第203話:五〇日目の記念日
「ラブい話でもないんだけど。魔境で共闘してもらったんだ。多分あたしが可愛いから」
「剣士のキーンさんと魔法使いのヤリスさんだよな? 俺もマウ爺とデミアン以外の上級冒険者とはあまり話す機会がないんだが」
「そーいえばお兄さんズの名前は知らなかった」
「おい」
ダンは絡みのない人までよく知ってるなー。
ところでデミアンって誰だ?
あたしがお兄さんズの名前を知らなかったのは、まだ冒険者になってからあんまり日が経ってないからだ。
共闘した時に聞けばよかったろうって?
細けえことはいーんだよ。
「つい四日前に魔境来たばかりなんだろう? 常識外過ぎて、何と言っていいかわからん」
「いやいや、超常的に可愛いだなんて褒め過ぎ」
「「褒めてない」」
あらお兄さんズったら恥ずかしがっちゃって。
大々的に持ち上げてくれたって構わないのに。
ダンが口を挟む。
「ユーラシアは常識外ばっかりだぜ。気付いてるだろ、さっき飛びついてた幼女、あれはこいつが飼いならしてる高位魔族だ」
「いい子だよ?」
「いい子ぬよ?」
二人の上級冒険者が、いつの間にかダンに頭を撫でられているヴィルを見つめている。
ダンの側は居心地がいいんだろうな。
ヴィルも気持ち良さそうに撫でられている。
「つい一昨日だって、ラルフっていうギルドへ来たばかりの緑髪の新人冒険者を魔境へお供させてボロボロにしてたな」
「ダンにも責任の半分はあるだろーが」
ラルフ君のギルカでフレンド申請させて、ムリヤリついて来たの誰だ。
……ラルフ君どうしたかな?
魔宝玉をたくさん稼いだことに浮かれてて、すっかり頭から飛んでたわ。
「おまけにこいつ自身も、冒険者になってまだ二ヶ月経っちゃいねえはずだ」
あたしの三日後輩であるソル君が頷く。
「ちょうど今日『アトラスの冒険者』になって五〇日目の記念日だ! おめでとうあたし!」
「五〇日でレベル五五っておかしいだろ」
「「「「「五五!」」」」」
一斉に皆から声が飛ぶ。
「ユーラシアさん、レベル五五なんですか?」
「いや、当然か。ドラゴン倒すんだもんな……」
「先ほど話していた、人形系レア魔物を簡単に倒すためのパワーカードの恩恵か?」
「うん。とにかく借金返そうと思って、デカダンスとクレイジーパペットを狩りまくってたんだ」
「きっと調子に乗り過ぎてたんだぜ? さっき聞くまで自分のレベルすら把握してなかったんだ」
「もーいらんことゆーな!」
恥ずかしいだろうが。
いや、美少女が恥ずかしがってるところを見たいとゆー需要かな?
剣士のキーンさんと魔法使いのヤリスさんが話す。
「この子と魔境で共闘した時、俺ら初めてクレイジーパペットっていう人形系レア魔物を倒すところに立ち会ったんだよ」
「うむ、えらく易々と人形系を倒せるものだと感心したが、今は四日前以上なのか?」
「今は特にスキルとか使わなくても、ノーコスト一撃で倒せるようになったよ。そのためのパワーカードがこれ。今朝手に入れたんだ」
『アンリミテッド』のパワーカードを見せる。
上級冒険者の中には特に下準備なしで人形系を倒せるスキルを持ってる者もいるだろうけど、ノーコストで倒せるのはあたし達だけかもしれないな。
コルム兄に感謝だ。
「ノーコスト一撃でって……」
「ただの通常攻撃でデカダンスを倒せるのか……」
お兄さんズが唖然とする中、ソル君とダンが口々に言う。
「ユーラシアさんならすぐレベルカンストするでしょう」
「一〇日以内とかな」
「ノルマみたいなレベル上げはつまらんからいいや。今日たくさん魔宝玉手に入れたんで、焦ってレア魔物狩らなくてもいいし。新しいクエストと、魔境の行ってないところの踏破の方が興味あるかな」
マウ爺が聞いてくる。
「嬢はチュートリアルルームの係員と仲が良いのじゃったかの。そちらで何か面白い話はあるか?」
探られてるのかな?
マウ爺の眼差しからは何を考えているかわからない。
異世界どうこうってことは話しづらいし……。
「クエストに関することは特にないなあ。係員バエちゃんはお肉大好きの肉食女子なの。御飯にお邪魔する時には、大体コブタマンのお肉をお土産に持っていくことにしてるんだ」
チュートリアルルームに行ったことのないダンが聞いてくる。
「バエちゃんってのは美人なのかい?」
「スリムな方ですよ」
「そこのハンサムな二人のお兄さん達が言い寄る程度には」
「「言い寄ってない!」」
慌てて否定するお兄さんズ。
あたし達のノリに慣れて欲しいなー。
「チュートリアルルームか。一度行ってみてえな」
「うちは転移の玉の人数制限に引っかかるから、ピンクマンに連れていってもらいなよ。お金持ってればスキルスクロールを買えるよ」
「スキルか……」
お、意外と真剣に考えてるか?
ダンの分際でスキルには興味があるらしいな。
でもダンも中級冒険者くらいのレベルにはなってるのだ。
誰かのフォローに入るんでも、スキルの一つや二つは覚えてていいんじゃないの?
「皆に頼みがあるんだけど。ラルフ君が冒険者辞めないように協力してくれないかな? あたし責任感じちゃってさあ」
皆が口々に言う。
「ラルフ? 今日も見たけどフヌケだったぞ?」
「よかった、ギルドには来てるんだ」
「緑髪の新人じゃな? 嬢が何を感じているかは知らんが、あやつはダメじゃろ」
「ユーラシアさんが拘るような男とは思えないんだが」
おーおー、散々な言われようだなラルフ君。
もっともやる気のないやつが紛れ込むと気が萎えるってのは、あたしもよくわかる。
「ラルフ君が辞めると、バエちゃんの給料の査定が下がっちゃうんだって」
「バエちゃんに対する責任かよ!」
全員がもれなく苦笑する。
「ラルフを玩具してフヌケにした責任は俺にもあるしな。『ドラゴンスレイヤーの弟子』って持ち上げといてやるぜ」
「ダンはあたしに対して迷惑とか考えないのかよ」
あんまり『ドラゴンスレイヤー』って言われると背中が痒いわ。
弾みでドラゴン倒しただけだから居心地悪いんだよ。
アンセリがそわそわしながら話しかけてくる。
「ヴィルちゃんをぎゅーしていいですか?」
「いいよ。二人で挟み込んでぎゅーしてやって」
「「ふたりでぎゅー」」
「ふおおおおおおおおお?」
笑いの中で夜は更けてゆく。
今日は濃密で充実した一日だった。
祝・ドラゴンスレイヤー。
特に緊張感もなく。




