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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2115/2453

第2115話:構いたくなる

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。


「出会いがどうであれ」

『え? また思わせぶりな導入かい? 表現が大き過ぎるとあとで後悔するよ』

「うーん、否定できないかも。ビバちゃんの話なんだけどさ」

『誰だ?』

「名前言ってなかったっけかな? フェルペダのトンデモ王女だよ」

『ああ、『アイドル』の固有能力持ちで教育も進められず、我が儘だという?』

「そうそう、その子。どこまで話したんだったかな? 初めてビバちゃんに会った日、騎士を一〇人くらい差し向けてきたんだよ。あたしを討ち取れって」

『聞いてないぞ』

「大した話じゃなかったからかな。その時お父ちゃん閣下とウルリヒさん連れててさ。イケオジを二人も連れてるのはけしからんっていう理由だった」


 サイナスさんの唖然とした様子が伝わってくるわ。

 ビバちゃんはなかなかユーモアのある子だからな。


『……君が国を滅ぼすくらい笑えるって言ってた理由がわかった』

「メチャクチャ面白い子とゆーかメチャクチャな子とゆーか。ビバちゃんも友達いない子だから懐かれてさ」

『何だか最初毛を逆立てて威嚇してた野生動物を、徐々に飼い馴らすみたいな話だなあ』

「懐くと可愛いとゆーか、情が移るんだよね」

『君の敵味方に節操がないという隠し味がプラスされるのか』


 隠し味だったか。

 ごまんとある長所の一つだと思ってたわ。


「フェルペダも帝国もビバちゃんを何とかしてくれって、聖女の威光に縋ってくるわけよ」

『フェルペダはともかく、帝国に関係があるのかい?』

「フェルペダが戦乱に巻き込まれると、東方貿易に支障が出るっていうニュアンスだったな」

『ふうん。君の損得で言うと?』

「ドーラと気候の似ているフェルペダからは、導入すべきものが多いね。貸しを押し付けてお礼してもらうのだ。とゆーわけで今日もフェルペダへ行ってきました」

『ああ、食用ハトの話かい?』

「ごめん。今日イレギュラーな用が入っちゃったんで、ハトは今度なんだ。多分明後日になる。グレープフルーツの苗と一緒にもらってくるよ」

『グレープフルーツとは?』

「フェルペダで一般的な柑橘だよ。特徴的な爽やかな苦みがあるけど、砂糖と相性がよくておいしいの。驚くことに、地方の寒暖差と品種の違いで、フェルペダではほぼ一年中食べられるんだそーな」

『それはすごい』

「でしょ? 柑橘はドーラの気候にピッタリだし、輸出にも向くから増やさなきゃなと思って」


 ドーラとフェルペダは国土面積が違う。

 フェルペダでは国内消費分しか賄えなくても、ドーラならもっと多く生産できるだろう。


『イレギュラーな用とは何だったんだい?』

「エンタメポイントを抉ってくるね。ビバちゃん一八歳で次の女王だから、早よ結婚せいって意見は当然出るじゃん?」

『当然だな。しかも王配にはかなり優秀な人材が求められるだろう?』

「うん。でもここでビバちゃんの『アイドル』が足引っ張っちゃう。旦那さんがビバちゃんにメロメロになると政治に影響が出かねない」

『ええ? そこまでの効果なのかい?』

「国を滅ぼすくらいって言っとろーが。結構広い部屋に居並ぶ群臣が全員とろんとなっちゃうんだ。近親者やレベル高い人、ビバちゃん自身の好みのタイプの人には効果がないか薄れるっていう制限はあるけど、かなりヤバいの。で、宰相さんにどうにかできないかって言われて」

『またいつもの得意技、困った時のレベル上げか?』

「結果はそうなったね。ただ過程があるんだよ。レベル上げして効果がひどくなったら手に負えないじゃん? ドーラに連れてきて固有能力に詳しいマルーさんに相談して。レベル上げしたらコントロールできるようになるってのを確認してから魔境」

『やはり魔境なのか。でも合格、聖女の行いです』

「やたっ!」


 何かこれ、ギロチンゲームに似てるな。


「とゆーわけでビバちゃんは、無事『アイドル』の固有能力をコントロールできるようになったのでした。ちゃんちゃん」

『コントロールできれば良しってわけじゃないだろう?』

「そこな? 結局ビバちゃんの心がけと意思次第なんだよね。ヘイト管理ミスると首ちょんぱだぞーって散々脅してあるから、大丈夫だと思いたい」

『首ちょんぱって。そっちの方が面白そうだね』

「ギロチンゲームも面白かったよ」


 ちょっと話は変わるけれども。


「今日のレベル上げには、帝国の先帝陛下の弟の孫ネポスちゃんって子が同行してたんだ。多分まだ一〇歳になってない」

『誰かに頼まれたのかい?』

「頼まれたわけじゃないけど、教育してくれって意図があってあたしに押しつけたんじゃないかな。リキニウスちゃんと仲がいいそうなんだ。でもリキニウスちゃんは最近ラグランドの王女オードリーとベッタリだから、遊んでもらえなくてつまらんみたいで」

『わざわざ話題にするような子なんだな?』

「ネポスちゃん自身が『土魔法』の固有能力持ちで、育て方次第で大物になるかもってのが一つ。ネポスちゃんをあたしんとこ振ったのが、先帝陛下の弟レプティス宮内大臣ってのがもう一つの理由」

『ほう? そのレプティス殿下というのができる人なんだな?』

「かなり。皇帝選の成功は半分くらいレプティスさんのおかげ。目立たないけど今のプリンスルキウス体制の立役者とも言える」


 レプティスさんみたいな皇帝家の重鎮がいるから、帝国は何事もないように見えるのだ。

 もしレプティスさんとうっかり元公爵の立場が入れ替わってたらと思うと、背筋がぞわっとするわ。


「ネポスちゃんは今すぐどうこうってわけじゃないんだけどさ。血筋もいいし、将来偉くなりそーじゃん? 小さい内から面倒みてやって、あたしの立場を磐石にするのだ」

『ああ、ユーラシア自身の思惑もあるのか』

「ちっちゃい子は構いたくなるんだよね。ネポスちゃんみたいな生意気系の子は特に」


 道場の関係でちっちゃい子と知り合う機会も増えるんじゃないかな。

 ネポスちゃんも道場に通うといいかもしれない。

 どんとこいだ。


「サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『了解だぬ!』


 明日の午後はドジっ娘女騎士メリッサの絵だが、午前中どうしようかな?

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