第209話:武闘皇女リリー
「魔物を追い散らすのもこれはこれでありだな」
「そうですねえ」
どーゆーわけだかこの遺跡のダンジョン、物理攻撃がスカる。
出現する魔物は弱いので、魔物が一体で出た時はダンテが『プチファイア』で倒し、二体以上の時はあたしが『鹿威し』で散らしている。
これが一番スピードとマジックポイント効率を考えたやり方だな。
とっととこのダンジョンのどこかにいる皇女を探さねば。
『皇女』と言うからには皇帝の息女、つまりドーラの宗主国カル帝国のプリンセスということだろう。
他に皇女がいるような国は知らんもん。
何故にプリンセスがドーラ西域のド田舎にいるのか。
従者の類はさっきの黒服一人だけなのか。
どうして穴に落とされてるのか。
ミステリーな点は多々あるのだが、そんなのはおいおい明らかになっていくだろう。
まずは救出が先だ。
どんどん遺跡ダンジョン内部を進む。
遺跡としては大きいけど、あんまり複雑な構造じゃないっぽい。
しばらく行くと……?
向こうが明るいな。
注意深く進むと、誰かが焚き火をしている。
無事で良かった、彼女が皇女か。
「たのもう!」
「ふあっ?」
よくこんな魔物のいるところで寝られるな。
暗めの金髪に太眉寝ぼけ顔の、年齢はあたしと同じくらいの少女だ。
ステッキ黒服を供に連れてるとは到底思えない、バリバリの武闘着を着ている。
「ハズレだ。帝国の皇女らしき気品がない」
「こらこらこらこらっ!」
武闘少女が焚き火を背にこちらに向き直る。
あ、ちょっと格好いい。
「我こそはカル帝国今上帝コンスタンティヌスの第七皇女、リリアルカシアロクサーヌなるぞ!」
「立派な名乗りだね。名前長いからリリーでいい? 食べ物とか水持ってきたけど必要かな?」
「もらっていいか?」
「どーぞ」
持ってきた干し肉と水筒を渡す。
それにしてもこの自称皇女、あたし達が何者かとか気になんないのだろうか?
「ふー馳走になった。じゃあもう一寝入りするか」
「こらこらこらこらっ!」
「何だ、何か用か?」
「寝るなら外に出てからベッドで寝なよ」
「それもそうだの」
おいアトム、この二人同類じゃねーかっての聞こえてるからな?
「リリーあんた落ちたところから随分歩いてるでしょ」
「うむ、どこかに出口があるかと思ったからな」
「あれ? でもここどーゆーわけか魔物に攻撃が効かないでしょ。どうやってこんな奥まで来たの?」
リリー皇女は見たとこレベルは高くない。
ただし魔物退治の経験があまりないだけで、拳士ないし格闘家の訓練はかなり受けているようだ。
でも攻撃魔法を使えるようには思えんし、この遺跡ダンジョンでどうやって魔物を倒してたんだろうな?
「松明を持ってたら魔物など寄ってこなかったぞ」
「おおう、なるほど」
光量強いヒカリゴケのおかげで明かり必要ないくらいだったから盲点だったわ。
「じゃあ帰るよ」
「ちょいと待て精霊使い」
「待たない。待つ理由がない」
「財宝が関わる話でもか?」
「詳しく聞こうじゃないか親友」
こらダンテ、そのふーっていうため息聞こえてるからな?
リリーがさらに奥を指差す。
「広間があるのだ。このダンジョンの中央に当たるのではないかと思う。地に大きな六芒星が描かれており、角々に宝玉が配置されておる」
「宝玉って冒険者魂を刺激する素敵な響きだな。つまりお宝をいただいて山分けってことだね?」
「いや、宝玉はぬしのものでいい。まあ見た方が早いか」
リリーの後をついて奥へ進む。
ふむ、あたしらが入ってきた井戸みたいな穴からここまで、ほぼ一本道だな。
「うわ、デカい部屋!」
「デカい魔物の方に反応しような?」
巨人だ。
だらしない体形からするとトロルかな?
クララがこそっと言う。
「トロルメイジです。大量のヒットポイントと強力なヒットポイント自動回復を併せ持ち、かなりのレベルの攻撃魔法を使ってきます」
普通ならドラゴンスレイヤー様の敵じゃないが、おかしな力場のせいで魔法攻撃しか有効ではない。
厄介な状況だな。
リリーが首を振る。
「我は魔法を使えん。物理攻撃が封じられては、きゃつと戦う術がないのだ」
「何だよ。あたしらが倒せば宝玉はあたしらのものって言いたいの?」
あんな面倒なのと戦うのはポリシーに反するんだけど。
「いや、目の前に宝玉がありながら、すごすごと引き下がるのはつまらんと思わぬか?」
「実にごもっとも」
うちの子達のあたしとリリーを見る目が同じになってる。
「宝玉だけかっぱらおう」
「なるほど面白い。五人いれば可能かもしれんな」
「ダンテ、真っ先に飛び込んで囮ね。クララは『煙玉』の用意」
「「了解!」」
最も素早いダンテが六芒星の広間に入り、トロルメイジの注意を引きつける。
あたしとリリーが遠い側の宝玉を目指す。
足の遅いクララとアトムは入り口付近の宝玉を回収した。
ダンテが二つの宝玉を持って戻り、あたしとリリーが一つずつの宝玉を持って入口に集合したところでレッツファイッ!
クララの煙玉!
「逃げるよっ!」
トロルメイジは追ってこない。
ハハッ、身体がデカ過ぎて広間入口を通れないんだろ。
よーし、目標達成だ!
「あの六芒星怪しいよね。これひょっとして、宝玉がなければ物理無効の力場も消えるんじゃないかな?」
「おお、いいところに気がついたではないか! 宝玉を使用した魔道装置かもしれぬな」
「明日もう一度あたし来るからさ、あのデカブツ倒して奥行ってみない? ステッキ黒服さんはリリーの従者なんでしょ? あの人も連れてさ」
「うむ、愉快だな」
来た道を逆に辿りながらリリーに聞く。
「リリーはさー、あたし達来た時全然警戒しなかったよね?」
「ん? 殺すんだったら放置しとけばよかろ。わざわざ魔物のいる中やってくる物好きは味方に決まっておる」
「おおう、見切りがシンプルだね」
さすがは眉毛は太くとも帝国の皇女、やるじゃないか。
「えーと、あれ、おかしいな?」
「どうした精霊使い」
「ここからロープで降りてきたんだけどさ」
最初に降りてきた位置まで来た。
昇降用のロープが垂らしてあったはずだが、引き上げられているのか見当たらない。
明確な悪意を感じるな。
リリーの従者であるステッキ黒服が目を光らせていれば、こんなことはないはずなのだが。
「ロープがない。これはもうダメかもわからんね」




