第2095話:転移の間を守護する主様
おーおー、生意気に唸っとるわ。
「すぐに出たじゃないか。あたしは普段の心掛けがいいから神様が味方してくれるわ。あれ?」
「どうした?」
「あたし達が前に遭ったプライベートライオンよりも、デカいし強いぞ?」
黒毛にツヤがあるような気がするし、たてがみが立派。
プレッシャーもなかなか。
「雄雌の違いかしらん? どっちにしても肉食魔獣は不味そう」
「ユーラシアはのんびりしてるな」
「のんびりしてるわけじゃないんだ。首が硬そうで簡単に刎ねてよしってわけにいかないから考えてるの」
「どうするんだ!」
「いや、今までのよりは多少強いってだけ。普通に倒そうか。ダンテは『実りある経験』ね。逃げちゃうと嫌だから、ヴィルは『デスマッチ』装備してやつを逃がさないようにして」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
レッツファイッ!
ダンテの実りある経験! あたしのハヤブサ斬り・改×二!
「よーし、倒した」
まあ強いったってケルベロスくらいの強さだ。
この付近の村人達にとってはいざ知らず、魔境をテーマパーク扱いしているあたし達にとってはどうってことない。
「おおおお? レベルがかなり上がったような気がする」
「よかったじゃん。やっぱレア種だから経験値高いんだろうな。サービスだぞ?」
プライベートライオンだけで権威付けされるより、実際のレベルが高い方が説得力あるだろうしな。
マジでレベルが必要な展開になったら、あたしの得意技パワーレベリングが炸裂だわ。
「これ持ってきゃ文句言われる筋合いないよね?」
「ああ。どこからどう見ても正真正銘のプライベートライオンだ」
「待てよ? 頭だけで大威張りなら、亡骸丸々持って帰ったら超威張りだな」
「まあ普通はこんなにデカい亡骸丸々運ぶなんて狂気の沙汰だ。帰り道でどれだけ獅子に襲われるかわからん」
「いいぞいいぞ。じゃ、帰ろうか。ヴィル、さっきの入口広場に戻ってくれる?」
「わかったぬ!」
◇
「……転移の間を守護する主様じゃ」
成人の儀式の場に、かつてプライベートライオンを見たことがあるという長老が呼ばれていた。
しきりに感心している。
「主様?」
「ああ、間違いない。ほれ、尻尾の先が二つに分かれておるじゃろ?」
ほんとだ。
尻尾の先までは見てなかったわ。
物言うボンボン父が吠える吠える。
「主様を狩るとは何事だ!」
「そんなこと言われても」
「災厄が起きたらどうするつもりだ!」
「ダメならダメって最初に言っといてよ。後出しされてもどーもならん」
長老が笑う。
「ハハハ、よいよい。我らも転移の間を目指した際に倒したことがある。単純にもっとも強大なプライベートライオンが最深部をナワバリにする性質があるだけだと思うちょる」
「そーなの?」
「ああ。我らが勝手に『主様』と呼んでいただけじゃ。神でも守護者でもありゃあせん」
「よかったあ」
「お主らは転移の間まで行くのじゃろう? どうせ倒さにゃ転移の間には入れんわい」
長老の言葉に皆が納得する。
「ふむ……ウタマロよ。お主も結構なレベルになっておるではないか」
「ユーラシアが主様を倒した時、拙にも経験値が入ったようです」
「レベル一二、三ってとこかな? まあまあ」
「うむ。昔はこの村にも戦士がいたのじゃがの。今はとんとおらん」
「何でなの?」
「以前は転移の間の先には何があるか、解明しようという機運があったからじゃ」
なるほど、だったら確かにレベルが必要で、ライオンを狩ろうという気になるだろうな。
ただダンジョン自体は探索しても実入りが多くはないので、転移の間から興味が薄れるにつれ、戦士が少なくなっちゃったということか。
「今は転移の間にチャレンジする人がいないんだ?」
「ゲートの先にはさらに強い魔物がようけいたでな。這う這うの体で逃げてきたわい。それ以来危険を冒して魔物を倒す者はいなくなった」
「ふーん。あたし達は転移の間からもっと先に行ってみるわ」
「お主のバカげたレベルなら、かなり先まで探索することができるじゃろう」
「バカげたゆーな。恥ずかしいわ」
「恥ずかしいのか?」
あれ、最上級の褒め言葉じゃないのかしらん?
「もうちょっと転移の間のこと教えてくれないかな」
「うむ、わしの知ることならば。転移の間は獅子の洞窟の最奥にあり、分かれ道などはない。さほど広い場所というわけでもなく、転移の間から別の場所に繋がるゲートがいくつかあるのだ」
何とビックリ。
複数の行き先がある?
さすがは世界最大のダンジョンだな。
「我らが使用したゲートは、その中で最も難易度が低いものじゃった」
「待って。どうして難易度が低いってわかったの?」
「ゲートの上に立つと説明がなされるからじゃ」
あれ、『アトラスの冒険者』の転送魔法陣に似てるな。
まさか転移の間を作ったのは異世界人?
早く行ってみないと使えなくなっちゃうかも?
一応聞いてみる。
「転移の間とゲートを作ったのは誰ってことになってるの?」
「ケイオスワードに精通していた、古の大魔道士であったと伝えられる。お主も転移の使い手ならわかるのじゃろうが、魔術の中でも転移術はかなり難しいらしいな?」
「うん。ちょっと間違っただけでどこ飛ばされるかわかんないから、試しに使うだけでもすげえ危険って聞いた。あたしは転移用のアイテムを持ってるだけで、理屈とかはサッパリ」
「そうじゃろう、そうじゃろう。転移の術式は失伝してしまったという」
長老の話を聞く限り、どうやら異世界は関係ないっぽいな。
「転移の間についてわしの知ることは以上じゃ」
「うん。ありがとう」
「皆の者! 成人の儀にてウタマロが大いなる結果を残したことに異存はないな?」
「「「「「「「「応!」」」」」」」」
長老の声も見守る村人達の返事もよく響く。
洞窟の中だってことがよくわかるなあ。
ボンボン父はまだ文句があるらしい。
「ウタマロなど、運がいいだけではないか!」
「成人の儀式でいい結果残すと、将来偉い人になるんでしょ? 運が悪い人よりいい人がえらい地位にいる方が、皆に恩恵があっていいと思うよ」
皆さん頷いとるがな。
でもウタマロもツキがねえ野郎って言われてたけどな。
「今日帰るね。またねー」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。
ふむ、クエスト完了のアナウンスはない。




