第2091話:南の帝国
――――――――――三一八日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「よーし、着いた! こここそが世界最大のダンジョンだ! 新たなる冒険の始まりだ! あたし達の行く手を阻まんとする困難を排除せよ!」
「姐御、冴えないダンジョンでやすぜ」
「そーゆーこと言わない。ムリヤリテンション上げてるんだから」
『世界最大のダンジョン』の転送先にやって来た。
アトムの言う通り、見た目は冴えない通路だ。
何とゆーかこう、『世界最大のダンジョン』という大層な看板に実態が合ってない感じがする。
まだエンタメポイントまで到達してないんだろうけどなあ。
「ユー様。予定通り、一昨日とは反対側に行くでいいですか?」
「うん、逆方向はすぐに何らかの結果が出ると思うんだ」
「レッツゴーね!」
あれ、ダンテが意外と乗り気だな。
何でだ?
「ミステリーはディープになるより解けていく方が好きね」
「ダンテはそーゆータイプだったか。あたしはどっちも好きだな」
「こっちは歩きやすいですぜ」
うむ、一昨日よりもかなり道がいい。
やはりこちら側の方が頻繁に人が通るのだと思われる。
ならば真っ直ぐ行けば、出口の外に集落か何かがあるんだろ。
聞き込んでダンジョン奥の情報が得られれば万々歳だな。
世界最大とゆー謳い文句だし、あんまり人が入ってないようだから、詳しいことはわかんないだろうけれども。
エンタメポイントを補強してくれりゃいいのだ。
「ライオンが出ませんね」
「出ないねえ。あんなんでも楽しみの一要素だったんだな」
何もないな。
おそらく出口近くには魔物もほとんど出ないってことなんだろう。
素材もないわ、儲からないのはいただけない。
でも広い通路がさらに広くなったか?
「ライオンね」
「ようやく出たか」
単独で出る黄色っぽいライオンだ。
一番よく出遭うやつ。
ん?
「ユー様、どうしました?」
「いや、まずライオン倒しちゃおうか」
出口も近いんだろうから魔物がいてはあんまり都合がよろしくないだろ、という聖女らしい気の回し方をするあたし。
威嚇してくるライオンの首をぺいっと刎ねる。
「紅葉珠のドロップです」
「ラッキーだったね」
紅葉珠は一昨日も一つ手に入れた。
が、『るんるん』を装備していて『豊穣祈念』も使ってるのに、あまり落とす気配がない。
オーガの魔宝玉ほどじゃないが、結構低い確率のドロップのような気がする。
「ライオンはどうでもいいとしてだ。おーい、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
岩に挨拶する。
うちの子達もその岩が人間の擬態であることに気付いたようだ。
「火遁・狐火!」
「おお?」
いきなり目くらましを放って逃げようとするそいつを捕まえる。
観念したかな?
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「何なんだ、お前達は! 奇怪ないでたちをしおって!」
「あたしはドーラの美少女精霊使いユーラシアだよ。うちの子達と冒険者をしてるんだ」
「精霊?」
うちの子達を見るその男。
黒目黒髪でフラットな顔立ちをしている。
筋肉質じゃないけど黄の民に少し似てるな。
年齢はどーだろ?
あたしと同じくらいじゃないか?
「……なるほど、話に聞く本物の精霊のようだ。しかし精霊は人嫌いだと聞くが」
「あたしは『精霊使い』っていう固有能力持ちで、精霊と仲良くできるんだよ」
「ほう?」
細い目を見開くその男。
「……固有能力とは数人に一人の割合で開花する、神からいただいた才能のことか?」
「多分それ。神様関係してるかな? いや、神様にもらったことあるわ」
「我々は『恵沢』と呼ぶのだ」
「へー。あんたの目くらましスキルも恵沢があるから使えるんでしょ?」
「そうだ」
ちょっと慣れてきたのか、話しやすくなってきたな。
「初めて見たスキルだったよ」
「『火遁』はさほど珍しい術ではないのだが。ああ、目くらましに使うのは拙くらいかもしれない」
「えっ? 目くらまし用の術じゃないんだ?」
『火遁』はその名の通り火系の術だが、発動効果にかなりアレンジが加えられるそーな。
代わりに消費マジックポイントは多いらしい。
「魔物への攻撃に使うことがほとんどだ」
「だろうね。でも応用利くんでしょ? 発想次第で便利な術じゃん」
「そうでもないのだ。消費マジックポイントの少ない属性魔法使いの持ちスキルのように連発できないからな」
「なるほど。数撃てないんじゃ、対魔物では厳しいな」
この男のレベルはおそらく二、三といったところ。
『ファイアーボール』なら五発以上撃てても、『火遁』だと一、二発だろう。
攻撃手段として考えるなら効率が悪い。
「何ていう恵沢なん? 差し支えなかったら教えてよ」
「『忍術』だ」
「あ、『忍術』だったか。聞いたことある」
確かエルんとこの精霊チャグが持ってるという固有能力だ。
あれ? ってことはひょっとして……。
「ここって放熱海より南だったりする?」
「ふむ? 放熱海とは北の境の海のことだな? ユーラシアは北の住人だったのか?」
「そーだよ。地図でいうとここ」
ナップザックから地図を取り出し、男に見せる。
「ここがドーラだよ」
「ほう。かなり精密な地図だな。ドーラも大きな国ではないか」
「いや、ノーマル人が住んでるの南の端っこだけなんだ。人口一〇万人ちょっとしかいない。カル帝国から独立したばっかりの、まだまだこれからの国」
「ふむ、カル帝国の名は聞いたことがある。放熱海があって……我らがシンカンはここだな」
シンカン帝国。
北のカル帝国と並ぶ世界最大の国か。
おっぱいさんがこのクエストをあたしに回してくれた理由がわかった。
『世界最大のダンジョン』だからじゃなくて、南の帝国への伝手だったからか。
実に面白いことになったぞ?
「放熱海より北では、『忍術』持ちの人はほとんどいないんじゃないかな」
「場所によって違いがあるものだな。こちらでは最も多いくらいだがな」
「国によって違いがあって面白いなあ。そーだ、あんたの名前聞いてなかったよ」
「拙の名はウタマロという。ユーラシア達は獅子の洞窟の探索に来たんだな?」
「そうそう。獅子の洞窟って言うのか。ライオンばっかり出るもんな」
「力を貸してくれないだろうか?」
「構わないぞ? 場合によっては有料だけど。まず話を聞かせなよ」
クエストの一応の完了条件かもしれないな。
ウタマロが語り始める。




