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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2117/2453

第2117話:ニッチモサッチモ

「ニッチモです」

「サッチモです」

「ニッチモサッチモか。本名なん?」


 領兵の練兵所で、『ララバイ』持ちニッチモと『パラライズハンド』持ちサッチモを紹介された。

 ウルリヒさんがマッチョクラブ狩り要員として確保した人材だと思われる。

 魔物と戦える常備の人員としても考えてるんだろうな。

 どうせレベル上げするなら固有能力持ちがいいというのは、あたしの考え方とも一致する。


  ウルリヒさんが言う。


「各諸侯の領兵の数の上限は、その領の人口や面積で厳密に決められているんだ。辺境領主認定を受けるとやや多くできるがね」

「ふんふん、なるほど」

「ニッチモとサッチモは貴重な固有能力持ちということで、領兵としては今のところ員数外ではあるが、補充要員としてキープしていた人材なのだ」

「へー。ちなみに二人はどうやって自分の固有能力を知ったの?」

「イベントだよ」

「イベント?」

「ウルリヒ様が開催した『自分の固有能力を知ろう祭り』で」

「固有能力持ちを炙りだす気満々やないけ」


 世の中固有能力に興味ある人は結構いるみたいだから、自分がどうか知りたい人も多いんだろうな。

 ウルリヒさんはさすがだなあ。


「港町キールの引渡しが完了すると同時に、北の未所属地域の編入・管理要員が臨時措置として一定期間認められる。ニッチモとサッチモはそれに当てる予定だ」

「え? マッチョクラブ要員じゃないんだ?」

「「マッチョクラブ要員?」」


 まだこの二人は詳しいこと聞いてないんだな?


「マッチョクラブっていうカニの魔物がいるんだ。メッチャおいしいの。ウルリヒさんはこのマッチョクラブを領の産業としたいみたいなんだよね」

「マッチョクラブを無傷で捕らえるために、君達の固有能力が必要なのだ」

「北部の領有化の方が先決だし時間もかかるしってことで、あんた達はまず北で働いてくれってことなんだと思う」

「そうだ。領の発展に協力してくれ」

「「は、はあ……」」


 戸惑い気味だ。

 自分の一生に関わることだし、現在は自分の固有能力を知ってはいてもレベルがないから実感できんのだろうし。


「ウルリヒさん、この二人理解してないよ。今日の昼御飯はカニにしようよ」

「うむ、賛成だ」

「じゃ、まず北の未所属地域から様子見に行こうか。クララ、お願い」

「はい、フライ!」


 現地を見ないとどーもならん。

 びゅーんと北へ。


          ◇


「国境の長いフェンスの向こうは天国であった」

「文学的だな」


 カルテンブルンナー公爵家領の北限、未所属地域との境まで来た。

 大柵の向こう側に草食魔獣の群れがいくつかいるやん。


「何これ? 牧場みたいじゃん。お肉が一杯いますよじゅるり」


 領境警備の人が教えてくれる。


「この柵が人間の領域との境だということを魔物どもも理解しているようでしてな。警戒せずに寄ってくる魔物もいるのです」

「これおいしいよね?」

「ブレイブシープですか? 美味いですぞ。しかし勇猛なのです。怒らせると突進してくるので、見かけよりも危ない魔物です」

「近くに一〇頭の群れか。手頃だな。ダンテ、『実りある経験』お願い」

「イエス、ボス。実りある経験!」

「溜めてー溜めてー雑魚は往ねっ!」

「「「あっ?」」」


 バタバタと倒れるヒツジの魔物。

 『雑魚は往ね』の疑似即死効果だと、柵の向こう側の魔物でも倒せるな。

 ノーコストの上に何て便利なスキルなんだろう。


 ニッチモサッチモのどっちかが言う。


「れ、レベルが上がった……」

「リフレッシュ! よかったね。あんた達にはとにかくレベルが必要なんだ。ってことは置いといて、まずこのヒツジを柵の外に運び出そうよ。門開けてくれる?」


 えっちらおっちらヒツジを柵のこっちへ持ってくる。


「皆さんで食べてよ」

「えっ? いいんですか?」

「もちろん。あたし達今日はカニだから」

「皆の者を呼んでまいります!」

「行く前に門のカギ閉めてってねー」


 領境警備の人がすっ飛んでいく。

 まー餌食になりたい魔物が寄ってくるなら、お肉が増えちゃうだけだけどな。


「ウルリヒさん。ここ草食魔獣ばっかりじゃん。いいところだねえ」

「草原はそうだな。ブレイブシープの他、ヒポポタマウス、角ウサギ、エスケープゴート、アールファング、コーナーターパンの生息が確認されている」

「最後のコーナーターパンってのは知らないな。ヒポポタマウスはあんまりおいしくないけど、皆食べられそうで何より」

「森や荒地にはスライム、昆虫系、植物系が多くなる。ゴブリンもいる」


 強いのは草食魔獣だそうだから、少しずつ倒していっても問題はなさそう。

 魔獣はそう繁殖力高くないだろうし。

 でも人数を動員していっぺんに駆逐した方が効率がいいし、危なくないかもしれないな。


 ニッチモサッチモが聞いてくる。


「今のスキルは何なんですか? 柵を傷つけずに魔物だけ倒したようですが」

「どーした、敬語になってるじゃん。あれは自分のレベル以下の魔物に最大ヒットポイント以上のダメージを与えるっていう、擬似即死スキルだよ。大変便利なの」

「便利って……」


 結構なレアスキルらしいよ。

 あたし以外に使い手見たことない。


「ウルリヒさん、ここで一番強い魔物って何なの?」

「アールファングだろうな」

「アールファングか。群れでいたら倒すには、少なくともレベル二〇以上の人達からなるパーティーが必要だね」

「うむ。マッチョクラブの確保にもレベル二〇くらいは必要だろう?」

「そーだね。となると……」


 ここは人形系がいないか少ないみたいだ。

 じゃあレベル二〇まで上げるって結構骨だ。

 ならば取るべき手段は?


「あとでこの二人借りるよ。レベル上げしてくる」

「うむ、よろしく頼む」

「武器は持ってるのかな?」

「未所属地域の編入・管理要員配置許可が下り次第、支給する予定だったんだ。ユーラシア君、パワーカードで見繕ってやってくれないか?」

「オーケー。ニッチモサッチモはコンビで運用するってことでいいんだね?」

「構わない。事後に五万ゴールド支払おう」

「そんなにいらないんだけど」

「今日来てくれた礼も含めてだな」


 マッチョクラブをたっぷり食べさせてもらうからいいのに。

 あ、警備の人が村人連れて戻ってきた。


「御苦労だった。我々は帰還する」

「ヴィル、ウルリヒさんの宮殿に飛んでくれる?」

「わかったぬ!」

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