第2065話:近衛兵詰め所で待っているのは
――――――――――三一五日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」
皇宮にやってきた。
サボリ土魔法使い近衛兵が言う。
「今日は魔道研究所に行くんだろう?」
「行く行く。ヴォルヴァヘイムを探索してわかったことについて報告しとこうかと思って」
「グスタフ様とゴットリープ様、マイケ嬢が詰め所にいらしているんだ」
「えっ?」
何で?
その三人の組み合わせだと……グスタフさんにチラッと話したことがあるな。
おっぱいピンクブロンドがグスタフさんの息子A太に近付いたのは、商売上の思惑があるからかもしれない。
ウルリヒさんとこの領地の港町キールが帝国直轄領になり、東方貿易の活発化が予想される。
おっぱいピンクブロンドんとこの男爵家と仲良くしとくと、交易商品の品揃えを充実できるかも、と。
「実は昨日の午後にグスタフ様がいらしてね。ウルリヒ様と君に礼が言いたいということで、連絡が取れないかと」
「フットワークの軽い伯爵様だなあ。やっぱ商売関係で男爵家と手を組むことにしたみたいだな。礼なんかべつにいいのに」
「雨がやんだら君が来るだろうと伝えたら、何故かゴットリープ様マイケ嬢と連れ立っていらした」
「マイケ嬢ってのはおっぱいピンクブロンドのことだっけ? ゴットリープさんというのは、おっぱいピンクブロンドの父ちゃん?」
「ああ、そうだよ」
「何でその流れでA太が来ないのよ?」
「A太とはエリアス様か? 知らないけど、君、エリアス様に興味ないだろう?」
「ないけれども、A太があたしに興味ないのは癪に障るだろーが」
「我が儘だなあ」
「我が儘で癪に障るんだぬ!」
違うわ、我が儘が癪に障るんじゃないわ。
「おっぱいピンクブロンドには会いたかったんだ。画集のモデル頼まなきゃいけなかったし」
「マイケ嬢の絵は楽しみだなあ」
「どうやら悪の令嬢枠みたいだけど」
「性格まで描写されるわけじゃないだろう?」
「うーん、やっぱりおっぱいピンクブロンドは性格悪いと見られているんだ?」
「世間一般の評判は外見だけの令嬢だと思われているね。しかしグスタフ様が貴族の気品と侍女の気遣いを併せ持つと評していたろう?」
「あたしも引っかかるのはそこなんだよなー」
「気が強いのは確からしいんだ。他には真実と言い切れる明確な情報がない」
美人なのも確かじゃん。
男を誑かす令嬢という噂が先行しちゃってるってことだな?
真の姿を隠せるとなると、いよいよもってできる子と思わざるを得ないが?
「おっぱいピンクブロンドって何歳なん?」
「一七歳だと思う」
「あたしより一つ上か」
さて、近衛兵詰め所に到着だ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「おお、ユーラシア殿。こちら男爵ゴットリープ殿とマイケ嬢だ」
「よろしくお願いしまーす」
「よろしくお願いしますぬ!」
軽く握手。
ゴットリープさんは堂々たる体格だ。
やる気に満ち溢れてる感じ。
おっぱいピンクブロンドはちっとも表情が崩れんな?
口元を隠してることもあって、何考えてるかよくわからん。
「お肉お土産に持ってきたんだ。焼いて食べようよ」
「ゴットリープ殿、あの肉は絶品ですぞ」
「ほう、肉は好物なのだ。楽しみだな」
ゴットリープさんは体形からして健啖家なんだろう。
お肉を近衛兵に渡す。
「ゴットリープ殿と生産・流通についての提携を結ぶことになったのだ」
「おめでとうございまーす。結局ゴットリープさんが売りたいものって何だったの?」
「これだ」
ガラスの器?
あっ、切れ込みとかすごい綺麗。
ゴットリープさんが言う。
「我が領の職人が作り出したものだ」
「とても美しいねえ。お茶とかハーブティーとか入れたら映えそう」
「それはユーラシア殿に差し上げよう」
「ありがとう!」
「バルリング伯爵家領で取れる砂が材料として最適でな。値を吊り上げられてはかなわんのでどう交渉したものかと思ったら、グスタフ殿の方から歩み寄ってきてくれたのだ。聞けばウルリヒ殿とユーラシア殿にけしかけられたという」
「砂だったのか。いや、砂がどうこうってのはわかんなかったよ。港が目的かと思ってたんだ」
「もちろん交易にかかる料金も大きな問題だが」
「バルリング家にとっても砂が売れ、交易品が増えて港が活性化するのは万々歳だ」
「ウルリヒ殿にもお礼を申し上げたいのだが、いつ頃帝都にみえるだろうか?」
「どーだろ? ヴィル何か聞いてる?」
「今月中にキールを直轄地として帝国政府に引き渡すことを目標としているぬが、少し遅れそうだぬ。その後北の編入予定地と移民のことで、御主人と相談したいと言っていたぬ。だから帝都に来るとしても社交シーズンになってからだと思うぬ」
「だって」
グスタフさんとゴットリープさん、相当驚いたみたいだな。
「かなり詳しい、まさに今の情報ではないか。悪魔とはここまでの使いができるものなのか?」
「いや、ウルリヒさんとこ遠隔地だから、時々様子見てきてってヴィルには言ってあるの。で、ウルリヒさんも悪魔に抵抗ない人なんで、色々教えてくれるんだと思う」
「そうぬよ?」
「実に有用だな」
「まさしく」
ヴィルは実にいい子なのだ。
皆さんのところにも使いで飛ばすかもしれないから、ぜひよく知ってもらいたい。
「それでマイケさんだけど」
「さん付けなのか? ユーラシア殿はリリー様やルーネロッテ様に対しても呼び捨てだろう?」
「あたしより年上って話だし、呼び捨てするほど親しくないし。何よりおっぱいの存在感がちゃん付けを許さない」
爆笑。
あ、さっきからピクリとも動かないで人形みたいだったおっぱいピンクブロンドに、ようやく反応があった。
「明日男爵邸に遊びに行ってもいいかな?」
「ふむ、マイケに興味がおありかな?」
「相当面白いから、もうちょっとよく知りたいの」
婉然と微笑むおっぱいピンクブロンド。
今まで会った誰よりもお貴族様の令嬢っぽいなあ。
男爵って格が下の方のはずなのにな?
「もちろん構いませんわ」
「やたっ! 午前中にヴィルと、多分ルーネも連れていくと思う」
「お待ちしております」
明日は剣術道場休みの日だから、きっとルーネも行きたがると思うのだ。
香ばしい匂いがしてきた。
お肉食べたら魔道研究所行こっと。




