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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2113/2453

第2113話:やることがある

「帰っちゃうの?」

「また遊びに来るとゆーのに。まったくビバちゃんは可愛いんだから」


 フェルペダの王宮で昼食をいただいたので帰るところだ。

 例によってビバちゃんがぐずっている。

 ビバちゃんはルーネ以上に友達のいない子だから、太陽みたいな存在感のあるあたしが帰っちゃうと寂しいとゆーことはわかる。


「ビバちゃんはやることあるだろーが」

「えっ? 何かしら?」

「まず会談に備えて、モイワチャッカとピラウチの予習だな」

「そうね。予習予習」


 眉にしわ寄せてるけど、難しいこと考えんでもいい。

 宰相のグラディウスさんが同行なんだから、ややこしくなりそうなことは全部お任せだ。

 むしろ自分で処理しようとすんな。


 地図を取り出す。


「モイワチャッカとピラウチね。ここがぴー子のいたオンネカム、会談が行われるのが隣のタンネトなんだけど、これは合わせて一つの町みたいなもんなんだ」

「モイワチャッカ領内で、ピラウチとの国境に近いところなのね?」

「国境に近いところで会談が行われるのはある意味当たり前だわ。あたしが転移しやすいとか、ぴー子がいるからって理由でタンネトなんだと思う」

「……地図で見ると、モイワチャッカもピラウチも結構大きな国に見えるわ。両国合わせるとフェルペダより大きいのではなくて?」

「面積はそうだね。でもモイワチャッカもピラウチも人口七、八万って言ってたぞ? フェルペダの何十分の一だね」


 モイワチャッカの港と鉱産品、ピラウチの農業と、フェルペダほどではなくても大きな可能性が見える国だけどなあ。

 長らく続く戦争で、人が流出しちゃったのかもしれない。

 だから戦争はダメなのだ。


「モイワチャッカもピラウチも外貨を得ようとするなら、地理的にどうしたってフェルペダとの付き合いが多くなるじゃん?」

「近いですものね」

「フェルペダは繁栄しててお金持ちも多いだろうからね。モイワチャッカとピラウチの間に和平が結ばれると、フェルペダは考えなきゃいけないことが多くなる」

「そうなの?」

「そりゃまあ。今までモイワチャッカとピラウチが戦争してて疲弊してたじゃん? どっちもフェルペダのライバルになり得る国じゃなかった。今後は違うかもしれない」

「……フェルペダが攻められるかもしれない?」

「隙を見せればね。もしビバちゃんが女王になっておバカな統治してりゃ攻められる危険は高いわけよ」


 不安そうなビバちゃん。


「じゃあモイワチャッカとピラウチが戦争している現状の方が、フェルペダには都合がいいの?」

「少々隣国は揉めてた方がいいやって考える人は一定数いるだろうな。あたしは好きじゃない考え方だけれども」

「どうしてですの?」

「隣国が戦争してたんじゃ警戒怠るわけにいかないじゃん。余計な出費だ。あたしはムダが嫌い。注意してても巻き込まれることはあり得るし」

「そ、そうね」

「モイワチャッカとピラウチに対してどういう態度取るかってのは、フェルペダにとって大きな選択だと思う。でも宰相のグラディウスさんが会談に参加するってことは、少なくとも戦争やめろとは思ってるわけだね。当たり前だけどね。普通に考えると、モイワチャッカとピラウチにとってフェルペダがありがたい国になるのが望ましい」

「ありがたい国?」

「発展にはおゼゼが必要なのだ。フェルペダはもの買ってくれるとなれば、両国にとって非常にありがたい」

「フェルペダが損するのではなくて?」


 うん、ビバちゃんも損得を考えるようになってきた。

 大変よろしい。


「フェルペダは国土面積の割に人口が多いじゃん? ピラウチに農業生産をいくらか任せてモイワチャッカから資源を輸入すれば、工業を発達させることができると思うよ。カル帝国もそうだけど、工業が発達しているのは間違いなく強国」

「なるほど……」

「今のは一つの例だよ。フェルペダがどういう未来を描くかは知らんけど、モイワチャッカとピラウチをどう扱うかは、ビバちゃんもちょっと考えてていいんじゃないかな。仲良くする方向でね」


 難しい顔をするなとゆーのに。

 可愛い顔は変わらんわ。


「やらなきゃいけないもう一つのことは、『アイドル』の制御の練習だな。黙ってても効果を抑制できていて、必要な時だけ解放するように」

「わかったわ」

「あんまり苦労しないはずなんだ」


 フリッツが『ララバイ』の効力を制御したのも、レベルが上がったらすぐできたし。

 マルーさんも手間取るみたいなことは言ってなかったしな。


「『アイドル』が制御可なら、普通の人付き合いができるってことだぞ? つまりフェルペダでもお友達ができるはず」

「あっ、そうね?」

「そうだぞ? ハーマイオニーさんあたりに紹介してもらえばいいじゃん」

「姫様!」


 誰か来た。

 モイス内務官だ。


「モイスさん、こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「これはユーラシア嬢とルーネロッテ嬢。そちらが?」

「ルーネのはとこのネポスちゃんだよ。ところでビバちゃんが何か変わったのに気付かない?」

「……そういわれると、貫禄が増したような気がしますな」

「太ってないわっ!」


 アハハ。

 レベルが上がった分、存在感があるように感じるかもな。


「じゃーん! ビバちゃんは『アイドル』の効果をコントロールすることができるようになりました!」

「何と! まことですか?」

「本当なのよ」

「うむ、確かに。いつものように心を侵略してくるような感じがありませんな」

「今後はビバちゃんの自己責任だ。あたしは知らん」

「ええっ? 無責任でしょう!」


 無責任ではないとゆーのに。

 あたしは目一杯責任を果たしたわ。

 全部寄りかかろうとすんな。


「いやあ、姫様の力が制御できるとなれば、フェルペダの未来は明るいです。ユーラシア嬢のおかげです」

「あたしもハトとグレープフルーツをもらえるから嬉しいんだ」


 ドーラの未来も明るいのだ。


「さて、用は終わったから今日は帰るね」

「次までに食用ハトとグレープフルーツの苗を用意しておきますわ。……次はいつ来ますの?」

「特に決めてなかったな。明後日どう? ビバちゃん帝都メルエルの見物したいでしょ? これも地理の勉強だ」

「そうねっ!」


 明後日ならルーネも道場ない日だしな。


「明後日の朝に迎えに来るよ。じゃねー」

「バイバイぬ!」


 転移の玉を起動し帰宅する。

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