第2086話:ドジっ娘女騎士メリッサ
「一時期お父様は、私の護衛にと考えていたようなんですよ」
「ドジっ娘女騎士メリッサさんを?」
頷くルーネ。
大勢(ルーネ、リキニウスちゃん、うっかり元公爵、オードリー、ライナー君、ニライちゃん、ヴィル)を連れてドジっ娘女騎士の家に行く途中だ。
ただ絵のモデルのアポを取りに行くだけだとゆーのに、どうしてこうなった?
面白いからいいけれども。
「お父ちゃん閣下はドジっ娘女騎士をマークしてたのか。ちょっと意外」
意外でもないか。
男を従者にするのは嫌がってたから、女騎士を引き抜くという選択はありだった。
閣下が目をつけたくらいなら、実力はあるんだろう。
諦めたのはドジ加減がすごいから?
楽しみになってきたなあ。
「ライナー君にはドジっ娘のエピソードを聞かせてもらいたいな。どこぞの子爵のカツラを飛ばした事件があったとは、新聞記者に聞いたけど」
「あったね。でもあれは必ずしもメリッサが悪いわけじゃないんだ」
「そーなん?」
「ああ。パーティーの警備に入っていた時に、酔ったヨーナス殿に絡まれて振り払った際……あれは振り払ったというより手刀に近かったな。見事にカツラが宙に舞ったんだ」
「見たかったなあ」
ドジっ娘の勇姿の場面を見たかったってことだよ?
ハゲを見たかったわけじゃない。
確かにドジっ娘悪くないわ。
「ライナー君は毛髪様飛行物体を目撃できる現場にいたんだ?」
「私とメリッサは同い年でね。中規模以下のパーティーの警備は新入りに回されることが多い仕事だから」
「ああ、なるほど」
パーティーで護衛騎士がやることなんて、上役の言うこと聞いて対処するだけだろ。
おそらく騎士でも偉い人は、もっと重要な場面の警備に回される。
比較的小規模のパーティーは、新人に経験を積ませる場としてちょうどいいのかもしれない。
「メリッサの腕は立つんだよ」
「あれ、ライナー君が言うほどなら相当だね」
「女性騎士では一、二じゃないかな」
「若いのに大したもんだな。ドジっ娘四方山話を聞きたいんだけど?」
「聞きたいのじゃ!」
「聞きたいぞなもし!」
「聞きたいぬよ?」
皆ワクワクしてるがな。
リクエストに応えてちょうだい。
顔を顰めるライナー君。
「ユーラシア君の期待しているようなエンターテインメントではないが……。模擬剣による練習だったはずが持っているのが真剣だったとか、対魔物訓練でスタンピードに遭遇して命からがら逃げだしたとか。爆弾実習で火が着いてしまったが、たまたま不発弾だったという話も聞いたことがあるよ」
「おっと、一歩間違えると大惨事系か。ドジっ娘って響きからは想像できない、ヤバめのトラブルメーカーだった。要注意だな」
「ユーラシア君と同じだろう?」
「あたしは間違えないから大丈夫だわ」
そしてあたしがトラブルを起こすわけでもないわ。
まったく失礼だな。
しかしお父ちゃん閣下がドジっ娘をルーネの護衛候補から外した理由は理解した。
「じゃ、うっかりじっちゃんをライナー君とルーネでガードしてくれる?」
「む? わしをか?」
「どうしてですか?」
「ルーネはわかってるだろ。じっちゃんは災いを招きし者だからだよ。ドジっ娘が何かをやらかした場合、巻き込まれるのは十中八九じっちゃんと思われる。念のためリキニウスちゃんオードリーニライちゃんはあたしがカバーするから」
「了解だ」「了解しました」
ライナー君とルーネに任しときゃ大丈夫だろ。
……ちゃちな想像を遥かに超えた、モンスタートラブルメーカーだったらどうしよう?
なんて考えるとフラグ立ちそうだからやめとこ。
「この近くですよ」
商店街とはやや離れたところだ。
綺麗で閑静な住宅街といった感じ。
いいところだな。
「富裕層が多く住む地区だよ。買い物にも便利だからね」
「ふーん」
帝都メルエルもまた歪を内包している都市だな。
この辺りや貴族邸宅街、高級商店街なんかはすごく洗練されてるのに、一方ではスラムもあるというし。
いや、成功者と落伍者が存在する世の中では、そうした格差はむしろ自然なのかもしれない。
「この家ですよ」
「ライナー君に挨拶任せていい?」
「何故私が?」
「唯一の顔見知りじゃん。あたしがノックすると扉壊しちゃうかもしれないし」
どーも力加減が難しいとゆーか。
コンコン。
「ごめんください。どなたかいらっしゃいませんか?」
がらがっしゃーんとすごい音が中から聞こえるけど無視することにする。
中から扉が開けられるとそこには……。
「やはりライナーの声か。ようこそ。連れが多い……あっ、グレゴール様!」
「やっぱじっちゃんが一番顔が売れてるなー」
伯爵令息ライナー君の方がずっと身分は上のはずだけど、騎士で同期だと呼び捨てなのかな?
うっかり元公爵が軽く手を振る。
「よいよい、騎士メリッサよ。今日わしはただの供なのだ」
「供? ど、どういうことでしょうか?」
「紹介しよう。ヤマタノオロチ退治の勇士ユーラシア君」
「ええっ? あの有名な?」
「リキニウス皇子殿下とその婚約者ラグランド王女オードリー殿下、ルーネロッテ皇女殿下、私の妹のニライカナイだ」
「どどどどどどういうことでしょうか?」
「『ど』の数が多くなったね。これあげる」
ナップザックから画集を取り出し、ドジっ娘女騎士に渡す。
「これは……知っている。話題の画集だな?」
「そうそう。この画集の帝国版を出そうってことになったんだ。新聞の購読者アンケートでメリッサさんの人気が高くてね。モデルをお願いしに来たんだよ」
「ええっ?」
「皇族や大貴族に足を運ばせて、まさか断るなんてことないよね?」
「いえいえ、そんな……」
アワアワするドジっ娘女騎士。
騎士だけに均整の取れた身体で姿勢もいいし、黙ってりゃ正統派の美人さんだ。
が、かなり面白い。
背はあたしより一ツカ以上高いな。
女性としてはかなり大柄だ。
ライナー君と大して変わらん。
「たたたたた……」
「立ち話も何だから中へどうぞって? お邪魔しまーす」
「ななななな……」
「何でわかるかって? あたしはカンがいいから」
「すすすすす……」
「隙がない上に美しくて可憐で品があるって? まいったなー」
「少し待ってくれ! 片付けてくる!」
うむ、相当面白い。
あんまり急がなくていいから、二次災害ぶっ込むんじゃねーぞ?




