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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2124話:合言葉はにっちも?

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。


「合言葉いきます! 『にっちも』」

『……『さっちも』』

「おお、すげえ! さすがはサイナスさん!」

『合言葉か。このノリは久しぶりだな。またマイブームなのかい? それとも芸風の復習なのかい?』

「芸風も古木を訪ねて新しきを知らなきゃならないね。ってどーして古木を訪ねなきゃならんのだ!」


 どこの古木だ。

 でもエルフの森の古いでっかい木はメッチャ風格ある。

 わざわざ訪ねてもいいくらい。


「じゃなくてさ。今日帝国東方領のウルリヒさんとこ行ってさ。ニッチモサッチモっていう二人組に会ったんだよ」

『わざわざユーラシアが固有名詞を出すほどか。どんな二人組だい?』

「『ララバイ』と『パラライズハンド』の固有能力持ちだよ。ウルリヒさんがキールっていう港町を帝国直轄地として差し出す代わりに、北のどこの国の領土でもないところを自領に組み入れるっていう計画があってさ」

『ふうん。ウルリヒ公爵が自領を広げる計画を推進したい。政府を納得させるために港町キールを譲渡か。公爵は納得してるのか?』

「そりゃもちろん。今まで通りって手もあったんだし」


 キールの直轄地化は帝国政府の思惑じゃないのだ。

 ウルリヒさんの思惑。

 帝国東方領は、キールを中心とした貿易と北方への拡大で変わる。

 あたしはこーゆー目標決めて変えていくってのは好きだなあ。

 モガム川以南の魔物駆逐にはあたしも全力で協力したいね。


「ニッチモサッチモは、ウルリヒさんの計画を進めるための重要なキーマンなんだよね」

『キールの譲渡に関係しているわけではないよな。ではつまり編入予定の北の地には問題があって、何とかする人員として期待されている?』

「うんうん、さすがサイナスさん。魔物が結構いるんだよ。だからどこの国のものでもないの」

『退治要員として期待されてるのか。ああ、それで固有能力持ちを』


 固有能力持ちなのはカニが理由だけどね。

 マッチョクラブは大変おいしゅうございました。


「編入を予定している北の未所属領域ってのがかなり広いんだよね。面積はドーラのノーマル人居住域くらいあるんじゃないかな」

『そんなにかい?』

「魔物を駆逐して編入っていう計画ではあるの。でも草食魔獣が多いところだから、個人的には魔物を狩って食べる方がいい気もするんだよね」

『ユーラシアの土地じゃないから』

「そーだった。お肉くらいはあたしのものでもいいのに」


 アハハ。

 いろんなお肉を食べられるって幸せ。


「規模の大きい計画はあたし好きじゃん? 協力することにしたんだ」

『つまりニッチモサッチモのレベル上げか』

「そうそう。レベル三〇くらいまでレベル上げして、パワーカードもお買い上げいただいたんで儲かった。魔力濃度の高いところじゃないから、人員二人でも乱獲してるとふつーに魔物は絶滅しそうではある」


 実際にはレベル上げを兼ねてもっと新人を投入するんだろうし、あたしも協力するけどな。

 いつになるだろ?


「ウルリヒさんとこの領地は、フェルペダやモイワチャッカみたいなあたしと縁のある東方諸国と今後関係が深くなりそうなんだよね。ドーラにとってのお客さんである帝国が栄えるのはいいことなので、あたしはどんどん協力しまーす」

『好き勝手やってください』

「逆に最近あたしドーラにあんまり関わってないんだよね」

『君の関わってないは当てにならんからなあ』

「いや、マジで」


 外国ばっかり行ってるわ。

 明日もビバちゃん連れて帝国だし。

 もっとも外国に簡単に行けるのはあたしだけなのだ。

 いろんなものをドーラに導入するのはあたしの仕事だ。


『エメリッヒ氏が消火砲の試作の設計図ができたって言ってたぞ』

「消火砲?」

『例の消火用の大魔法と小魔法あったろう? あれの大魔法の方を用いた魔道具だよ』

「へー。消火砲っていうくらいの規模なんだ?」

『みたいだぞ? 五〇×五〇ヒロくらいの規模の火災なら一発で消せるらしい』

「えっ?」


 思ったよりも大規模でござる。

 さすがペペさんの魔法だな。

 怖い山火事でもかなりの効果を発揮しそう。


『デスさんやアレクの意見を聞いて改良したら、一つ試作品を作ってもらいたいって言ってたぞ』

「わかった。ドワーフの協力や素材が必要な時は教えて」

『小魔法の方も試作のスキルスクロールができてる』

「小魔法が先だな。どれくらいの魔法なの?」


 詳しい効果をペペさんに聞いてないからわからん。


『アレクの説明によると、ユーラシアの家くらいの大きさだったら盛んに燃えてても四発くらいで消せるんじゃないかって話だぞ?』

「結構な効果だな。低レベルの人でも使えるのかな?」

『レベルによって魔法の効果は変わらない。レベル一の人でも一発は撃てるとのことだ』

「使えるね」


 騎士くらいのレベルがあれば何発も撃てるはず。

 初期消火に大変有効だ。


「売り込んでくるよ。明後日の朝に試作のスクロールを取りに行くって伝えといてくれる?」

『わかった。しかしスキルスクロール生産量は限界に近いぞ?』

「あっ、そーだった。作りゃ売れるのにツラいなー」


 かといって杖やパワーカードの生産も限界だ。

 付属させることも難しい。

 まあ紹介だけにしておくか。

 焦ることはない。


「それから今日、ドジっ娘女騎士の絵を描いてもらったんだ。うっかり元公爵ん家で」

『うっかり元公爵の家でというのは、完全に君の好みなんだろう? ハプニングを起こしにいってるというかフラグを立てにいってるというか』

「魂胆を暴かれてしまったかー。今日帝都は嵐だったんだ。雷がびしゃーんって落ちた時に、ドジっ娘が怖がってうっかりさんにしがみついてさ。うっかりさんの首が絞まって死にかけた。とゆーか蘇生薬が必要だった」

『君好みのイベントだなあ』

「いやー、うっかりさんでなくてイケメン天才騎士に抱きつけば、別の面白さがあったのになと思ったよ。とゆーワンスモアプリーズ」

『とどのつまりユーラシアの都合なのがえぐい』


 画集第二弾もどんどん進んでるってことだよ。


「サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『はいだぬ!』


 明日はビバちゃんと帝都観光だ。

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