第2157話:ニライちゃんのお披露目
「ガダルもカナルも可愛いぞなもし」
ライナー君ニライちゃんと施政館へ行く途中だ。
ニライちゃんはライナー君が、ヴィルはあたしが肩車している。
「飼ってたラブリースライムのガダルカナルが分裂したから、名前もガダルとカナルに分裂したんだったっけ?」
「そうぞなもし」
「ラブリースライムはメッチャ可愛いけれども、ニライちゃんの発想も可愛いな」
ハハッ、ニコニコしとるわ。
「スライム飼ってて気付いたことある?」
「まめがすきぞなもし」
「へー、豆か。何となくわかる気がする。豆は栄養あるもんな」
「とくにあずきがすきぞなもし」
「あれ、アズキって知らない豆だな。ドーラにない種類かな?」
ライナー君が興味を持ったようだ。
「ドーラで豆っていうと何を指すんだい?」
「ほとんど大豆だな。ソラマメとかレンズマメもあるけどメジャーではないよ。ちょっと前に落花生を知って、今年試験栽培してるとこ」
「小豆は赤くて綺麗な豆なんだ。独特の苦味が甘味との相性が良くて、砂糖と一緒に煮たりする」
「スイーツ向きの豆なのか。面白いな。帝国ではよく知られてる種類なんだ?」
「いや、言われてみると帝都ではあまり見ないな。苦みがあるせいで、単独では食べないからかもしれない。うちの領では結構作られているんだが」
「そーゆーものは特産にできるかもよ。帝都をはじめとする他領に売り込める可能性があるから、料理法を研究するといいんじゃないかな」
「そうだね」
知らん食材はレシピがないと買いづらいからな。
アズキか。
覚えといて来年種手に入れて蒔いてみよ。
「おっぱいピンクブロンド知ってるでしょ?」
「「おっぱいピンクブロンド?」」
「何とか男爵家のマイケさん」
「ああ、ペルレ男爵家のマイケ嬢か。もちろん知っているよ。パーティーでは花と謳われる令嬢だからね」
「みたことあるぞなもし」
「ニライちゃんでも知ってるのか。やっぱ有名人だな」
「マイケ嬢がどうかしたのかい?」
「今年の社交用のドレスを仕立てようとしてるんだけどさ。『スライムスキン』を使用したものになるかもしれないんだ」
ライナー君よりニライちゃんの方が真剣に聞いてるやないけ。
ニライちゃんはやる子だな。
「ちょっとまだどうなるかわかんないけど、おっぱいピンクブロンドを衣料用『スライムスキン』の広告塔にできる可能性があるよ。うまくいきそーならノルトマンさんとこ挨拶に行く予定。そういう話があるってことだけ、ノルトマンさんに伝えといてくれる? ニライちゃん」
「わかったぞなもし」
「何故私に言付けないんだ?」
「ニライちゃんの方が真面目に聞いてるから」
ハハッ、忘れられたって構わないことだからだよ。
さて、施政館に着いた。
◇
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
皇帝執務室にはプリンスルキウス陛下とドミティウス閣下、アデラちゃんがいた。いつものメンバーだ。
「やあ、ユーラシア君。いらっしゃい」
「騎士のライナー君と?」
「ツムシュテークはくしゃくけノルトマンのちょうじょニライカナイぞなもし!」
「よーし、ニライちゃんよくできた!」
「元気な令嬢だね」
「ありがとうぞなもし!」
ライナー君ハラハラしてるけど、ニライちゃん嬉しそう。
プリンスも閣下もアデラちゃんも目尻が下がってるがな。
「ニライちゃんはなかなかやる子なんだ。今知ってても損はないと思うから、紹介しとこうかと思って」
「騎士ライナー君は?」
「おまけかな」
気を悪くするな。
ただの事実だとゆーのに。
閣下が言う。
「一昨日のアンヘルモーセンへの返信は恙なく?」
「ふつーにヒジノさんに届けてきた。あっ、ルーネから聞いてない?」
「聞いてない」
「じゃあ連絡くらい入れとくべきだったな。ごめんね」
話しといてくれればいいのに。
とゆーか閣下もルーネに聞けばいいのに。
面倒な親子だなあ。
「魔道研究所の調査結果に基づいて、ヴォルヴァヘイム近辺に聖風樹を試験植樹してきました。一番植樹が成功しそうな地中魔力濃度が高い地点に一〇本ね。今後も場所を変えながら、継続的に植えときまーす」
「うん、よろしくね」
「うまく根付きそうならどんどん推進したいね。少しずつでよければ植樹はあたしがやるけど、植えてみて魔力溜まりがどうなのかってのは、魔道研究所が調べてくんないとわかんないわ」
「モニタリングが必要か?」
「うーん、予算と相談してお願いしまーす」
本当は定期的なモニタリングが望ましいと思う。
でも最初はあんまり違いが出ない気がするな。
一年後くらいでいいんじゃないの?
あと現在ヴォルヴァヘイム近辺を通って北に向かう街道が、どうやら昔聖風樹の林があったところを突っ切っているらしいことを説明。
聖風樹の魔力環境安定性に効果あることが証明できれば、将来街道の位置をずらして欲しいね。
可能ならね。
「それからドーラで『ヒナギ』という、消火活動に役立つ魔法が開発されました!」
「「ほう!」」
「何発か撃てば家火事くらいなら消火できる。レベルによって魔法の効果は変わらない。レベル一の人でも一発は撃てるっていう魔法だよ」
「使えるじゃないか!」
「うむ、火事対策は重要だ」
興奮気味ですね。
オルムスさんもそうだったけど、やっぱり政治家にとって火事対策ってのは頭を悩ませる問題みたいだな。
お買い上げいただけそーです。
商売繁盛、ありがとうございます。
「注意点として、火元に撃ち込む魔法になるからある程度練習が必要だと思う。もちろん持ちマジックポイントが多いほどたくさん撃てるんで、レベルが高くて市中の見回りをする騎士さんが習得してると一番有効だと思いまーす」
「ベンノに問い合わせればいいかい?」
「貿易商のベンノさんには『ヒナギ』覚えてもらったんだ。ベンノさんに消火実験してもらったけど、すごく上手だったよ」
「早急に注文したいが」
「ドーラのスキルスクロール生産量が、全部の魔法ひっくるめて三〇〇〇本で目一杯なのは変わんないの。何をどれだけ生産するか、実際使ってみての効果がどうとかお値段がおいくらになるとかも含めて、ベンノさんを通してもらえると混乱がなくてありがたいな」
頷くプリンス閣下アデラちゃん。
よーし、用は終わったぞー。
ニライちゃんいるし、買い物行こーっと。




