第2073話:アグレッシブな気がする
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君いらっしゃい」
皇宮にやって来た。
サボリ土魔法近衛兵が興味津々の様子だ。
何がどうした?
「今からペルレ男爵家邸へ行くんだろう?」
「うん。おっぱいピンクブロンドと話をしてみたくてさ。淑女の仮面を引っぺがしてやるのだ」
「アハハ、美しい令嬢だよな」
「おっぱいピンクブロンドはあんまり評判良くないらしいじゃん? でも昨日チラッと喋った感じでは、特に邪気を感じないんだよね」
「邪気って」
もちろん魔物の持つ狭義の邪気ってことじゃない。
よろしくない性根くらいの意味。
「あたしのカンは大体当たるのだ。悪い子じゃないな。誤解されてる部分が多いんだと思う」
「ルーネロッテ様を連れていくと聞いたが」
「そうそう。ルーネもおっぱいピンクブロンドにあまりいい感情を持ってないみたいでさ。ルーネも誤解してると思うんだよね」
「昨日ルーネロッテ様は、ハンネローレ嬢とビアンカ嬢にも声をかけていたんだ」
「えっ? おっぱいピンクブロンドん家に遊びに行かないかって?」
「ああ。両者にもペルレ男爵家にも了解がもらえているそうだよ」
「迷惑じゃない?」
単に人数が多くなるだけではない。
ルーネは皇女だし、ハンネローレちゃんは侯爵令嬢、ビアンカちゃんは子爵令嬢と、おっぱいピンクブロンドより格上の家だ。
気詰まりじゃないだろうか?
「ふうん、君がそういう心配をするとは。迷惑とか考えるんだな」
「あたしを何だと思っているんだ。気配りの美少女精霊使いだとゆーのに。ま、いーか。先方が納得してるならべつに構わんだろ」
「断れないってこともあるけどな」
「そーだった。あたしは平民だから断れるけど、貴族だと上の人には逆らえないもんな」
「普通平民は貴族の依頼を断れないものなんだよ!」
「美少女ドーラ人に帝国の理屈は通用しないのだ」
アハハと笑い合う。
ドーラには身分の差がないからとゆー理由をあたしはよく使うけど、まことに都合がいい。
あたしはドーラ人でよかった。
どこへ行ってもタメ口で無礼を咎められない。
「でもルーネの行動にしてはアグレッシブな気がするな? 何か言ってた?」
「いや、わからない」
閣下が固有能力『魔魅』を手放すという決断を下したことが、ルーネの心境にも影響を及ぼしたか?
穿ち過ぎか?
「ルーネロッテ様に直接聞けばいいじゃないか。それも気配りなのかい?」
「ん? いや、気配りってわけじゃないな。周りから感じ取れる変化があるのかなと思っただけ」
内面に関しては踏み込んじゃいけない領域があるからね。
あたしには進入禁止のエリアはないだろって?
あるわ!
踏み込んだあとで損しそうな領域には近寄らないわ!
「ところで帝国本土と東方領のこと教えてよ」
「バルリング伯爵家領やペルレ男爵家領に関連してだな?」
「そうそう。あたし帝国の歴史はよく知らんからさ」
バルリング伯爵家領やペルレ男爵家領は、地図で見ると帝国本土の東端にある。
ただもっと東にウルリヒさんとこ等の東方領があるからな?
サボリ君が言う。
「帝国本土と言われている地域は、開祖帝崩御時のカル帝国領とほぼ一致するということは知っていたかい?」
「帝国本土とは建国時の領域だって、誰かに聞いた気がするわ」
「ああ、その理解でもほとんど変わらないな。とにかく帝国建国の初期には、東に強力なライバル国があった。国境の地域、特に海に面していたバルリング伯爵家領は非常に重要な地だったと考えられるね」
「うんうん、わかるわかる」
「君は戦争が嫌いだと聞いてるけど?」
「あたしは戦争が好きじゃないけど、国境防備の重要さくらいはわかるわ。こっちの言うこと聞かない他人に好き勝手されるのは大嫌いだわ」
「清々しいほど我が儘な真理」
我が儘は聖女の属性の一つだからね(うそ)。
「建国当時は東方兵団が駐屯していて、バルリング伯爵家の当主には緊急時の指揮権も与えられていたんだよ」
「ふーん、大きな権限だねえ」
「東方が征服されると。征東帝の次男がカルテンブルンナーの姓を与えられエッセンミッテに封じられた。また東方兵団の幾人かの将軍や、バルリング伯爵家の分家が叙爵した」
「伯爵家が昇爵という話はなかったのかな?」
「あったかもしれないね。当時の状況はわからないけれど」
肩を竦めるサボリ君。
「東方が征服されれば、帝国政府の関心は当然東方経営になる。本土最東端は片田舎に転落ってことさ」
「なるほどなー。ただでさえ田舎領の経営は難しいだろうに、急に立場が変わると一層大変だな」
「だろう?」
「他人の心情を顧みて小さな胸を痛める聖女浪漫」
「小さい胸だぬ!」
アハハ、この掛け合いは大好きなので、何度でもやってしまう。
バルリング伯爵家領にとって東方兵団はいいお客さんだったろうし、おそらく敵国警戒のために補助金も出てたろうしな。
当時はすごく豊かな領地だったろうけど、東方征服後の政府の方針や状況の転換についていくことが難しいことは自明の理。
現在もうまくいってると言いがたいからおゼゼに苦労しているんだろう。
そしてバルリング伯爵家領の景気が悪ければ周辺領にも響く、か。
「大体わかった。ありがとう」
さて、近衛兵詰め所に到着だ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「ユーラシアさん!」
ルーネとヴィルが飛びついてくるいつものやつ。
よしよし、いい子達だね。
「おっぱいピンクブロンドん家行くけど」
「あっ、少し待ってくださいませ。ビアンカ様がいらっしゃるのです」
「聞いた聞いた。ハンネローレちゃんとビアンカちゃん誘ったって? ハンネローレちゃんはともかく、ビアンカちゃん連れてくのはチャレンジャーだなー。何か理由があった?」
おっぱいピンクブロンドはビアンカちゃん公開婚約破棄事件の一因やんけ。
いや、一番悪いのは婚約破棄と言い放ったA太だけれども。
「特に理由はないですけど、面白そうじゃないですか」
「その通りだね」
エンターテインメント追求の姿勢の現れだったか。
これは責められないが、若干攻め過ぎな気がしなくもない。
あ、ビアンカちゃんも来たな。
「皆様、御機嫌よう。お誘いありがとうございます」
「いらっしゃーい! 行こうか」
「はい!」
ペルレ男爵家邸へゴー。




