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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2126話:怪しい風体の女子

 フイィィーンシュパパパッ。


「おっはよー」

「おはようぬ!」

「やあ、精霊使い君いらっしゃい」


 ビバちゃんを連れて皇宮にやって来た。

 ……ふむ、サボリ土魔法使い近衛兵がやや不自然。

 怪しい系女子ビバちゃんを連れてきたことだけが原因じゃないな。

 何かあったらしい。


「そちらの怪しい風体の女子が?」

「あたしも口に出すのは遠慮してたのに、気持ちいいくらいストレートに怪しい風体って言ったな。風体は怪しくないよ。怪しいメイクしてるだけ」

「そういうのいいから」

「フェルペダの王位継承権一位の王女、ビバちゃんにあらせられるよ」

「こ、これは失礼いたしました」

「いいのよ。こちらこそよろしくね」

「ふーん。ビバちゃん大分感情を揺らさないようになったじゃないか。実につまら……大したもんだ」

「あなたの失礼に比べれば、大体のことは許せる気がしてきたの」

「あたしのどこが失礼なんだ」

「大体全部だぬ!」


 アハハと笑い合う。

 最近ヴィルのツッコミにめちゃんこキレがあるなあ。

 どこで感性が磨かれてるんだろ?


「今日はビバちゃんにハトとグレープフルーツをもらったんだ。お礼に帝都を案内してやろうと思って」

「施政館から呼び出しがかかってるんだ」

「えっ? ビバちゃん何やらかした?」

「呼び出されてるのは精霊使い君だよ!」


 もちろんわかってるわ。

 軽いジョークは乙女のたしなみだとゆーのに。


「何の用かわかる?」

「アンヘルモーセンがどうとか。複数の用があると思われるが」

「アンヘルモーセン? ……お父ちゃん閣下は、今日あたしがルーネと一緒に行動すること知ってると思うんだ。ルーネに来るなって言ってた?」

「いや、特には」

「じゃあ機密事項じゃないな。ルーネとビバちゃん連れてったって構わんだろ」


 ビバちゃんが聞いてくる。


「施政館というのは何なの?」

「今いるここは皇族の宮殿なんだ。カル帝国はプライベートの場所と政治の場所が分かれててさ。施政館っていうのは帝国政府の仕事場のことだよ」

「私が行ってお邪魔じゃないかしら?」

「べつに邪魔しようと思ってるわけじゃないでしょ? じゃあ構わないよ。ビバちゃんの制御下にある『アイドル』なら、さほど問題はない」

「心配なのは『アイドル』のことではなくて。私、今まで政治の場に顔を出したことがないのよ」


 あれ、腰が引けてるな?

 ひょっとして政治に苦手意識があるのかな?


「フェルペダは王様がお飾りで政治に関わんない国なの?」

「違うわ。お父様は政務をこなしています」

「だよねえ。いかにもできる感じの王様だったもんな」


 野放し『アイドル』の時代に、絶対に政治の場には近付くなってきつく言われてたんだな?

 メチャクチャになって政務が滞るから。

 しかし今のビバちゃんにとっては、政治から遠ざかることの方がデメリットが大きいと思われる。


「フェルペダの成人年齢が何歳か知らんけど、一八歳は成人でしょ? 成人の次期女王が政治の場に顔を出したことがないってよろしくないじゃないの?」

「そ、そうね?」

「帝都観光になんなくてごめんよ。でも勉強になるから、雰囲気だけでも味わってこようよ」

「わかりましたわ」


 『アイドル』持ちのビバちゃんが政治の場なんかに行ったら混乱しちゃって仕事にならん、ってのは理解できる理由ではある。

 でも今となっては過去の事情だ。

 それ以上に、ビバちゃんが政治について何も期待されていないってのがまずい。

 完全にお荷物扱いだもんな。


 サボリ君が言う。


「フェルペダはいい国なのかい?」

「いいところだよ。でもいいところ過ぎて、古くから係争の地なんだそーな。治めるのは案外難しいと思う」


 広い面積と人口を統治するために、トップたる皇帝に求心力が必要なカル帝国とは別種の難しさがある。

 心配そうなビバちゃん。


「……難しいの?」

「まあ。フェルペダは場所がいいから、皆が欲しがるってことだよ。でも周りの国と仲良くしてれば、あんまり問題はないな」

「モイワチャッカとピラウチにとって、フェルペダがありがたい国になるのが望ましいって言ってた。そのことね?」

「そうそう。よく覚えてるじゃん」


 ビバちゃんは飲み込みが早いな。

 散々首ちょんぱで脅したからかもしれないが、決してバカではない。

 さて、近衛兵詰め所に到着だ。


「おっはよー」

「おはようぬ!」

「ユーラシアさん!」


 飛びついてきたルーネとヴィル、ついでにビバちゃんもぎゅー。

 ビバちゃんが恥ずかしそう。


「……私もハグしてもらっていいのね?」

「いいぞ。何で?」

「あまりこういう経験がなくて」

「何を言ってるんだ、この愛情の薄い子め」


 国王夫妻が多忙で養育係がロクにつけられないとなると、確かにこういう愛情たっぷりの機会はビバちゃんにはなかったのかもしれない。

 偏った固有能力って因果だなー。

 詰め所の近衛兵に聞く。


「さて、施政館行こうか。お父ちゃん閣下は何か言ってた?」

「先日のネポス様の件で、レプティス大叔父様からお礼を言いたいとのことです」

「ああ、なるほど。どうでもいいことなのに義理堅いな。ネポスちゃんは面白かったぞ?」

「それと魔道研究所から報告ありとのことです。さらに一番重要な用件と思われるのは、通貨単位統一の関係でアンヘルモーセンから書状が来ていることです。緊急でユーラシアさんと話がしたいと」

「ふーん? 緊急か」


 魔道研究所はわかる。

 ヴォルヴァヘイム周辺の魔力濃度調査が終わったんだろう。

 えらく早い気もするが、マーク青年は『遊歩』を持ってるからな。

 飛び回ってせっせと計測データを記録したんだろう。


「あなたはドーラ人なのに、カル帝国の政治の場から複数の案件で呼び出しがかかるほど重要人物なのね?」

「改めて言われるとあたしって重要人物だね。わからんのは通貨単位統一の方だな? 大臣級の話し合いになるはずだから、もうあたしの出番じゃないと思ってたんだけど」

「書状に意図不明なところがあって、アンヘルモーセンに至急問い合わせたいということかもしれません」

「うんうん、了解。確認するけど、ルーネやビバちゃん連れてくるなって言われてないよね?」

「言われていません」


 よしよし、ルーネにもビバちゃんにもいい経験になるだろ。

 場慣れするってこともあるしな。


「出発するよー」

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