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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2120/2453

第2120話:喜劇方向に舞台を整える

 フイィィーンシュパパパッ。


「こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「おう、待ってたぜ」


 昼食後にイシュトバーンさん家にやって来た。

 ぷりぷりのマッチョクラブは大変おいしかったです。

 普通のカニもまあまあ美味いらしいんだけど、マッチョクラブを見てると普通のカニは小さくて食いでがないように思えるけどな?


 今日はドジっ娘女騎士メリッサの絵を描いてもらう日だ。

 イシュトバーンさん待ち構えてるやんけ。


「ドジっ娘女騎士だな?」

「そうそう、ドジっ娘女騎士メリッサ。ちょっと状況説明しとくね」

「ん? ややこしいのか?」

「いや、面白いんだよ。ドジっ娘は同じく騎士のライナー君にラブなんだ」

「おう、あの伯爵令息の色男だな?」

「うん。ライナー君は聖女キャロとくっつくのが望ましいけど、教会の方がキャロを離そうとしないから、恋の行方はなかなか多難」

「ほう?」

「そこへ現れたドジっ娘メリッサ。ライナー、デートしてくれ!」

「相当面白れえな」

「相当面白いぬよ?」


 美少女番警備員ノアが、何この二人趣味悪い笑いを浮かべてるんだって顔してやがるわ。

 愉快な展開になりそーな素材は、まんま生かして料理するのが正しいニヤニヤ。


「で、今日の絵にはライナー君も同行してる方が面白パワーがアップするじゃん?」

「おお? そこまで考えてるのか。エンタメを追及するあんたの姿勢には敬服するぜ」

「いつもは絵を描いてるところを道行く人々に見せて、宣伝を兼ねるのが常道だけどさ。今日はその手が使えない」

「どうしてだ?」

「ライナー君はひっじょーにモテるから。ライナー君を見つめてポーッとなってるドジっ娘の絵なんかを道で描いてると、ジェラシーに狂ったどこぞの女の子にメチャメチャにされるかもしれない」

「それほどなのかよ?」

「ライナー君のファンがどういうノリなのかは、実はあたしも知らないな。メチャクチャモテるのは確かなんだ。なので安全策を取って、オードリー王女が世話になってるうっかり元公爵の家で描かせてもらうことにしました」


 あれ?

 イシュトバーンさんが特有なえっち顔をしてるが何故?


「うっかり元公爵ってのは?」

「そっちに反応したのか。先帝陛下の第一皇子のお舅さんだよ。トラブルが靴履いて歩いてるような人」

「ああ、多分知ってる。喜劇方向に舞台を整えるじゃねえか。さらにドジっ娘が絡むと?」

「ちょっと何が起こるか想像できないな。イシュトバーンさんには被害が及ばないようにあたしがガードするから、絵に集中してよ」

「わかったぜ」


 注意点はそんなとこか。

 転移の玉を起動して一旦帰宅する。


          ◇


 フイィィーンシュパパパッ。


「こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「邪魔するぜ」

「やあ、いらっしゃい。精霊使い君と絵師殿」


 イシュトバーンさんを連れて皇宮にやって来た。

 サボリ土魔法使い近衛兵が聞いてくる。


「今日は騎士のメリッサ嬢の絵を描くんだろう?」

「そうそう、ルーネに聞いた? あのドジっ娘も黙ってりゃ相当奇麗な人だから、画集が出るとファンが増えちゃうんじゃないかな」

「オーベルシュタット公爵家邸でと聞いた」

「あそこなら邸内でも庭でも構図が決まるんでいいかと思って」

「そうだね。でも今日は曇ってるから」


 今日の帝都はどんよりしていて雨降りそう。

 風も強いし邸内の方がいいな。

 道とかで描く予定にしてなくて正解だったわ。


「今日の午前中はルーネロッテ様が剣術道場だから、午後に絵なのかい?」

「そゆこと。あたしは午前中ウルリヒさんとこの領地に行ってたんだ」

「「ほう?」」


 あれ、ウルリヒさんと面識のないはずのイシュトバーンさんまで興味ありそうだ。

 情報は持ってるのかな?


「あっちはあっちで未所属地域のかなり広いところを、帝国領に組み入れようとしてるんだよね。政府の許可が出次第だけど。魔物が出る場所なんで、退治用の人員二人のレベル上げってのをしてた」

「あんたの得意技だな?」

「まあそう」

「かなり広いところってのは?」


 地図を取り出す。


「……ここがウルリヒさんの領地ね? 北にモガム川ってのがあるじゃん? その南全部を領地にしようっていう野心的な計画だよ」

「えっ? こんなに広い土地なのか」

「魔物がたくさんいるからかもしれんけど、どこの国にも属してない地域なんだ。でも草食魔獣が多いの。狩り放題。お肉に困らない」

「あんたの食欲は置いといて、ちょっとした国くらいあるじゃねえか」

「メッチャ大胆な計画だよね。切り取り次第ってわけじゃなくて、半分をウルリヒさんの領地に、もう半分を帝国直轄領にっていう取り決めになってるの」

「なるほどな」


 政府に警戒されないように色々やってるんだよ。

 さて近衛兵詰め所に到着だ。


「こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「ユーラシアさん!」


 いつものように飛びついてくるルーネとヴィル。

 よしよし、いい子達だね。

 イシュトバーンさんが言う。


「おい、それを描かせろ」

「えっ? ちょっとは辛抱できないのかよ。今からドジっ娘を描きに行くんだろーが」

「右手が余ってるのがいけねえ」


 だから何なんだ。

 その右手が余ってるっていう表現は。

 まったくイシュトバーンさんはミステリーだな?

 あっ、描き始めちゃった。

 しょーがないなー、三〇分付き合ってやるか。

 まだ若干時間早いから構わんだろ。


「ヤニック様とハンネローレ様ですが」

「ルーネは偉いね。ちゃんと暇潰し用の話題を用意してくれるじゃないか。あの二人が何?」

「ドレスの注文に行かれたそうですよ。今秋の社交に合わせてのことと思います」

「おおう、微笑ましいね」

「微笑ましいぬ!」


 リリーと仲のいい侯爵家の令嬢ということで、元々かなり目立っていたであろうハンネローレちゃん。

 しかし昨シーズンは事故の影響もあって、丸々姿を消していた。

 それが今シーズン、身体が治って復帰して、しかも新しい皇帝陛下の従兄弟と婚約となればえらく注目を集めるだろうなあ。

 実際には政治的な思惑はほぼないけど、ゼンメルワイス侯爵家がプリンスルキウス陛下に協力的、って感じに見られるかもしれない。


 え? ヤニック君?

 男は添え物だとゆーのに。


「おい、ニヤニヤするなよ」

「注文がうるさいなー」


 聖女の顔がおかしな絵にされても困る。

 顔を引き締めよーっと。

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