第2147話:ナイスキャラクターです
「御主人……」
「よーし、ヴィルいい子って、あれ?」
地図でガラス細工の工房を教えてもらい、皆で転移してやってきたが?
飛びついてきたのルーネだけじゃん。
ヴィルは工房の女性にガッチリホールドされている。
悪意があるわけじゃないからヴィルも嫌がってはいないけど、メッチャ困惑してるがな。
ちょっと珍しいパターンだぞ?
何事?
おっぱいピンクブロンドが言う。
「イーナ、どうしたのです?」
「あっ、マイケお嬢様! 逸材です!」
「何がなの?」
「これです! ワンダフルキャラクターです!」
「ヴィルがワンダフルキャラなのはわかるけれども、だからどーした?」
「チャーミングな顔に黒赤の礼装、しかも犬耳、『ぬ』語尾! パーフェクトです!」
「ヴィルがチャーミングですげえキャラ立ってることはよく知ってるってば。で、何なん?」
「ナイスキャラクターです!」
「ビックリするほど話が進まねー!」
えーと、このイーナさんという人がガラス細工工房のエース職人ってことね?
男爵領ハムの名物としてガラス工芸品を売り出したいが、キャッチーさが足りない?
ヴィルを見てこれだと思った?
実にもっともだね。
「ナイスキャラクターです!」
「何故二度言ったのだ。ヴィルは何度も言いたくなるほどのナイスキャラクターだとゆーことは否定しないけれども」
「ナイスキャラクターだぬよ?」
「ヴィルちゃんをわたしにください!」
「あげるわけないだろーが。何を言ってるんだ、このすっとこどっこいが」
「わっちは御主人のものだぬ!」
「ぐはあ!」
実にテンションの高い職人だな。
いつもこんなんなのかな?
あんたもなかなかのナイスキャラクターだぞ?
「そもそもあんた、ヴィルが何なのか知ってる?」
「そういうことには全然興味ありません。素敵キャラならば十分なのです」
「メッチャ潔いね。ヴィルは悪魔だぞ?」
「悪魔ぬよ?」
「悪魔?」
まじまじとヴィルを見る、イーナと呼ばれた女職人。
「悪魔だから割引価格で譲ってくれるということですか?」
「譲らないと言ってるだろーが。何だ割引価格って。このすかぽんたんが」
「おい、さっきからえらく会話が頭悪そうだぜ?」
「わかってるけどどーにもならんとゆーか」
あたしがこんなに思い通りにならないことって滅多にないんだが。
ペペさんやアビーと同じ匂いがする。
天才肌の人ってことか。
「質問がありまくります!」
「面倒なので一つだけ聞こう。何かな?」
「悪魔は皆ヴィルちゃんのように素敵キャラなのですか?」
「ヴィルは特別いい子だよ。ヴィル以外でも、あたしの知ってる悪魔は全員それなりにキャラ立ってるな。姿形はバラバラだけど、大きさは皆ヴィルくらいだよ」
「イメージワイター! アイデアキター!」
奇声を発する目の前の珍生物。
帰りたくなってきたけれども、奇妙過ぎて目を離せない。
「『かわいいあくま』シリーズ! これで勝つる!」
「『かわいいあくま』シリーズ?」
「イーナ、説明しなさい」
「はい。ハム発のガラス工芸品に一目でわかる特徴が欲しいのです」
「要するに悪魔に特徴づけられたガラス製品?」
「そうです! 悪魔の絵や細工を入れるのです! 可愛いので売れます!」
ええ?
可愛いのは可愛いけど。
「でも悪魔っていうだけで聖火教徒や天崇教徒は買わないぞ? それでいいん?」
「チッチッチッ。買わない人はどう頑張ったって買いはしないのです。ならばインパクトと話題性を求めます」
「……一理あるね」
「悪魔というだけで買わない人には、『かわいいてんし』シリーズを売りつければよいのです」
「おおう、なるほど」
いくつかあるシリーズ物の一つを悪魔をテーマにするということか。
コレクション性もあって売れるかもしれないな。
「ヴィルちゃんをわたしにください!」
「やらんと言っとろーが。何これ? 二度言うキャラなん? ウザいな」
「では、ヴィルちゃんをモデルにする許可をください!」
「ヴィルがよければあたしは構わんけど」
「わっちもいいぬよ?」
「ありがたき幸せ! 何をお礼にすればいいでしょう?」
「ヴィル、欲しいものある?」
「何もいらないぬ。『かわいいあくま』シリーズのガラス工芸品が世に出るなら、悪魔の認知度は高まるぬ。わっちはあちらこちらで可愛がってもらえるようになると思うぬ。それはわっちにとって得なことだからいいんだぬ」
「よしよし、ヴィルはしっかりしてる」
こういうところはさすが悪魔だな。
あたしの影響かも?
「じゃあどうすればいいかな? ヴィルのスケッチでも描いとく?」
「はい、お願します。デフォルメキャラで行くので詳しい造形は必要ないのですが、さらっと描かせてください。それから『かわいいあくま』シリーズ第一弾として、ヴィルちゃんの他にもう一人くらい悪魔を紹介していただきたいのですが」
「もう一人か」
バアルは籠に入ってるから描きづらいかもな。
他にワープで連れてこられる子となると……。
ルーネとイシュトバーンさんが言う。
「ガルちゃんでよろしいのでは?」
「おう、ガルちゃんがいいぜ」
「ヴィル、ガルちゃんをシンクロで連れてきてくれる? お昼御飯一緒に食べようって」
「わかったぬ!」
掻き消えるヴィル。
説明しとくべ。
「悪魔はワープできる子ばかりじゃないんだ。描かせてもらうとなると、今後はこっちから描きに行かなきゃいけないぞ? 連れていってはあげるけど、いいかな?」
「たとえ火の中水の中!」
「いや、火の中水の中へはあたしも行けないわ。それから基本的に悪魔は得にならないことはやらない。お礼で何を要求してくるかはわかんないぞ? 今から来る子は、お昼御飯食べさせてあげればいいと思うけど」
表情が曇るイーナ。
「大変なものを要求されると困ってしまいますね……」
「言いくるめれば大丈夫だと思う。その時は協力してやろう」
「ありがとうございます!」
あ、帰ってきたな。
「御主人! ガルムを連れてきたぬ!」
「よーし、ヴィルガルちゃんいい子!」
ルーネも混ざってぎゅー。
「子犬キャラ素敵!」
「オオカミなのですわっ!」
「実はガルちゃん、これこれしかじかで」
「全然わからないですけど、これこれしかじかのあとにお肉ですのね?」
ハハッ、正確な理解だね。
じゃ、スケッチしてる間に工房見学させてもらおうっと。




