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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2137話:消火魔法『ヒナギ』

 ――――――――――三二三日目。


 飛行を解除し、フワリと地に降り立つ。


「美少女精霊使い颯爽と参上!」

「ヴィル颯爽と参上ぬ!」


 うちの子達とともに灰の民の村のサイナスさん家の前にやって来た。

 ペペさんの開発した消火魔法のスキルスクロールを受け取りにだ。

 ありがたいことにアレクケスハヤテも来ている。

 話を聞きたかったから。

 

「いらっしゃいお肉」

「どこかで聞いたことのあるセリフだなあ。お土産お肉ね」

「いつもすまないね」

「で……しばらく見ない内にアレクとケスの背が伸びた気がする」

「そりゃ姐さん。背は伸びるよ」

「アレクなんか、エルより高くなったんじゃない?」

「……うん」

「男の子だねえ」


 耳の赤くなったアレクを見ながら、あえてそれ以上何も言わないスタイルだニヤニヤ。

 これが放置プレイか、違うか。

 サイナスさんが言う。


「最近ユーラシアが外国から色々持ってきてくれるんだ」

「姐さん、すごい」

「ドーラは歴史が浅い。しかも帝国の植民地ではあったけど、客観的に見て放置されていたと思うんだ。他所にもドーラにないもの、足りないもの、合ってるものはたくさんあるはず」

「アレクの言う通りだな。自由に外国に飛べるのがあたしくらいしかいないから、よさそーなものはなるべくドーラに持ってくる」


 ハハッ、アレクケスハヤテが羨ましそうだわ。

 あんた達の力が必要ならもちろん外国にも連れていくから、聖女たるあたしの役に立てるように頑張れ。


「どれだけドーラに定着するかはわかんないんだけどさ。色々試してみようよ」

「このでっかい鳥もだか?」

「シチメンチョウだよ。フェルペダって国でもらったの。向こうでは御馳走みたい」


 ニワトリみたいな声を出してるシチメンチョウを眺める。

 元気だし、もう随分落ち着いたみたいだな。

 ニワトリに準じてでいいみたいだから、飼育は問題ないだろ。


「フェルペダはドーラに気候が近くて、古くから拓けている地なんだって。それから最近放熱海の南のシンカン帝国ってとこにも縁ができてさ。向こうにも変わったものありそうなんだ。ちょこっとずつ深入りしてみるね」

「ユー姉はアクティブだなあ」

「あんた達だって大したもんだぞ? 消火魔法のスキルスクロールについて聞こうか」

「これだよ」


 サイナスさんが二本のスクロールを渡してくれる。


「アレク解説お願い」

「消火魔法『ヒナギ』だよ。燃焼に必要な空気の遮断と温度を発火点以下にすることを同時に行う、風と水の複合魔法なんだ。随分高度な挙動をする」

「なるほどわからん」

「『ヒナギ』みたいに複雑な魔法を簡単に組み立てちゃうペペさんはすごいってことだよ」

「何発か撃てば家火事くらいなら消火できる。レベルによって魔法の効果は変わらない。レベル一の人でも一発は撃てるってサイナスさんから聞いたけど合ってる?」

「ケイオスワード文様から読み取る限り、理論上そのはずだけど……」

「そこで弱気になられると不安になるわ」


 一体どーした?

 ケスが言う。


「まだ実験してねえんだ」

「何で?」

「最近雨が少なくて乾燥してるだろう?」

「延焼したらえらいことになるからか」

「だからユーラシアさんが来た時に実験しようってことになっただ」

「賢明だね。じゃ一本は持ちマジックポイントの多いあたしが覚えよう」


 スクロールの封を切り『ヒナギ』を習得する。

 本当はレベルの低い人が使用してどうなのかを知りたいが、安全のためだ。

 最大マジックポイントの多いあたしなら何発でも撃てるしな。

 アレクは水魔法『プチウォーター』を、ダンテが氷魔法を使えるので、このメンバーなら間違いはあるまい。

 マジでヤバくなったら、クララにもう一本の『ヒナギ』を覚えさせる手もある。


「よし、実験してみようか」


 広場に木切れやら枯草やら集めて着火。

 おお、結構な火勢になったぞ?


「じゃあいきまーす! ヒナギ!」

「見事です!」


 クララが感心している。

 風魔法の要素があるみたいだから吹き飛ばすイメージなのかと思ったら、全然違ったよ。

 火が一瞬の内になくなる感じだ。


「ワンダーね! ワンダフルね!」

「姐御、こりゃあ使えやすぜ」

「うん。術者のレベルに関係なくこの効果が発揮できるなら十分だ」


 マジで結構大きめの家がガンガン燃えてたとしても、三、四発で消し止められるわ。

 サイナスさんが言う。


「カラーズにも広めておいた方がいいか?」

「族長クラスと開拓地のサブローのおっちゃんには、『ヒナギ』の存在を知らせておいて欲しい。特に輸送隊員みたいな最大マジックポイントの大きい人は、安全のために覚えといてもらいたいな」

「小売価格はいくらなんだ?」

「ペペさんが一〇〇〇ゴールドだって言うんだよ。スクロールの価格じゃなくてスキル作成料がさ」

「ええ? あり得ない」


 ペペさんのやってることはおかしい。


「さて、アレクケスハヤテに聞こうか。『ヒナギ』の小売価格はいくらがいいと思いますか?」


 顔を見合わせる三人。


「……誰もが欲しがる魔法ではない。でも地域地域で使い手は絶対に必要だと思う。高額過ぎると困るかな」

「五〇〇〇ゴールドってとこか?」

「妥当だと思うべ」

「よし、五〇〇〇ゴールドで決定。内ペペさんの取り分が二割の一〇〇〇ゴールドだよ。輸送費含めた残りの配分はあんた達と緑の民で考えてね」


 頷く三人。


「今日行政府行くから宣伝してくるよ」

「おいらもついてった方がいいのかな?」

「まだ注文じゃないからケスはいいや。行政府から正確な値段とかの問い合わせがいずれあると思うから、その時は頼むね。帝国へ輸出できるのは水魔法『アクアクリエイト』や盾の魔法『ファストシールド』と合計して一ヶ月三〇〇〇本までだよ。いいかな?」

「わかった」

「それとアレク、来月の一日空けといてくれる?」

「転移石碑の設置かな?」

「あ、わかってた?」


 新『アトラスの冒険者』発足の日だ。

 ギルドに転移石碑を設置する日。

 デス爺から聞いてたみたいだな。

 話が早い。

 ナップザックから透輝珠を五つ取り出す。


「これは手間賃と『スライムスキン』の材料費ね」

「ありがとう」

「転移石碑五つも置いてくから、魔力吸い取り部分はよろしく」


 さて、用はお終いだな。

 帰るか。


「諸君の健闘を祈る」

「バイバイぬ!」


 転移の玉を起動し帰宅する。

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