第206話:海の王国で買い物
フイィィーンシュパパパッ。
お土産のお肉(ただし解体前)を携え、海の王国にやってきた。
女王が訪問したら鳴らせと言っていた銅鑼の前に立つ。
大きな丸い金属に文様が刻まれている銅鑼だ。
ケイオスワードなのかな?
何らかの魔力的な効果を期待してるんだろうか?
「えーと思いっきり鳴らさないといけないんだっけ? この銅鑼」
「マスト……ね?」
「でも、音小さいと聞こえねえよなあ」
「……」
クララは何も言わない。
どうせ何を言ってもあたしがガンガン鳴らすことを、今までの経験で熟知しているからだろう。
さすがクララ。
「でもこの銅鑼、何とゆーか不思議な感覚を呼び覚まされるね。手頃なお尻があるとひっぱたきたくなるよーな」
私を叩けと銅鑼が訴えかけてくるような感じなのだ。
たとえ言葉が通じなくとも、この銅鑼は叩いて用をなすものだって本能的に理解できるな。
「わかるような……」
「わからねえような」
「レッツスパンクね」
「よーし、いくぞお!」
こんなところで逡巡してても時間のムダだ。
思いっきり銅鑼を鳴らせ!
「グオングオングオングオングオングオーン!」
おお、とても気持ちのいい音が鳴る。
どれ、もう一回。
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「クセになるねえ、これ」
ウオンウオンと心を揺さぶる唸りだなあ。
さらにもう一回。
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「何事じゃっ!」
女王が鬼気迫る声とともに転げ出てくる。
「あたし参上! お肉持ってきたぞーっ!」
「まことか!」
「まことだよ」
「うほうほーい!」
女王大喜び。
ヒラヒラと舞い踊る様が優雅だなあ。
あ、今頃になって衛兵が集まってきた。
女王が真っ先に飛び出てくる警備体制ってどうなんだ?
「この前より多めに持ってきたよ。衛兵さんに運んでもらう?」
「うむ。これ、調理場へ運んでたもれ」
「「「はっ!」」」
衛兵達がえっちらおっちらコブタマンを運んでいく。
五トンもあると結構な量だからな。
へっぴり腰が笑える。
「銅鑼は一回だけ鳴らせばよいからの」
「一回で十分なんだ?」
まあ来たことを知らせるだけだもんな。
でもあんまりいい音が鳴るもんだから。
ついガンガンサービスしちゃった、てへっ。
「して、今日は何用じゃ? 何か食していかんか?」
「いや、今日は買いものに来たんだ」
「買い物? ああ、素材か?」
以前来た時のことを覚えててくれたらしい。
「そうそう、今ちょっとお金あるから買っていこうかと思ってさ。この前の『大王結石』ありがとうね。すんごい役に立つパワーカードになった」
「さようだったか。わらわも嬉しいぞよ」
「あとフルコンブ塩も欲しいな。フルコンブを粉にするの面倒で」
女王が困ったような顔をする。
「フルコンブ塩は販売しておらんのじゃ。わらわしか使わぬのでな。ああ、よいよい、肉の礼にわらわのを一ビンやろう」
「ありがとう。でも女王しか使わないって何で? 高級品だから?」
「高級ということもあるが、あの塩を振って魚を焼こうとするとコンブが焦げてしまうじゃろ? 煮込み料理ならコンブを別にたっぷり入れたほうがよい。あの塩が一番合うのは、肉を焼いたあとに振りかけることなのじゃ」
「聞かなきゃわからんことはあるもんだねえ」
地上なら目玉焼きにもピッタリだろうし、大体海藻自体が手に入りにくいから活躍の場は多いんだろうけどなあ。
でもフルコンブはじめ海藻の扱いは、どうやら地上との交易が始まってから決めることになりそうだな。
「では、わらわが商店街を案内しよう」
「え? いいよいいよ。あたしらは適当に商店街回って帰るから、女王はお肉を独り占めしてなよ。もうすぐ焼けてくるでしょ?」
わかってるぞ。
さっきから調理場に意識が行ってるだろ?
「さ、さようか。ではわらわは失礼する。ゆっくりしていってたもれ」
「じゃねー。女王こそごゆっくり」
そそくさと女王が立ち去る。
「さて、行こうか」
五番回廊を歩いて商店街へ。
「いい匂いがするねえ。軽く何か食べていこうか」
串焼きの魚もおいしそうだな。
「こんにちはー。これは何かな?」
「お、あんたは女王様の御友人だね? これは白身魚の切り身に塩を振って、油で素揚げしたものさ」
「うまそーだな。四つちょうだい」
「あいよ、毎度っ! すぐ揚げるから待ってな」
揚げたてを食べさせてくれるらしい。
こういうものは熱々の内にかぶりつかねば。
「ハフハフ。おお、美味いじゃねーか」
「思ったよりボリューミーね」
「植物油じゃなくて魚油で揚げているからだと思います」
なるほど、海底じゃ衣材の小麦粉も植物油もないから、同じ揚げ物でも地上のと印象が違うんだな。
食文化の違いって勉強になる。
「魚のおいしさは地上の人にも知ってもらいたいねえ」
頭がついてるとグロテスクと思う人もいそうだけど、切り身のフライなら絶対ウケるだろ。
どうにか交易の手段を考えたいものだが、いいきっかけがない。
チャンス待ちだな。
「ごちそーさま。素材屋さんは、と」
一本奥の通りへ入ったところへ行く。
「あったあった。こんにちはー」
「へい、らっしゃい」
奥から店主であろう魚人が出てくる。
あたし達を見て驚いたようだが、すぐ合点がいったようだ。
「ああ、陛下の御友人ですな。素材の御用向きですか?」
「そうそう、どんなのがあるの?」
「こちらになりますよ」
「皆まとめ売りなんだ?」
店主は頷く。
「御希望があれば単品でお取り置きしておきますが、割高になりますよ」
ふむふむ、面白い。
まとめ売りするならレア素材じゃないんだろう。
ならあたし達も数があった方が嬉しいな。
「海底ではどういう人が素材を買うんだろ?」
「研究者や職人、アーチストですかね」
「ふーん。あたし達も少し欲しいな。おいくら?」
「ランダム二〇個入りで五〇〇ゴールドになります」
「二〇〇〇ゴールド分ちょうだい」
どうせアルアさんところで売るので気軽に。
アトムからクレームが入る。
「姐御、数のキリが悪いですぜ。一〇〇個買っていきやしょう」
「じゃ二五〇〇ゴールド」
「へい、毎度あり!」
素材屋を後にする。
今日の用は終わりだな。
「さて、帰ろうか」
「女王様に挨拶していかれますか?」
「いいよ。お腹一杯で満足してるだろうし、気使わせちゃ却って悪いから」
転移の玉を起動し帰宅する。




