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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2158話:サイナスさんの『さ』はさすがの『さ』

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。


『ヴィルが届けてくれたこの絵が?』

「おっぱいピンクブロンドの絵だよ。何がどうおっぱいピンクブロンドなのかわからんかもしれないけど、おっぱいピンクブロンドなのは間違いない」

『また昨日のようなおっぱいピンクブロンドの氾濫だなあ』


 おっぱいピンクブロンドと言いたいだけだ。


『とても魅力的な美人じゃないか。全然問題ないと思うけど』


 おっぱいピンクブロンドを実際に見たことのないサイナスさんは肯定的だろう。

 でもなー。


「帝都のおっぱいピンクブロンドは、ツンと澄ましてて顔半分扇で隠して、代わりにおっぱい半分見せてるようなドレス着てるんだよ。その絵を見ておっぱいピンクブロンドとわかる人がどれだけいるのか。こんなのおっぱいピンクブロンドじゃないと言われたら、あたしも納得しそうだからねえ」

『買い手が何を期待してるかということか?』

「顧客満足度は何よりも大事じゃん?」


 売ってお終いみたいな商売はしたくない。

 今後のこともあるから。

 モノクロだからよろしくないんだよな。

 カラーならあの絵でもおっぱいピンクブロンドと一目で理解できるだろうに。


『もう一枚描いてもらえばいいじゃないか。ユーラシアが納得できるやつを』

「その方がいいかも。イシュトバーンさんの右手も余ってるだろうし」

『何だ、右手が余ってるって。でもこのウマとの絵もすごくいいけどね』

「あたしもいいと思うんだよね。煽り文句で調整する手もあるか」


 ポスターできたら新聞記者トリオに見せて、あらかじめ情報を流しておくか。

 でもイシュトバーンさんも、おっぱいピンクブロンドらしい絵を描きたいだろうからな?

 『スライムスキン』使用のドレスの宣伝まで考えられる。

 どっちにしても社交シーズンに入って、おっぱいピンクブロンドが帝都に来てからの話になるか。


「ま、あとで考えりゃいいや」

『今日雨だったろう? どうしてたんだい?』

「ちなみにサイナスさんは雨の日どうしてるの? JYパークで露店も出せないでしょ?」

『そりゃ家にいるよ。雨の日は畑の水やりも必要ない。完全休業日だ』


 うちはカカシがいるから、水やりは特に大変ではない。

 でも一般には水やりって重労働だわ。

 晴天の多いドーラでの大規模農業には、散水の魔道具の開発が必要かもな。


「午前中は『世界最大のダンジョン』、昼に海の女王んとこ、午後は帝都だよ」

『落ち着きがないなあ』

「世界があたしを必要としてるからね。シンカン帝国のダンジョン、ちょっと面白いことになってきたよ」

『ユーラシアが面白くなってきたと言うのなら、有力者と会えるかもしれないみたいな方向性か?』

「あれ、よくわかるね?」

『事件があったとかの話として面白い場合には、おかしなことになったって言い方するからな』


 そーかも。

 サイナスさんの『さ』はさすがの『さ』。


「『シンカン』ってのはライオンのことなんだそーな。つまりシンカン帝国ってライオンを象徴だか守り神だかにしてる国」

『じゃあライオンを狩っちゃダメなんじゃないのか? 気のせいか?』

「考えてみればサイナスさんの言う通りだな? 現地の人の折り合いはよくわかんないけど、ライオンの魔物を狩ると勇士くらいの扱いだよ。異文化コミュニケーション難しい」


 ライオン自体が象徴というより、強さを尊ぶのかもしれないな。

 強さの代名詞としてライオンが用いられている、そんなイメージだ。


「この前あたしが成人の儀を手伝った子、ウタマロって言うんだけど」

『うん、君との縁談とかになっちゃうのか?』

「ならないわ。でも現地ではあたし嫁の話が出てたな。結構な信憑性があった感じ」


 何故なのだ。

 ごめんなさいしたろーが。


『何だかんだでユーラシアは可愛いし、実力者だからな』

「で、世にも稀な美少女が後見になった関係で、ウタマロが神に愛でられし男扱いされてんの」

『つまり成人の儀式でいい成績だったから、有望株と見られているんだな? それで?』

「成人の儀がド田舎の風習かと思ってたら、どうも違くて。ライオンの洞窟自体が国で神聖視されていて、その番人である近辺住民は『獅子の民』と呼ばれているんだそーな」

『ランクが高いってことか?』

「まだあたしも把握し切れてないけど、一種の宗教ってゆーか土着信仰みたいなもんなのかも。とにかく成人の儀でライオンのいい部分を持ち帰ったウタマロのことは、皇帝陛下にまで連絡が行ったらしいの」

『一気に話が大きくなったな』

「ウタマロんとこには、国のお偉いさんの娘が嫁に来るかもしれないんだって」

『ははあ、だから面白いと』

「今すぐってのではないんだろうけどね」


 シンカン帝国のお偉いさんと知り合うきっかけができた。

 とゆーかウタマロ自身がかなり高い地位の人になるかも知れない。

 楽しみなのだ。


『そのウタマロというのはどんな人なんだ?』

「『忍術』っていう、ちょっと変わった魔法を使える固有能力持ちだよ。これまで『忍術』持ちって、塔の村の精霊使いエルの配下の精霊しか知らなかったんだ。シンカン帝国では『忍術』持ちは多いんだって」

『性格とかは?』

「ごくまともで理性的だな。シンカン帝国全体の水準はわからんけど、『獅子の民』の中では高い教育を受けてる人だと思う」

『後押しすることにしたのか。君が扱いやすいと見たんだな?』

「まあぶっちゃけそう。ウタマロが有力者になれば、あたしにとって都合がいい」

『必ず君の都合が優先されるのがえぐい』


 当たり前だとゆーのに。

 あたしに都合のよくない人をプッシュする意味がない。


「『世界最大のダンジョン』自体は、名前から想像するほど面白くないんだよね。ライオンしか出てこないし」

『不味そうな肉だとテンション上がらないということだな?』

「サイナスさんはあたしのことがよくわかってるなあ。どっちにしても向こうはあんまり急がず、ロングスパンで考えていこうかと思って」


 マジで雨降ったら行くかくらいでよさそう。

 もっとも現地の人達とはもっと仲良くしときたいな。


「サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『了解だぬ!』


 明日はフェルペダ。

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