第216話:持つ者と持たざる者
「精霊使いユーラシアとその従者がやって来たぞお!」
「やって来たんだぬ!」
「「ユーラシア!」」
食堂に入るやいなやオーバーアクションな名乗りだ。
理由があるんだって。
リリーと黒服でなく、あたしに注目を集めるため。
決してギャグではないのだよ。
ヴィルもいい仕事した。
お、エルとレイカのパーティーはいるけど、他に冒険者はいない。
しめしめ、貸し切り状態だ。
レイカが聞いてくる。
「二人はどちらさんだい?」
「今から説明するよ。ヴィル、コケシ、チャグ、ちょんまげ、あたし達内緒話するから、あんた達さりげなく周りを警戒しててくれる?」
「姐さん、おいちゃんニポポよ? 覚えて?」
ちょんまげが何か言ってるが華麗にスルー。
うむ、やはりコイツは他に人間がいても、あたしやエルとなら喋る子だな。
「ちょっと頭寄せて。手早くいくよ。今から話すことは他言無用で。この二人はカル帝国の第七皇女リリーとその従者セバスチャン。帝国にいづらくなって、そして腕試しをしたくてドーラに来たよ。帝国に追われてるわけじゃないけど、今後ドーラと帝国はゴタゴタするから、彼女の身元がバレるのはよくない。レイノス出身のお嬢冒険者っていう設定で通すことにした。何か質問は?」
レイカが聞く。
「仲間扱いでいいんだな? 気は使わないぞ?」
「うむ、よろしく」
「じゃあ今度はこっちのメンバーを説明するよ。ゴーグルの子が精霊使いエル、異世界人だ。これ秘密だぞ?」
リリーと黒服が代わる代わる聞いてくる。
「ドーラには精霊使いが多いのか?」
「多くはないな。『精霊使い』の固有能力は結構なレアで、あたしもエル以外には会ったことない」
「異世界人とはどういうことですか?」
「文字通り亜空間中に浮かぶ、こことは別の実空間の中の世界から来た人って意味だよ。エルはあんた達より事態が深刻なんだ。向こうの世界から追われる可能性がある。特徴的な赤い瞳をしてるけど、それで特定されるのを防ぐためにゴーグルを装着している。で、エルの従える精霊がコケシ、チャグ、ちょんまげの三人」
「ニポポだってばよ!」
スルーだってばよ。
「つまりエルが異世界人であるということが秘密なのだな?」
「まあそう。エルも目立つからどこまで秘密にできるかわからんけど、キャラの濃い連中を一まとまりにしとけば互いに紛れるかと思って」
黒服が苦笑している。
容姿や実力でエルやレイカが一目置かれ始めているのは、あたしも感じている。
そこにリリーも放り込めということだ。
塔の村のアイドル三人娘だね。
ファンになった他の冒険者達がバリアとして機能するようになれば理想的だな。
「続いてこちらの三人ね。赤髪三つ編みの子が火魔法使いのレイカ。あたしの出身地の隣村の出だよ。ここ塔の村はできてまだ一ヶ月くらいなんだけど、成り行きでその創立メンバーの一人になった。男の子がレイノス出身の剣士ジンと、あんた達が引っかかった村よりちょこっと東にある集落出身の拳士ハオラン。黒服さんはジンにレイノスのことをよく聞いておくと設定を詰めやすいと思う」
「ドーラの中心都市レイノス出身だという設定についてですね? わかりました」
黒服は頷く。
黒服がしっかりしてるから、リリーの言動が多少アレでも問題ないだろ。
「あたしからは以上かな。他何かある?」
リリーから質問が飛ぶ。
「エルの出身地についてはどういう決めになっているのだ?」
あれっ? リリーは案外鋭いな。
気にしたことなかったわ。
盲点だったよ。
「レイカわかる?」
「他の冒険者にエルの出身地を聞かれたことはないな。おそらく灰の民だと思われてるんじゃないか? 初期からいるし、精霊使いだし。ユーラシアと混同してる者もいると思う」
黒服が問う。
「灰の民とは何です? 精霊使いだと灰の民なのですか?」
「その辺も説明が必要だね」
帝国本土の人だとドーラの地方事情はわかんないよな。
「ドーラ植民地のノーマル人居住域東端は、カラーズって呼ばれてる集落群なんだ。あたしの出身地の灰の民の村やレイカの出身地の赤の民の村みたいに、それぞれの村に色の名前がついてる」
「だからカラーズなのか」
「そうそう。灰の民は精霊とともに生活する部族でね。集落はカラーズの中でも最も東にある。精霊は人と接触を持とうとしないんだけど、親和性の関係で灰の民とだけは普通にコミュニケーション取れるんだ。だから精霊関係は灰の民っていう、一種のお約束があるの」
レイカが続ける。
「ただ精霊を従えることができるほど、強い支配力のある者はごく稀なんだ。また同じドーラ人でも、カラーズの事情は他所の地域の人はさほど知らない」
「ほう、ではエルは灰の民でいいのだな?」
「そこがなー。この村作ったの、レイカ以外は灰の民なんだよ。だから聞き込みするとエルが灰の民じゃないことはすぐわかっちゃうんだ。秘密を共有する者は少ない方がいいから、皆に口裏合わせ頼むくらいなら本当のこと言っとけばいいんじゃない? 『精霊使い』の素質を見込まれ、塔の村の冒険者のエース候補としてデス爺にさらわれてきた、エルは故郷のことは思い出したくない、で辻褄合いそう」
リリーと黒服が驚く。
「さらわれてきたって……」
「ある意味本当だ。でもボクは向こうで閉じ込められていたから、こっちに来ることができて嬉しい」
故郷から遠く離れた地にはるばるやって来た者同士。
リリーには感ずるものがあったようだ。
「似たもの同士だな。よろしく」
「こちらこそ」
二人はハグする。
が、途端にエルの顔が曇る。
「ど、どうした! 臭かったか。すまんの。身体を洗う機会がしばらくなくてな……」
「ち、違うんだ。何と言ったらいいか……」
「リリーにあるものがエルにはない、それだけのことだよ」
リリーには合点がいったようだ。
こらコケシ、ウズウズすんな。
「おっぱいか、おっぱいのことなのか! エルは人形のように整った可愛らしい顔をしておるではないか!」
「持つ者には持たざる者の気持ちはわからない……」
レイカはレイカでニヤニヤしてるし男性陣は空気だし、あーもう!
「ヴィル、出番だよ」
「了解だぬ! ぎゅー」
「癒されるー!」
こーゆー活躍させるためにヴィル連れてきたんじゃないんだけど。
まあ役に立ってよかった。




