第2134話:ぶっちゃけ運が良かった
新聞記者トリオが嬉しそう。
「ユーラシアさんが帝都に来るようになってから、新聞の定期購読者数が倍増したんですよ」
「倍か。帝都の新聞だと結構な発行部数あるんだろうから、かなり儲かるね。聖女の恩恵は大したもんだ」
「あなたがメルエルに来るようになったのはいつなの?」
「随分遠い昔の話だな。まだあたしがうら若き一五歳の花の乙女だった頃だよ」
「ほんの五ヶ月くらい前ぬよ?」
「まだ五ヶ月だったか」
「今でも花の乙女だぬ!」
アハハ、ヴィルはいい子だね。
こういう掛け合いは大好き。
ぎゅっとしたろ。
「私が新聞を読むようになったのは、ユーラシアさんが帝国に来るようになった直後からだと思います。それまで新聞なんか読む価値がないと言っていたお父様が、当時の皇妃様の呪殺未遂事件の記事を見せてくださって。よく取材しているって、褒めていたんですよ」
「皇妃様の呪殺未遂事件については、ユーラシアさんに教えてもらったんです」
「お父ちゃん閣下は新聞全部読んでるの?」
「はい」
「読む価値ないと言いながら全部読んでたのか。やっぱヤバいな。変な記事書くと即座にチェックされるから注意ね。絶対に油断するんじゃないよ」
「「「わかりました」」」
「新聞が潰れるとあたしが迷惑するからね。おまけにちょっと寝覚めが悪いし」
「「「ひどいです!」」」
ひどくはない。
あたしとしてはごく真っ当な感想。
ビバちゃんが不思議そう。
「あなたは転移できるとは言っても、ただのドーラ人なのでしょう?」
「ただのドーラ人美少女だよ」
「どうしてカル帝国の政治にまで食い込んでいるの?」
「その辺りの経過は私どもも実はよく知らないのですが」
「今こそ話そう、秘められた真実を! って、実は大したことないの。成り行きなんだ」
「「「「成り行き?」」」」
「『アトラスの冒険者』で『皇宮』っていうクエストをもらって……」
先の皇妃様の呪殺未遂を通して知り合いが増えて、ヤマタノオロチ退治で施政館に出入りするようになったのホニャララ。
「……ってわけ」
「勲章をもらったところまでは理解できますわ。でも賞することなんて通常は一回限りでしょう? その後も関与が続くのは変ではなくて?」
「ビバちゃんにしては鋭い指摘だね。色んな伏線があったんだよ。今上陛下プリンスルキウスが当時在ドーラ大使だったとか。『アトラスの冒険者』関係であたしの知りうる情報の中に、帝国政府にとって有益なものがあったとか。ぶっちゃけ運が良かった」
運はなかなか左右できるものじゃない。
そーゆー意味では『ゴールデンラッキー』の固有能力は、すごい恩恵をもたらしてくれているのかもしれない。
役に立っているとゆー実感は湧かないけれども。
「ところでせっかくですので、ビヴァ様にインタビューさせてもらってよろしいですか?」
「もちろんよろしくてよ」
記事ネタが足りないらしい。
あたし達は今、アンヘルモーセンに行ってきたんだけどな?
もっとも予知の天使アズラエルのことがあるから、話せないことも多いんだが。
「フルネームを教えてください」
「ビヴァクリスタルアンダンチュロシア・フェルペダラスですのよ」
「リリーより長い名前なんて当然あたしは覚えられない。あたしは会う前からビバちゃん呼びしてたわ」
「年齢は?」
「一八歳ですのよ」
「まだ婚約者はいないそーな。花婿絶賛募集中」
「えっ? 王位継承権一位の一八歳の王女で婚約者が決まっていない? おかしくはないですか」
「常識では考えられない事態だね。ちょっと前までのビバちゃんはとんでもないやつだったから、婚約者候補が全員逃げちゃって」
「そんなことないのですわっ!」
「そんなことあるだぬ!」
アハハ。
とんでもないやつだったのは事実。
「ビヴァ様のメイクは独特ですね。目の下に星を描くそれは、フェルペダ特有の風習ですか?」
「違うんだ。道化みたいなメイクしてるのはビバちゃんだけ。周囲の人にはやめろって言われてるみたい」
「初めてお会いした時は白塗りのお顔に星メイクだったんですよ」
「星には何か拘りがおありで?」
可愛いからあのメイクとは聞いたけど、星なのは何故かは聞いてなかったな。
ビバちゃんが恥ずかしそうに言う。
「星は希望の象徴だからですわ」
「理由がロマンチックだね。案外ビバちゃんは乙女なところがあるなあ。あたしも聖女として見習わないと」
「『輝かしき勇者の冒険』という物語を御存じありません?」
「よーく知ってるけれども」
どーして突然脈絡もなく『輝かしき勇者の冒険』の話になる?
とゆーかあれ帝国の本だろうに、フェルペダにまで悪影響を及ぼしているのか。
「勇者様が悪竜退治を星に願うシーンがあるでしょう? あのシーンが感動的で大好きなのです。それで目の下に星を描き入れるようにしました」
「……夢見る王女のエピソードとしては合格かもしれないな。けどあたしは著しく納得いかないね」
「どうしたんですの?」
「ユーラシアさんはあの本嫌いなようなんですよ」
「えっ? 何故?」
「現実味がなくてイライラするとゆーか。ドラゴンは乱暴ではあるけどべつに悪くはないわ。冒険者として言わせてもらえば、魔物退治はビジネスライクにやるもんだよ。そこにロマンなんかない」
「魔物退治をビジネスライクにという感覚は我々わかりませんけれども」
「あれ、そお?」
魔物が身近じゃないからかな?
「ビヴァ様が婚約者に求める条件は何でしょう?」
「……お年を召した時にイケオジになるかどうか。キャッ、恥ずかしい!」
「おいこら、そんな選び方じゃダメだとゆーのに」
恋愛面でのあまりの進歩のなさにルーネが嬉々としてるがな。
ビバちゃんは危機を感じろ。
さっきアズラエルにも旦那さん重要って言われたところじゃないか。
「今度私の婚約者候補達との顔合わせがあるんですのよ」
「わかってるね? ビバちゃんの幸せな未来は、ほぼほぼ誰が旦那かで決まるんだぞ? ここ間違えると挽回はひっじょーに難しい」
「わわわわかっておりますとも」
「大丈夫かなあ?」
「……不安で仕方ないですわ。顔合わせの日にあなたも来てくださらない?」
「そりゃ構わんけれども」
おかしなことになったぞ?
「さて、そろそろ時間だな。ニンジンを買ってガリアに行こう!」




