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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2130話:事情を聞きにアンヘルモーセンへ

「ここがアンヘルモーセンね」

「ふんふん」


 あたしん家で地図を見ながらビバちゃんにレクチャーしている。

 現場でアドリブを利かせるためにも、事前の予習や情報はすごく大事だとあたしは思っているのだ。

 ビバちゃんも地理苦手って言ってたけど、自分に関わるとなると途端に熱心じゃん。

 身になると思えば勉強もできるもんだ。

 偉い偉い。


「このテテュス内海っていう海が、ギルっていう通貨の経済圏なんだよね。西のガリアって国とその衛星国も合わせると、ギルが通用してる範囲はかなり広いの。もちろん帝国ゴールドが使われてる範囲ほどじゃないけど」

「だから通貨単位統一って話が出てくるのね?」

「そゆこと。ぶっちゃけゴールドとギルを一つにすれば、放熱海以北では事実上の共通通貨になるじゃん? 独自通貨に拘る国があったとしてもさ」

「便利ですわね」

「特に商人さんの負担が少なくなると思うね。今まで通貨単位の違いが面倒で進出してなかったケースがなくなる。規模の大きな貿易商が生まれやすくなるんじゃないかな」

「外国に行った時に、買い物がしやすくなりますね」

「しょっちゅう外国に行く人にはいいね。ぶっちゃけあたしの都合で通貨単位は統一してもらいたい」

「御主人の都合だぬ!」


 アハハと笑い合う。 

 早いと数年中には通貨単位統一がなるだろう。

 楽しみなのだ。


「で、今から行くアンヘルモーセンって国は、人口規模で言えばフェルペダよりずっと小さいんだけど侮れない国だよ。メッチャ商売が活発で、テテュス内海の覇者と言っていい」

「カル帝国も昔、アンヘルモーセンを降そうとしたことがあったんです。でも経済的報復を受けて降参しました」

「カル帝国が?」

「そうそう。だからアンヘルモーセンが難色示すと、ゴールドとギルの統一さえも半端になっちゃう。となると参加国も少なくなりそうじゃん? あたしの都合に影響してしまう。実に面白くない」

「なるほど。あなたの都合はともかく、小なりとはいえ重要な国ということは理解しましたわ。あなたが少し話していた天使とか、天使を崇める宗教とは何なの?」


 あ、よく覚えてたな。

 確かに国の話をしていたのに天使について話さざるを得ないのは、事情を知らないと不思議な感じがするから。


「アンヘルモーセンは商業の国であると同時に、天崇教という天使を崇める宗教の国なんだ。もっと具体的に言うと、天使が尊敬の感情を得るために人間に力を貸してるっていう構造の国」

「ふうん。変わった国がありますのね」

「天使が街中を歩いてるの」

「見るのが楽しみですわ!」

「ユーラシアさん。天使って簡単に姿を現すものではないらしいですよ?」

「そーなの? でも今日は多分会えるよ」


 どうも施政館で見せてもらった手紙の内容からすると、あたしをアンヘルモーセンに呼ぶ意図があるのに間違いなさそう。

 ならば天使もあたしにコンタクト取ろうとするだろ。

 ヴィルの方をチラッと見るビバちゃん。


「天使と悪魔は仲が悪いのではなくて?」

「悪いねえ。すぐケンカ始めようとするよ」

「ヴィルちゃんもアンヘルモーセンへ行くの?」

「行くぬよ?」

「とゆーかヴィルが行ってくれないと、あたし達アンヘルモーセンへ行けないから」

「危ないのではないの?」

「あたしが連れてる悪魔とは争っちゃダメだっていう取り決めになってるから大丈夫だよ」

「ユーラシアさんが天使七人をやっつけて言うことを聞かせたのです。大変なエンターテインメントでした!」

「あれ? いつの間にかルーネがエンタメを求める子になってる」


 エンタメは心の潤いだからいいけれども。


「じゃあヴィル、アンヘルモーセンのシャムハザイ行ってくれる?」

「了解だぬ!」


          ◇


「御主人!」

「よーし、ヴィルいい子!」


 飛びついてきたヴィルとルーネ、ついでにビバちゃんもぎゅー。

 呆れたような目で見てくる天使ハリエル。


「あなた達、転移してくるなり何なの?」

「愛情表現だぞ? あんた達も混ざりなよ」

「そ、そう?」


 ハリエル以下三人の天使達もぎゅー。

 満足げだ。

 あたしは天使をそれなりに尊重してるから、いい感情を吸えるだろ。

 ビバちゃんが言う。


「彼女達が天使なのね?」

「うん。銀髪の子がハリエルで、白髪の子達は名前忘れちゃったな」

「ネリエルとピュリエルよ」

「とても美しいわ」

「そ、そう?」


 天使は崇拝の感情を好むのに、直に褒められることに慣れてない気がする。

 ルーネが言ってた、人前に簡単に姿を現すものではないってのと関係があるかな?

 お高く留まってるからだ。


「ところでハリエル達がここにいるのは何でなの?」


 この前来た時と同じ、港の再開発区画だ。

 人が通る場所ではないんだが?


「最初からいたぬよ?」

「何か用があった?」

「いえ、あなた達を待ってたのよ。アズラエルが迎えに行きなさいと言ってたものだから」

「あ、そーだったのか。じゃあ事情も分かってるよね? 助かるな」


 ビバちゃんが首をかしげる。


「私達が来ることはついさっき決まったのではなくて? どういうことなの?」

「アズラエルっていう未来予知できる天使がいるんだ。これアンヘルモーセンのトップシークレットらしいから内緒だぞ?」

「わ、わかったわ」

「あなたが言わなければいいのではなくて?」

「未来予知できるなら、あたしが話しちゃう展開だって当然予想してるでしょ。だから構わないぞ?」

「それもそうね。アズラエルの責任だわ」


 アズラエルってトップシークレットになるほど重要な存在だろうに、天使達からは意外と扱いが雑のような気がする。

 とゆーか考えることを諦められちゃってるような?

 そーゆー子どっかにいたな。

 あたしだわ。


「あたし達が何で来たかは聞いてるかな? 通貨単位統一に関する会合の件で帝国政府に書簡が届いただけど、ちょっとわからないことがあってさ。問い合わせたいんだよ。できればヒジノさんに会いたいんだけど」


 ヒジノ外務大臣はこの前会ってるし、手紙の署名もヒジノさんだったからな。

 事情を全て承知しているはず。

 接触できれば一番スムーズなのだが。


「ええ、既に待ってるわよ」

「話が早くて助かるなー。行こうか」


 と、向こうからこちらに歩いてくる一人の影。

 驚愕する天使達。

 いよいよ次回あの人(人じゃない)登場。

 心して待て。

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