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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2151/2453

第2151話:楽しみを残しておきたいタイプ

 ――――――――――三二五日目。


「雨かー」

「トゥデイはドーラ中レインね」

「そーかー。どうしようかな?」


 特にやることない日に雨だと選択肢が狭まるな。

 施政館に用がないわけじゃない。

 聖風樹の試験植樹についての報告と消火魔法『ヒナギ』の宣伝があるが、今日はルーネが剣術道場で午前中いないのだ。

 急ぎの用じゃないからな。

 せっかくならルーネがいる時の方がいい。

 あちこち行けるルーネも、ルーネに会えるお父ちゃん閣下も喜ぶからという、聖女に相応しい気遣い。


 アトムが言う。


「昼は海の王国で食事でやすね?」

「うん、それは決定」

「ぴー子のエサがニードね」

「昼食分と合わせて、本の世界で肉狩りも決定だな」


 午前中二時間以上余る計算だ。

 どうする?


「……ライオンの洞窟行こうか。多分もう少し奥に行けば転移の間だよね?」

「おそらくは」

「転移の間を確認したら、適当に切り上げて帰ってこよう。気になるところあれば、午後また行けばいいんだし」

「「「賛成!」」」


 あたしの単独行動が増えているだけに、うちの子達と触れ合える機会は嬉しいのだ。

 あのダンジョン自体はもう一つ面白みがわからんけどな。

 よし、ヴィルに連絡だ。


          ◇


「御主人!」

「よーし、ヴィルいい子!」


 飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。

 世界最大のダンジョンの、この前プライベートライオンの主様を倒したところにやって来た。


「はい、先へ進みまーす。十分な注意が必要です」

「ワッツ?」

「姐御のカンがヤバいと告げているんでやすかい?」

「いや、転移の間に到着するまでがハイキングという諺があるから」

「ないですよ」

「ないかな? あってもいいんじゃない? あることにしよう。出発!」


 と勢い込んでみたものの、すぐ広い部屋を発見した。


「マジですぐ近くだったんだな」

「ブライトね」

「うん、ここは外からの光が入るみたい。どーゆー仕組み? ガラスじゃなくて透明な石っぽい?」

「ゲートがありやすぜ」

「本当だ。バアルの情報通り五つだな。ゲートと魔法陣の違いはわからんけれども」

「ユー様、この魔法陣は回復の術式ですよ」

「えっ?」


 全てが転送じゃないのか?

 ゲートをじっくりチェックしていたクララが続ける。


「といってもヒットポイントだけの回復です。そちらは脱出の魔法陣です。どこに飛ばされるかわからないのはあちらの三つですね。いずれも少量ながら利用者のマジックポイントを消費します」

「ははーん、親切な仕組みだな」


 長老は這う這うの体で逃げ出したって言ってたけど、脱出のゲートがあるから戻ってこられたんだな。


「ボス、魔法の葉が生えてるね」

「へー、マジックポイントも回復できるってことか。至れり尽くせりだな。大したもんだ」


 転移の間を作った人は、おそらく大地や空気中の魔力を利用することまでは思い至らなかったか、あるいはその手段がなかったのだ。

 しかし使用者のマジックポイント消費を考え、明るい転移の間で魔法の葉を育てることを考えたんだろう。


「魔法の葉の生育条件だってわかんないじゃんねえ? この転移の間を作った人は知ってたわけか。すごいなー」

「レッツイートね?」

「こんな不味いもの食べるわけないだろ。ダンテこそ食べてみろ!」


 ギャーギャー言いながらダンテの口の中に押し込んだった。

 ざまをみろ。


「……エディブルね」

「えっ? 捨て身のジョークじゃないだろうね?」

「ユー様確認してみてくださいよ」

「何でクララまで追い込もうとするんだよ」


 恐る恐る口にしてみる。

 不安な感情を感じ取ったか、ヴィルが離れてったわ。

 心臓ばっくんばっくんするわ。

 こんなことで。


「あれ? 本当だ。おいしくはないけど、食べられないほどじゃない」


 クララとアトムも口にしてみてうんうんと頷いている。


「大発見でやすぜ!」

「そーいや以前魔道研究所で、苦みのない魔法の葉の変種があるって聞いた気がするな」

「シンカン帝国の魔法の葉は皆不味くないのでしょうか? それとも不味くない品種を選んで育てていた?」

「どっちもあり得るね。しかし文明人にはマジックウォーターというものがあるので、魔法の葉なんて食べません。どうでもいいです」


 頷くうちの子達。

 美味い魔法の葉とか効率よく魔力を抽出できるとかだったらともかく、不味くない魔法の葉では全く食指が動かん。


「さて、残りの三つの魔法陣? ゲート? を検分してみようじゃないか」


 一つのゲートに立ってみる。

 ふむ、起動したな。

 魔力が高まってくるとともにゲートから声が聞こえる。


『大の試練の洞窟へ転移するか? 否か応で応えよ』

「えーと、とりあえず否」


 魔力が霧散するとともにゲートの外に出る。

 ふむ、『アトラスの冒険者』の転送魔法陣みたいに、使用者の意思を聞いてくるのは親切だ。


「とゆーことはつまり、残り二つのゲートは小の試練と中の試練?」

「そうでやしょうな」


 調べてみたら果たしてそうだった。

 予想通りだとつまらんと思ってしまうのは、あたしのごまんとある長所の一つかな?


「つまり長老達は、小の試練に向かったということだね?」

「でしょうね。ユー様どうします? 今までのこの洞窟よりはかなり強い魔物がいるようですが、小の試練から転移してみますか?」

「よし、時間の許す限り、小の試練の探索を進めてみようか」


 あれ? どーしてうちの子達は不思議そうな顔をしてるんだろーか?

 ここまでの親切設計で、まさか小の試練の魔物が一番強いなんてことはないと思うぞ?


「アイシンク、ボスはセオリー通りのアクションをしないね」

「姐御は一番魔物の強そうなところを好むと思ってやしたぜ」

「ユー様は最もリターンの大きそうな転移先に行きたがると思っていました」

「御主人は御主人らしい選択をすると思ったぬ」

「つまりあたしが素直に小の試練に行こうとしてることを不思議がってるのか。何なんだあんた達は。あたしは慎重に物事を運ぶタイプだぞ?」


 どーゆーことだ。

 うちの子達全然納得してないじゃないか。


「あたしは楽しみを残しておきたいタイプだぞ? あれ、これなら納得するのか。わからんな、あんた達も」


 うちの子達はあたしを何だと思っているのか。

 意味不明だな。


「とにかく行くぞー」

「「「了解!」」」「了解だぬ!」


 小の試練のゲートから転移する。

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