第2084話:魔王島の開拓はこれからだ
フイィィーンシュパパパッ。
「ここが?」
「魔王島でーす!」
「魔王島だぬよ?」
ザップさんクオンさんとともに魔王島に戻ってきた。
クオンさんが頷きながら周りを眺めまわしている。
「広い!」
「そりゃまあ。逆に人がいないとゆーか魔物はいるとゆーか」
「おお、遥かなる大地よ! 我らに希望と勇気を賜らん!」
「おいこら、他人の話を聞け。いや他人の話はどうでもいいけど、あたしの話は聞け」
「ユーラシア様」
「あ、レダか。ぎゅー」
ついでにヴィルもぎゅー。
ちょっと顔を赤くするレダ。
可愛いやつめ。
「そちらは新顔の方ですか?」
「ザップさんの知り合いのクオンさんだよ。聖グラント在住の。魔王島に流れ着いた人達がどうしてるのか、様子が見たいって」
「そうでしたか。御奇特なことです」
「こちらは魔王配下の悪魔の一人レダだよ。レダもとってもいい子」
「美しいな。天使のようだ」
「……前半にはお礼を申し上げておきます」
怪訝な顔をするクオンさん。
まー説明は必要か。
「天使の見かけってのは、レダを一〇歳くらいに成長させたような感じなんだ。だからレダが天使そっくりってのは合ってるんだけどさ。悪魔と天使は敵同士。悪魔に対して天使のようだってのは褒め言葉になんないから」
「そうだったか。失礼した」
「いえいえ。お気になさらず」
「悪魔はかなり個性豊かだよ。レダは温厚で滅多なことじゃ怒りゃしない。だから漂着民番してるんだろうけど、他の悪魔はそうもいかないから注意ね」
「お、おう」
いや、心中褒める意図があったってことはレダもわかってるだろうから、そんなに恐縮しなくてもいいと思う。
クオンさんが問うてくる。
「ヴィルちゃんも魔王の配下なのかい?」
「いや、ヴィルはうちの子。魔王とは関係ないよ」
「わっちの御主人は御主人だけぬよ?」
「ふうん。ヴィルちゃんも可愛いな」
「ありがとうぬ!」
本来悪魔は自分勝手だから、悪魔同士は仲悪いものだなんて言うと混乱しそうだ。
悪魔慣れしたところで話してやろ。
「クオンのおじさん?」
「おお、チビどもか。久しぶりだな。元気してるか?」
漂着民の子供達が集まってきた。
皆嬉しそう。
「どうだ。ここでの生活は楽しいか?」
「「「たのしい!」」」
「そうかそうか」
「あのね? あくまのみなさんはやさしいんだよ。まものをやっつけてくれるの」
「そういう契約ですからね」
「ちょっと確認しとくけど、魔王島のノーマル人が増えるのは構わないんだよね?」
「もちろんです。ノーマル人とは増えるものだと魔王様は認識しておりますので。我ら高位魔族を崇めてくれる分には問題ありません」
都合がいいっちゃいいけど、どんな認識だ。
ノーマル人はやたらと繁殖力が強いと魔王が言ってたのを思い出したよ。
おまけに魔王はそれをノーマル人の長所認定してたしな。
いや、長所なのは間違いない気がするけれども、どーも素直に頷けないとゆーか。
「ザップ、税金のない肥沃な大地。魔王島は素晴らしい場所じゃないか。問題はないのか?」
「やはり最大の問題は魔物だな」
「うーん、魔物はネックだな。魔力濃度が若干高いせいだと思う。今は悪魔が魔物を倒してくれるから大丈夫。だけど集落が大きくなってくると、手が回んなくなるかも。悪魔の数は限られてるから」
「いずれは我らで魔物を倒せるようにならねばならんな」
「魔王島の一番弱い魔物倒すんでも、レベル一五以上の人が数人は必要だぞ? だからとっても難しい。まあどうにでもなるけど」
「「どうにでもなるのか」」
呆れたようなザップさんとクオンさんの声がハモる。
いや、今の段階で漂着民が自分でレベル上げしようとするのは現実的じゃない。
何故ならレベル上がる前に死んじゃうから。
でもザップさんを新『アトラスの冒険者』にしてやればいいんじゃないかな。
塔の村ならレベル上げられるし、買い物もできる。
魔王島での暮らしがより快適になるよ。
もちろんあたしがレベル上げしてやってもいいし。
「外の世界とほぼ隔絶されているのも問題だな。ユーラシアがいないと誰とも連絡が取れない」
「古い船着場が一ヶ所あるんだ。おそらく大昔魔王島に来た移民が作ったものだと思う。気長に待ってりゃたまに流れ着く人がいるんじゃないかな。まあでも外と連絡取るのなんてどうにでもなるけど」
「「どうにでもなるのか」」
だからザップさんを新『アトラスの冒険者』にすれば解決だとゆーのに。
でも魔王島の暮らしを確立する方が先だから。
「どうしても緊急の用がある場合にはレダに頼んでね。レダはドーラ人冒険者の集まるギルドまでワープできるんだよ」
「はい、私が承ります」
よしよし、ヴィルとレダをぎゅーしたろ。
「思ったよりちゃんと暮らしてるようで安心した」
「まあな。でもオレ達は町暮らしだったろう? 農業の経験者はいねえんだ。作物がきちんと実るのか不安ではある」
「そうか……そうだな」
「足りねえものは山ほどある、しかしもし魔王島の話を広めてくれるなら、農業経験者に当たってくれるといいな。まずは耕作からだ」
「ああ、わかった」
「こっちも冬を越してみないと要領がわからん。移民が来てくれるなら畑を整備し始める来年の春先が望ましい。初年度の受け入れは二〇人くらいが限度だと思う」
「妥当だな。よし、俺も心当たりに声をかけてみよう」
「よろしく頼む」
うむ、これで魔王島も発展しそう。楽しみだなあ。
「話が広がる内に、魔王島を見てみたいというやつは出てくると思うぞ? 何とかならないか?」
「連れてきて見せりゃいいよね?」
「頼めるか」
「うん、構わないよ。一月半後、星風の月に入ったくらいでどうだろ? その頃にはトウモロコシの収穫ができると思うから、今より状況がわかりやすいと思うよ」
ザップさんが誇らしげに笑う。
太陽の恵みを受けてトウモロコシの苗が急激に大きくなってきているのだ。
地味が肥えてるんだなあ。
時間がないからとにかく種蒔いとけって感じだったのに、上手に育ってよかった。
来年は肥料分を足さないとね。
「希望が持てる大地を知ることができてよかった」
「だろう? 魔王島の開拓はこれからだ」
「じゃ、そろそろクオンさんを帰そうか。ヴィル、さっきのクオンさん家に飛んでくれる?」
「わかったぬ!」




