しかし人間としては平凡。
「ビヴァ様は神秘のヴェールの向こう側のお方だ。ここにいる五人は誰もビヴァ様と会話したことがない。ユーラシア君はビヴァ様と親しいと聞いたよ。できれば人となりを教えてくれないかな」
「オーケー。あんた達は多かれ少なかれビバちゃんについて調査はしてると思う。半月前までトンデモ王女だったのは本当。こんな子がトップになったら間違いなくフェルペダ滅びるわって意味のあたしの発言に対して、居並ぶ群臣の皆さんが誰も疑問を差し挟まなかったくらい。平民に今日食べるパンすらないのですと泣きつかれました、どうしますかって質問したら、『パンがなければお肉を食べればいいじゃない』って答えてたぞ?」
皆が頷いてる。
この辺までは聞いてるんだな。
ビバちゃんに対する事前調査は五人とも行き届いていると見ていい。
年齢はこの中で一番低いんじゃないかっていう、巻き毛の可愛い五番の子が聞いてくる。
何かの固有能力持ち。
悪くないけど、ビバちゃんのお相手としては即戦力がいいので、ちょっと選びづらいかな。
「ビヴァ様は『アイドル』という、無差別魅了の危険な固有能力をお持ちだと聞きました。その点についてはどうでしょう?」
「本来の『アイドル』はちょっと他人に好かれるくらいのもんなんだそーな。ビバちゃんの場合は強く発現してて、しかもコントロールが利かなかったからアンタッチャブルになってた。レベルを上げればコントロールできるってことを知ったんで、二番さんに近いレベルにまで上げてきました。今は『アイドル』に関しては心配しなくていいよ」
「レベルを上げるって……」
「あたしの得意技なの」
皆さん疑問かもしれないけど、パワーレベリングは本題じゃないのだ。
悪いけどサラッと流した。
三番の大男が挙手する。
うむ、見るからに落ち着きがあってできる男。
ビバちゃんとの相性も一番いい。
何かの固有能力持ちで、二番ほどじゃないがある程度のレベルがある。
この五人の中では、ダントツでビバちゃんの旦那候補として推せる。
「ユーラシア嬢が王女殿下をあちこち連れ回していると聞いた。その心は?」
「ビバちゃんは『アイドル』のせいもあって教育が遅れてたじゃん? だから政務は全く期待できない。施策立てるなんてとてもとても。社交も制限されてた。となるとビバちゃんが将来の女王として存在感を発揮できるのは外交しかない」
頷く全員。
「ビバちゃんは正直過ぎるわ。外国とつばぜり合いの折衝ができるとは思わんけど、固有能力『アイドル』のおかげもあって外面は悪くないんだ。各地の有力者と会わせとくのはいいかと思って」
「うむ、憚りながらフェルペダを代表して感謝申し上げる。そして王女殿下の配偶者に必要な資質は何だろう?」
この三番の大男は答えを心得ていて、あたしに言わそうとしてる気がする。
悪い男だな?
ビバちゃんがああだから、フェルペダの王配は悪いやつじゃないと務まらんけれども。
「そりゃまあ普通に考えて政務だねえ。これ覚束なきゃ話になんない」
五人に伝えるのは理屈で理解できることだけだ。
あえて相性のことは言わない。
今の段階で政務を問題なくこなせそうなのは、三番の大男と四番の文官タイプの男と見た。
「皆さんが将来のフェルペダを背負って立つ人材だということは、実際に会ってみてよーくわかりました。婿として誰が選ばれるかはいろんな事情もあるんだろうけど、恨みっこなしだぞ? あたし達はこれで退場しまーす。ビバちゃんが入ってくるまでの間、将来の有力者同士で交流を深めとくのがいいと思うよ」
チラッと煽って部屋の外へ。




