第215話:ヤバい洞察力
フイィィーンシュパパパッ。
さて、塔の村に着いたぞ。
「うおお、足がついた」
「転移の玉とは、また違った感覚ですね」
「違った感覚ぬよ?」
「面白いでしょ? おーい、じっちゃーん!」
デス爺の頭は光り輝いているからすぐ見つけられる。
「何じゃ、いつもいつも騒々しい」
「騒々しいぬよ?」
「今日のヴィルは一々面白いな。ちょっと内緒の話があるんだ」
「内緒?」
後ろの二人、明らかに上流階級の黒服と、その黒服を供に連れている少女リリーに何かを察したようだ。
デス爺がゆっくりと小屋を指し示す。
「こちらへ」
小屋の中でデス爺が口を開く。
「リリアルカシアロクサーヌ皇女殿下ですな?」
「うむ。よろしく」
「じっちゃん、すげえ! よくその長い名前覚えられたね」
「驚くところはそこじゃないじゃろ!」
黒服が憮然としている。
皇女の情報がドーラの端っこ塔の村まで届いていることに戸惑っているのだろう。
「じっちゃんはどこでリリーのことを知ったの?」
「リリー? ああ、かなり昔にリリーがドーラへ渡航する可能性について、パラキアス殿から聞いていたのじゃ。まさかお主が連れてくるとは思わなんだが」
皇女呼びが危険なことに気がついたか、デス爺もリリー呼びに切り替える。
あたしはリリーのフルネームが長ったらしくて覚えられないだけだが。
「何だ、かなり昔からリリーがドーラに来るって話あったの?」
「いえ、お嬢様は以前、親善使節としてレイノスを訪れたことがあり、その後常々ドーラに行きたいとは仰っていたんです。しかし計画が現実味を帯びたのはごく最近のことでして……」
黒服も動揺を隠せないようだ。
とするとパラキアスさんはリリーの心情や立場、置かれている状況からドーラに来ることを予想したのか。
とゆーことは、パラキアスさんの諜報網は帝国にまで及んでいるらしい。
「パラキアスさんの洞察力、ヤバいね」
「まったくじゃ。しかしお主が二人をここへ連れてきたことには意図があるのじゃろ? まず話せ」
「その前に、リリーの容姿を知っててかつドーラにいることを知ってるのは誰? ドーラの中でだけど」
「ぬしらだけだぞ」
「身バレしてまずいことある?」
首をかしげるリリーと黒服。
「改めて言われると、特にはないの」
「ドーラ総督を通してお嬢様の行動に制限を加えられる可能性くらいでしょうか?」
「逆にドーラでまずいことはあるか?」
「対帝国感情が悪化した場合にやつあたりされそう、くらいかな。じっちゃんどう思う?」
「レイノスにおると、市民が割れる可能性があるかもしれんの」
なるほど。
上級市民が帝国派、それ以外のレイノス市民は独立派となり、リリーの存在が知れると対立が激化するかもしれないとゆーことか。
やはりデス爺も対帝国戦争を念頭においている。
「でさ、あたしがリリーをここに連れてきたのは……」
リリーの希望、黒服の思い、あたしの考えを伝える。
ま、塔の村は戦場になるだろうレイノスから遠いし、デス爺が治めてる村だから何とでもなるだろ。
「……だからここが一番いいかと思ったんだ」
「というか他に選択肢がなさそうじゃの。よしわかった。二人には冒険者として活躍してもらおう」
デス爺の了解を取りつけた。
一安心だ。
「じゃ、設定はレイノス上級市民のはっちゃけお嬢様ね」
「こらこらこらっ、何じゃ『はっちゃけお嬢様』とは!」
「『腕白お嬢様』でも『お転婆お嬢様』でもお好きな称号をどーぞ」
そんなんで真剣に悩むなよリリー。
ただの冗談だとゆーのに。
黒服が質問する。
「あの、上級市民とは?」
帝国人はレイノスの仕組みとか知らないよな。
「狭義のレイノス市民のことじゃな。正確には帝国に直接納税し、帝国の市民権を持っている者の俗称じゃ。俗称ゆえ、無論彼らは上級市民を自称したりはせぬ。港を取り巻くレイノス中心部『中町』に住み、比較的富裕な者が多い」
「いけ好かない連中なんだよ。ドーラ人をバカにして亜人を差別してさ。同じレイノスの人でも『外町』に住む人は普通なんだけど」
「以前レイノスに来たことがあると言うたな。おそらく中町までしか案内されていないはずじゃ。上級市民達はドーラ人というより帝国臣民としての意識が強く、皇女が訪れたならば大歓迎であったろう。ただし現在は帝国本土との貿易が極端に細っておる。本土からの物資が入らず、不満が高まっておるようじゃ」
「黒服さんがついてるならいかにもいいとこのお嬢だからさ、上級市民設定で全然問題ないよ。少々おかしいところあっても、『お嬢様は生まれつきああですので』って言えば察してもらえる」
「何を察するのだ!」
リリーは聞いてないようで聞いてるんだなあ。
でも沸点低くない?
「利発でパワフルで魅力的な少女ってことだよ」
「その通りだ!」
リリーにも納得していただけたようだし。
「エルとレイカのパーティーには話しておこうと思うんだ。あとパラキアスさんと」
「パラキアス殿? 連絡が取れるのか?」
「ヴィルが言うには、明日灰の村に来るって」
「そうだぬ!」
「ほう?」
デス爺は感心したようだ。
「大したものだの。しかし探らせ過ぎてはならん。ヴィルの身が危ない」
「わかってる。明日、パラキアスさんにもヴィルを紹介しとくから大丈夫だよ。元々そのつもりでパラキアスさんの動向を調べてたんだ」
「ふむ、いいじゃろう。もうエルもレイカも食堂にいるはずじゃ。時間が経つと他の冒険者パーティーも戻ってくるゆえ、早めに紹介しておくがよい」
「うん。じっちゃんありがと。じゃねー」
小屋から出て食堂へ。
黒服が呟く。
「しかし、お嬢様の身元が一目でバレるとは……」
「気にしない。皆敵じゃないし、事前に情報持ってりゃわかっちゃうって。でもこれからどう暮らし、どう馴染むかの方がうんと大事だよ」
しかしパラキアスさんはヤバいな。
リリーを隠そうなんて考えなくてよかった。
リリーも元気なさそうな声で言う。
「我はどうしたらいいのかの……」
「リリーは素でいいんだよ。とゆーか余計なことすんな。ボロが出るから。楽しんで冒険者やってりゃいいよ」
はっちゃけお嬢様設定でふつーに冒険者やってたら、正体なんか絶対バレないと思うぞ?
あたしだって今でもリリーが皇女なんて信じられんもん。
食堂に入る。




